Re-Genesis
a disastrous summer
機動戦艦ナデシコ 2次小説
Author : Veneficus
間章『最悪の夏』 B Part
1.
個人的な会食をいたしましょう。
そう誘ったのは、アクア・クリムゾンのほうからだった。
それは明らかに周囲を外して会話がしたいという表明だ。クリムゾン財団は彼らにとって最大の支援勢力である以上、その提案を断ることはできなかった。
エマニュエル・ガドナス火星植民都市連合大統領はヘラス市でも最上級のレストランでアクア・クリムゾンを迎えた。食材はアクアが地球圏から持ち込んだものだが、調理人は火星でも指折りのコックたちだ。アクアが普段接している料理と比べて遜色はないはずである。少なくとも、形式はアクアに対して礼を失したことにはならないだろう。もちろん、アクアも火星側が対応を誤ったことにならないよう、クリムゾン側から食材を提供しているわけで、多少の料理の質は織り込み済みだった。
一通りのコースを終え、デザートワインを楽しみながら、アクア・クリムゾンが告げた。
「さきのお話の航宙母艦を2隻。クリムゾンでご用立てさせていただきますわ」
思わず、口にしたワインを吹き出しかける。
ガドナスは驚きに目を見開いて、アクアを見つめた。アクアはそんなガドナスの様子に鈴が鳴るような綺麗な笑い声を上げる。
「あら、それほど意外ですか? 先ほどの相談は私たちの航宙機母艦の建造をどういう方向に進めればいいのかという疑問に、とてもよく答えていただけましたもの。私どもの造船所であれば、あれぐらいの中型空母2隻、そうですわね、4ヶ月ほどいただければご用意させて頂けますわ。あとのボソン・ジャンプ関連の艤装は火星で。
クリムゾンは新造航宙母艦のテストベッドを手に入れ、火星は必要な戦力を受け取る。とてもよい関係といえますでしょう?」
「だが、しかし、それではあまりにも」「ええ。もちろん、ただそれだけというわけにはいきませんわね」
くすりと可愛らしくアクアが微笑む。
「テンカワ・アキトをお譲りくださいな。それが2隻の航宙母艦の代金ですわ」「な!!」
がたんと椅子が倒れる。ガドナスは思わず立ち上がってテーブルに右腕を強く叩きつけた。
「我々に彼を売れと仰るのですか!」「うふふ・・・」
アクアはゆっくりと肘をついて、顎を乗せた。
「私は欲しいものを手に入れるのに手段は選びませんの」
そうして、アクアは悪女っぽく見えるようウィンクして見せた。
説明用の大きなスクリーンに映し出されたのは、コンテナ船にも似た、前方、後方にそれぞれ4本の巨大な腕を持つ異形の艦形だった。
それはインドの神話に出てくる武具ヴァジュラにも似ているが、明確に上下の区別を持ち、全体的に長方形に展開していることが立体的に映し出された艦形から見て取れる。スクリーンの下部には艦の級と名前が記載されていた。
正規航宙母艦『ギャラクティカ』と。
「これが私どもが総力を挙げて企画・設計した航宙機母艦。ギャラクシー級です」
ワイン・レッドのスーツを着たシャロン・ウィードリンは誇らしげに胸を張ると大きく左腕を伸ばしてスクリーンを示した。
「八本に及ぶ重力波発信器で形成される前後二基の開放型重力カタパルトによって、同時加速機数八機を実現しています。これを全力で稼働させた場合、搭載全機の作戦展開までの時間は最短で八分。また、この重力カタパルトは着艦用にも展開できますので、パイロットの状態にもかかわらず、安全な機体の回収が可能となります」
画面上でギャラクティカ後方に重力傾斜が展開する。それは、数十キロに及ぶ巨大な重力スクープだ。そこに接近した航宙機は重力傾斜に沿ってギャラクティカの後方下部、開放型着艦エリアへと導かれることとなる。広大な惑星間空間ではわずか数十キロの範囲にしかならないが、遠距離の航宙戦で疲労したパイロットたちにとっては大きな救いになるはずだった。また、開放型のカタパルトと言うことで発着艦時の事故の影響が最小限に収まるのも魅力的だった。
「また、個艦防御に関しましても、クリムゾン・ヘビーインダストリが新たに開発した積層空間歪曲場を搭載しております。現在のペネトレイターでは、このギャラクティカを落とすことはできませんわ。
私どもクリムゾンは攻撃型航宙母艦として搭乗員の安全な家(ホーム)を提供いたします」
イネス・フレサンジュがスクリーンに映し出した艦は艦首にリング状構造を備えた四機の巨大なアームを備えた滑空する鳥のようなデザインだった。
「上下構造を持つ平面的なデザインなのですか。どことなくナデシコ級に似ているのですね?」
アクア・クリムゾンは虚空に投影された艦のデジタル・モックアップを回転させて訊ねた。
「そうね。艦首にジャンプ・リングとグラビティ・ブラスト2門。保有機数は艦外牽張無しで38+4機。艦後方下部に発着艦デッキ。エレベーターは上方甲板下方甲板それぞれ2機。機関は完全にグラビティ・ブレードと一体化しているわ」
イネスがそれぞれの箇所をポインタで指し示す。
「上面甲板は緊急迎撃用のセル型リニア・カタパルト4機で射出。艦から早く機体を放出するのが目的ね。下部主発着艦デッキも同様。ただし、帰還機回収用の重力カタパルトを備えているから、帰還してきた機体がパイロットの疲労で艦に衝突するなんて事はないわ。緊急収容時には上部甲板からのトンボ釣りも可能よ」
「開放型重力カタパルトは加速時を狙われやすいのではないのですか?」
こくりと、アクアが小首をかしげた。柔らかなセミロングの金色の髪が揺れ、細い首筋にかかる。
「そのような状況では艦隊防空の方が忙しい。エレベータから慣性で射出されてすぐ戦場だ。重力カタパルトが必要な状況にはない」「そうなのですか?」「ああ」
「そもそもカタパルトは発艦の迅速化と速やかな戦闘速度への移行が目的だからな。艦隊直援では、航宙機は艦隊と速度同調している必要がある。だから、必要なものは、いかに早く友軍機を展開できるか、になる。これはセル型4機のリニア・カタパルトで行う。あとはエレベータも上下2機ずつあるからな。直援機の発艦は迅速に行える。
遠方への攻撃隊編成時には当然、近くに敵機はいない。開放型で十分だ」
こよみがテンカワ・アキトに続けた。
「そして、攻撃隊の展開はボソン・ジャンプで、ということですのね?」「その通りだ」
アクアが指を伸ばして航宙母艦の先頭に配置されたジャンプ・リングをちょんと押した。
「母艦の機能は機体の収容と戦場までの安全な運搬ですか。そこにボソン・ジャンプを使うところなんて、敵性母艦とよく似た戦術設計ですのね」
伸ばした指の先で、モックアップが回転する。アクアはイネスを見上げて問いかけた。
「この艦はなんという名前なのですか?」「そうねぇ」
イネスは首を傾げた。
「ジャンプ・リングを中心にスター・バーストを発生するから、クェーサーとかどうかしら?」
2.
「木連軍、火星圏封鎖艦隊に動きがあります」
それは全てに止めを刺す凶報だった。
地球=火星軌道を封鎖する木連軍無人戦艦群。その数は3個艦隊、総勢100隻弱の艦隊である。
展開する位置から火星軌道前方をA群、火星軌道後方をB群、火星軌道地球方向をC群と呼称されており、そのうち、ブルーノはナデシコとの戦闘で壊滅している。それでも、残る敵艦の総数はオニヤンマ級大型戦艦16隻、ヤンマ級突撃艦28隻、カトンボ級駆逐艦47隻が相転移機関の全力発揮可能な宇宙空間に遊弋していることになる。
「敵艦隊アントン軌道修正します。これは・・・」
火星軌道前方に展開していた20隻ほどの先行封鎖艦隊が火星から地球軌道へと軌道を遷移している。
「カエサルと合流するつもりだな」
テンカワ・アキトの声が響く。
火星周辺で遊弋していた艦隊が今集結する意味。
それは停戦協定が切れた火星圏への侵攻以外にありえなかった。
「駄目押しというわけですか」
力無く、エマニュエル・ガドナス大統領が椅子に座り込む。その右手が目元を押さえた。
「ここまでなのですか? こよみさん、我々はここまでだったのですか?」「・・・」
問いかけられた少女は答えない。
スクリーンをきっと睨み付け、腕を組んでじっと考え続けている。彼女はこの絶望の中にあってすら、次に繋ぐ手を探し続けていた。
重く沈む作戦室。そのスクリーンの中で、死を告げる凶鳥がマリネリス市へと突き進んでいく。
もう、彼らを救う術はない。
その現実の重みに誰もが言葉を失っていた。
「何をしておるのかね!!」
そんな彼らの空気を吹き飛ばすかのような一喝が作戦室に響いた。
振り返る視線の先には、地球連合航空宇宙軍の将官服を着た老人が帽子の影から鋭い眼光で彼らを睨み付けていた。
「まだ、終わってはいない! 諸君らも、彼らも、まだ誰も終わってはおらんのだよ!
時間がないなら作ればよい。一分でも、一秒でも、わずかばかりの時間を稼ぎ、少しでも戦力をかき集めればよい。
まだ、なにも終わってはおらんのだ!! なにも始まってもおらんのだ!!
絶望は、死の瞬間に思えばよい!
我々はまだ負けてはおらん。まだ、マリネリスが陥ちたわけでもない。
飛ばせることができるのなら、コックでも構わない。一隻でも、一機でも、飛ばして敵を叩き続ければよい。
全ての手立てを尽くす前に、心が負けてどうするか!!」
フクベ・ジン退役中将の言葉が、作戦室にいた全ての人の心に叩きつけられた。誰もが呆然とフクベの方を見つめていた。
フクベはガドナス大統領の隣に立つ少女に声をかけた。
「作戦計画ゴルゴーンはまだ実行可能かね?」
「作戦の実行そのものに問題はありません」「ん」
背筋を伸ばしてこよみが答える。フクベは満足げに頷く。次に、同様に大統領の隣で軍事作戦の説明をしていたフェイエン・ノール軍事補佐官に視線を向けた。
「マリネリスに残存する航空隊はどれほどかね?」
フェイエンが慌てて機体数の確認をする。
「は。チグリフォーン32型17機、チグリフォーン51型46機、コレオプテール2型8機が作戦可能です」
「うんうん」
フクベが満足げに頷くと、くわっと目を見開いて怒鳴った。
「まだ戦えるではないか!!
突入してくる敵を止める手立てはある。わずかとはいえ、時間を稼ぐための機体もある。
君たちがなすべき事は何かね! ここでぼっと、指示を待ち絶望的な状況下でも戦い続けている戦友を、見殺しにするつもりか!!」
その言葉に、慌てて作戦室のオペレータ達が振り返り指示を待つ。
もはや先ほどまでの絶望に満ちた空気はない。
戦うための決意に溢れた張りつめた空気が作戦室に満ちていた。
「アール、準備はいいか?」『いつでも』『楽勝』『任せて』『勝つよ』『・・・』『・・・』
アキトが遠くの友に問う。
マリネリス市に待機する作戦母艦エンディミオンに設置されたオモイカネ・アールから明るいウィンドウが次々と開かれた。
「敵大型戦艦、オペレーション・ゴルゴーン第一攻撃圏内に侵入します」「マリネリス航空隊。残存機体の再編を開始しています」「マリネリスから無人機への対機動兵器防御命令を解除する許可を求めてきています」「ヘンプ・パームより、母艦航宙隊の発艦を開始しました」「同じく、ポメグラネイト、母艦航宙隊を展開しています」「・・・」
「まだ戦える。そう言うことでは、ないかね?」
次々と上がる報告に、フクベは満足そうに問いかけた。
エマニュエル・ガドナス大統領は身を起こす。先ほどまでの自分を恥じるかのように、背筋を伸ばしてきっと正面を見つめる。
「大統領、オペレーション・ゴルゴーンを発動します」
振り返り問いかける火星植民都市連合軍の指揮官にガドナスは強く頷いた。
「始めてください。あなたがよいと思う全ての機体を使っても構いません」「ハッ!」
敬礼して指示を出し始める。
作戦室には前にも増して機体を融通し、戦力を可能な限り抽出しようとする声が響き渡った。
「フクベ提督、ありがとうございます」
ガドナスはゆっくりと豊かな白い髭をいじる老将に頭を下げた。フクベはゆっくりと首を振る。
「なに、少し気が弛んでおっただけじゃよ」「いえ、それでも言わせてください。ありがとうございます」
フクベは戦意の回復した作戦室をゆっくりと見回す。
「この老骨もわずかながらにも役に立てたのだな」「ええ」
もう、先ほどまでの敗北感はない。
例え戦力の抽出が間に合わなくても、例え十分な戦力がなくて敵の攻撃を許したとしても。
わずかな努力が多くの命を救えるのだと言うことを彼らは知っている。知っていたはずだった。
だから、戦える。
まだ、負けてはいない。
だから、戦い続けることはできるのだ。
「フ…」「待て。どこへ行くつもりだ?」
車椅子が動き出す行く手をこよみが立ち塞がる。
両の腕を開いて、この先には行かせないと。
「できることがある。一隻、いい艦を知っているからな」「馬鹿を言う。ブラスティはまだ改装中だと言っただろう!?」
「既に組み上がっているはずだ。機動兵器戦をする訳じゃない。アクティブ・マヌーバもディストーション・ブレードも不要だ。
今必要なのは、継続して射撃ができる砲。ブラスティにはそれがある。アール、砲撃管制はできるか?」『お任せ!』
ぴこんとウィンドウに大きく描かれる文字。
アキトがどうだという表情で少女を見つめる。
「あの場所には今、ブラスティが必要だ」「・・・」
こよみは小さく溜め息を吐いた。アキトから視線を外し、宙に浮かぶウィンドウを振り向き見上げる。そこでは誰もが戦っていた。
「無茶をするな」
拗ねたようにそっぽを向くその姿にアキトは小さく笑みを洩らすと、その横を通り過ぎた。
「ああ」「馬鹿が大砲を持って出るぞ!」
アキトの背後で怒りの込もった声が響く。アキトはその言葉に思わず吹き出した。
「馬鹿ばっか、か」
それは、とても懐かしい想い出だった。
その機体は本来、生まれ出づることなく消えゆく運命だった。
地球連合航空宇宙軍、航宙戦略技術局特殊実験機計画B、開発コードネーム「ブラスティ」。
単機で地球圏から木星圏までの航続を可能とし、長期に渡り木星圏に対する通商破壊活動を可能とするべく設計された、巡航追撃機である。
長期にわたる航宙能力。補給を受けることのできない状況での継戦能力。想定する敵無人戦艦群から単独で逃げ切ることができる加速性能。周囲を敵に囲まれた場合の生存性。
E種兵装計画以上に過酷な想定下で戦い続けることを望まれた。
巡航追撃機ブラスティは最良の制宙能力を望まれた機体だった。
背負い式の巨大な主砲。ブラスティの右肩から伸びる機体長の3分の2を占めるビーク・マヌーバには、グラビティ・ブラスト一門と同軸レール・キャノンが納められている。ドミストリにも採用された高機動ユニット、アクティブ・マヌーバも、宇宙戦闘機形式の一軸加速機体がその速度をロスすることなく機動兵器並みの格闘戦能力を得るために開発された物だ。そして、両の脚として伸びる二本のグラビティ・ブレードは強力な収束空間歪曲場を発生させる。その強度は正面からの攻撃であれば木連軍ヤンマ級突撃艦の主砲にも耐えることができるほどだ。
しかし、今の『彼女』の姿は、完全にはほど遠い状況にあった。ジャンプ・シップへの改装工事のために、グラビティ・ブレード、アクティブ・マヌーバは取り払われており、間接部のむき出しの接合部が白い装甲の下から覗いていた。
ただ巨大な主砲のみを抱えた白磁の機体は、まるで巨大な両刃の剣を抱えた純白の乙女のようでもあった。
「ちょっと、ちょっと。勘弁してよ。こんな機体状態で出ようって言うの?」
火星植民都市連合軍戦略宙軍の鈍色の赤を身にまとったササハラ・イオリが車椅子に乗ったテンカワ・アキトを見て呆れたように肩をすくめた。
「無茶は承知だけど、自殺行為はお断りだわ」
テンカワ・アキトは機体の整備状況に目を通して苦笑する。
「別に機動兵器戦をしにいく訳じゃない。止まった的を撃つだけだ」「誰にでもできる簡単なお仕事ですってわけ?」
イオリは鼻で笑って見せた。
「ふん、ろくにディストーション・フィールドも張れない機体で戦場のど真ん中に行くんでしょ。バッタやカナブンでさえ十分な脅威だわ。しかも、そんな機体がうろうろと身動きのとれない敵艦を次々落としていったら、連中のことだから味方ごと撃つんじゃないかしら」
「その通りだな」「む」
飛行前チェックを終えたアキトはイオリの言葉に頷く。イオリは眉を顰めた。
「マリネリスから無人機を二機護衛にもらう。注意するべきことはわかるな?」「脚を止めない」「そうだ」
ブラスティ後部に設置された客室を通り抜け、アキトはイオリの手を借りて前部操縦席に身体を固定した。
「奴らは味方ごと撃ってくる。ずいぶんと手間も省けるだろう」「!!」
薄く笑みを浮かべるアキトにイオリを両手を挙げた。降参の印だった。
「もう! なんで、私ばっかりこんなのばっかなの。
わかったわ。でも、ジャンプのタイミングは私。それはいいわね?」「ああ、任せる」「おっけぇ」
イオリは後部座席に身体を固定すると、ヘラス・コントロールに通信を繋げた。
アキトはIFSの端末に手をかけた。
目覚める。
相転移機関がアイドリングを始める。機関の出力はすぐに安定し、グラビティ・ブラストへのエネルギー充填が開始されていた。
それはただ破壊のためのみを極めたテクノロジーの粋。
操縦系から流された機体の自己診断はグラビティ・ブレード、アクティブ・マヌーバを除いて全状態問題なし。
これが戦場に君臨する絶対の女王の初陣だ。
「テンカワ・アキト、ブラスティ、出る」
通信機に短く語る。その言葉とともに、ブラスティの機体が淡いボソンの光に包まれた。
「ジャンプ」
イオリが呟く。
吸い込まれる闇の向こうは、『彼女』の舞台だった。
3.
待機所に慌ただしい軍靴の音が迫る。
待機している20名ほどの訓練生たちは互いに目を見交わした。
彼らは旧マリネリス航空訓練学校、現在の火星宙軍航空航宙機専門課程の訓練生だった。マリネリスをかけて火星宙軍と木連軍が死力を尽くして殴り合う戦争を前に、彼らは搭乗員待機所での待機を命じられていた。
もちろん、火星宙軍も戦争の空気に慣れさせるためにこのような待機を命じているのであって、本気で彼ら訓練生を戦場に投入するつもりはなかった。彼らの手を借りるときは本当に最後の少し前、そう火星宙軍では認識していた。
だが、状況はそのような贅沢を許してはくれなかった。
扉が開く。
訓練生たちははっとドアを見つめた。彼らもよく知る教官が硬い表情で手にメモを持って入ってくると、彼らを見回した。
「これから名前を呼ぶ者は、我々の指示に従い航空機材を受けとり、マリネリス航空戦闘団の作戦指揮下に入るように・・・」
敵主力の壊滅に成功。
正面に展開した囮艦隊は敵機動兵器の過半を巻き込んで消滅。
敵残存戦力は僅少。
作戦行動は第二段階に移行する。
マリネリス前線指揮所の巨大スクリーンに映し出されていた木連軍無人戦艦G群集団の動きが変わった。
火星宙軍のマリネリス航空隊を殲滅したことで、これまで温存していた大型戦艦群に対する脅威は存在しないと判断したのだろう。
平面的に大型戦艦が散開し、地上の都市に対する絨毯攻撃を想定した配置に編成される。両翼の駆逐戦隊は前進し、残存するマリネリス航空隊に対する盾になるつもりであることは明らかだった。
それに対して、マリネリスから新たに五〇機を超えるチグリフォーンが発進する。それがマリネリスに残存した最後の戦力であることは明らかだった。
「敵左翼駆逐艦隊。メデューサ・ラインに接近中」「航空隊マルドゥク、再編完了」「航空隊ニッドヘグ、爆装完了。待機位置に移動します」「航空隊、展開します」
未だ課程も終えていない訓練生まで投入して再編成した四個航空隊、およそ六〇機が対艦装備を揃えて待機している。これが最後の抵抗であると無人戦艦群もわかっているのだろう。左右から展開した駆逐戦隊もその動きを警戒しているようだった。
「作戦開始」
短い命令が下される。
マリネリスが生き残る最後の希望だった。
「作戦母艦エンディミオン、浮上!」『了解』『いらっしゃい』『おいでませ』
「システム制圧、開始」
後方、マリネリス湾に未識別艦発見。敵艦と認定。脅威度不明。
敵は危険な機動兵器を集結。おそらくは、両翼の戦隊を回避して艦隊主力への突入を試みる模様。
左舷駆逐戦隊は前進し、敵航空隊の突入を妨害せよ。
木連軍無人戦艦G群集団第一艦隊群左翼に位置する駆逐戦隊は艦隊群管制の命令を受け、ヤンマ級突撃艦二〇隻、カトンボ級駆逐艦六〇隻で構成する戦隊を前進させた。追随する多数の無人兵器を持って、敵航空隊を拘束する。それがどのような意味を持つのかは明白だったが、彼らは迷う心を持っていなかった。
後方に一〇隻の大型戦艦を配置し、戦隊は突入に備え航空に待機する敵機に向かい上昇を開始する。
しかし、その動きは外部からの新たな作戦指示を受け、止まった。
突撃する。
火星宙軍の制式機動兵器 MF-3 チグリフォーン三二型は彼の指示に敏感に反応した。
すっと、左前方に影が入る。彼のチグリフォーンを援護する無人機チグリフォーン五一型だった。無人機の視界は彼の視点に速やかに統合され、その姿は一瞬で友軍機を示す F のマークに切り替わった。無人機の配置変更によって発生した死角を無人機からの情報で埋めることによって、戦闘指揮を行う有人機の視界を遮らないようにしている。そのため、友軍機によって敵の動きを見落とすことはない。
眼下には木連軍の無人戦艦がある。
今まで故郷に死と破壊をもたらし続け、今、新たな死を量産しようとする滅びの権化。
しかし、その戦艦群は今や彼の眼下に呆然と動きを止めていた。
作戦計画ゴルゴーン。その最終作戦メデューサによって命令系統に情報飽和を起こした無人戦艦群は受け取った矛盾する作戦指示を破棄するために休眠状態に陥っていた。いや、その人工知能は全力で無意味な作戦指示の命令群を消去し続けているのだが。
だが、あの忌まわしき黒い影が無力で立ちつくしていることに代わりはない。
彼は頭の中が真っ白になって叫んだ。
ディストーション・アタックの破壊をまき散らしながら接近し、夢中で引き金を引く。
がくんと機体を揺るがす振動。
チグリフォーンに搭載された対艦大型ミサイルが分離し、彼の機体の収束空間歪曲場の影響範囲から出ると、炎を吐き出して猛然と加速する。
動きを止めた無人戦艦の隙間をすり抜ける。その背後から激しい爆発が機体を揺さぶった。
「ィヤッホーーーーーーー!!」
叫ぶ。
全身が痺れて、気絶しそうなほどの陶酔感に身体の震えが止まらない。
やった。やった。やった!。
あの化け物みたいな木星の戦艦を、彼が、今、破壊した。
後ろを振り向いて、爆発に船体が折れ地上に落下していく紫と黒の巨体を見送る。
やれる。
この戦争、絶対に勝てる。
興奮のまま正面に視界を戻す。
次の獲物を探して、彼は戦場を見回した。
その時、横殴りに襲いかかった黒い光に彼の意識は機体と共に粉々に吹き飛んだ。
あまりの光景に言葉を無くす。
「敵、駆逐戦隊を砲撃。数機が砲撃に巻き込まれた模様」
木連軍は友軍を自身の砲撃で吹き飛ばしながら前進を続けていた。
「こんなことを続けていたら・・・」
誰かの呟きに背筋が震えた。
木連軍には無尽と言えるだけの戦力がある。だが、それに付き合わされる火星宙軍の兵力は乏しい限りだった。
「航空隊には過度の接近を慎むよう命令を! こんなんじゃ、あっという間に磨り潰されるぞ」
「MCD-5 空域に新たなボソン・ジャンプ反応!」
叫んだオペレーターに視線が集まった。
「敵味方識別装置、シグナル青。コード確認。戦略宙軍所属 MCC-5。コードネーム、ブラスティです!」
悲鳴にも似た歓声が上がる。
「よーし、航空隊に命令を。ブラスティに敵機動兵器を近づけるな!」「了解」
「ブラスティより、発砲警報。射線上の友軍機に退避勧告」「ブラスティ、発砲!」
華奢な機体から黒い闇が伸びる。
その闇は宙づりにされていた二隻の敵艦を貫く。そして、爆発がさらなる破壊の連鎖を呼んでいた。
「ちょっと、ちょっと! なんでこっちに寄ってくるのよ!」「落ち着け」
ブラスティの前後配置操縦席後方でササハラ・イオリが頭を抱えた。
第一射後からブラスティは敵味方を問わず、追いかけられる羽目になっていた。敵からはわかる。火星軍が投入してきた唯一の重力波収束砲を撃つことのできる機体は、この戦場における最大の脅威と言えるだろう。
だが、いったいどうして、友軍機からも逃げ回らなければならないのか。
イオリはあまりの状況に頭が痛かった。
「次の射線の情報を送る。アール、誘導を」『了解』『おまかせ』『お待ち』
「だぁー! マリネリス管制! 聞こえてる!? あんたの子供たちを何とかしなさいよ! って、こんな近くまで寄るなぁ!
こっちはディストーション・フィールドがないんだから!」
至近を収束空間歪曲場を展開したチグリフォーンの四機編隊が通り過ぎる。ブラスティは機体を翻しそのフィールドの影響範囲外に辛くも回避した。背後でイオリが通信機に叫ぶのを尻目にテンカワ・アキトは肩をすくめた。
ブラスティは多数の友軍機を引き連れてシステム制圧された敵無人戦艦群の周囲を飛び続けていた。その理由の多くは友軍機の機動にある。
彼らの様子からすると、マリネリス管制からブラスティ支援の命令が下されたようなのだが、はっきり言って邪魔している。無人機のチグリフォーン五一型を伴って、ブラスティを追いかけ高速度で追随する様は、むしろ、ブラスティを撃墜しかねない勢いだった。
何しろ、現状のブラスティは空間歪曲場を纏っていない。
至近をチグリフォーンがかすめるだけで、ブラスティにとっては危険なディストーション・アタックになるのだ。
しかも・・・。
「練度が低い。これでは、いい的だ」「だから、早くあんたたちの部下を取りまとめなさいよ! 味方を殺す気なの!」
アキトは苦く呟く。確かに高機動形態をとれない現状、元気な十機を越えるチグリフォーンに阻まれて、最大の脅威となり得た虫型機動兵器はブラスティに近づけない。だが、逆にブラスティも木連軍無人戦艦群に対して積極的な攻撃を行えないでいた。
下手に近づけば、友軍機ごとグラビティ・ブラストで吹き飛ばされかねないからだ。
『まもなく攻撃ポイント』『でも、射線が開いてないよ』『というか、邪魔ー』
アキトの感覚系にアールからの情報が直接流し込まれる。
「駄目だわ。全然話にならない。どうも訓練生を投入したらしいんだけど、初陣で舞い上がっちゃってコントロールの指示を聞いてないって」
マリネリス管制と通信していたイオリが匙を投げた。アキトはブラスティのグラビティ・ブラストを警告していた射線上に向ける。しかし、ブラスティを護衛しているのか、邪魔しているのかよくわからない友軍機の存在に攻撃を中止する。
加速する。
チグリフォーンやコレオプテールのような鋭さはない。
しかし、すっと腕を伸ばすように自然に伸びる速度に、流れるように純白の機体が混戦の戦場を抜け出した。その機動に追随する機体はない。
前進する敵艦隊を左舷下方に見て、突入ルートを思案する。ブラスティのグラビティ・ブラストのチャージは大気圏中と言うこともあり少々時間がかかる。敵の後方艦隊はおよそ五〇〇隻ほど。そのうちの、二割ほどはアールのシステム掌握に捕まり動きを止めている。いくら通信解析がされており、指揮権に対する介入が可能とはいえ、数百隻の通信状態を偽造するのはいくらオモイカネ級の人工知能でも荷が重い。せいぜい、指示遅延状態を生成して動きを止めるぐらいになる。
だから、アールが動きを止めている間に、可能な限り、落としておかないといけないのだが。
アキトがちらりと後方のイオリに視線を投げた。
「・・・なによ?」
イオリは嫌な予感がして眉を顰める。
「このままでは埒が開かない」「そうね…」
端的な言葉にイオリも不承不承同意する。
「そこでだ」
アキトがニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
「こうしようと思う」
言うなり、アキトは左に大きく旋回する。イオリはそれが意味するところを察知して叫んだ。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!」
黒い光が正面に向かって放たれる。
黒い帯が伸び、正面に展開していた『システム制圧されていない』木連軍オニヤンマ級大型戦艦を捉えた。
爆発が連鎖し、整然とマリネリスへの対地攻撃のために前進し続けていた艦列に混乱が生じた。
「行くぞ!」「いぃやぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
イオリの叫び声を背中に聞いて、アキトは未だシステム制圧の及んでいない木連軍の大型戦艦群の戦列に飛び込んだ。
4.
「馬鹿な。今の我々にそんな余裕などない!」
フェイエン・ノール軍事補佐官は思わず叫んだ。
先のマリネリス会戦は、戦術的にはマリネリス防衛に成功した火星軍の辛勝ではあるが、戦略的には大敗との評価をされていた。
確かに木連軍無人戦艦G群集団の壊滅に成功したことは大きな勝利といえるが、せいぜい、二千隻程度の無人艦など、『プラント』を再建した木連の生産力からすればそれほど痛くない。しかも、今回、木連側がマリネリス航空団と引き替えにした無人艦は『プラント』の損傷によってドック入りの目処が立たなかった艦艇の処分であったことが通信傍受によって判明すると、G群集団の壊滅という戦果そのものも疑問に思わざるを得なかった。
そして、その引き替えに失ったのは、訓練生の多くを含めたマリネリス防空戦力である。
事実上の敗北と言うしかない。
今はいい。木連軍もB群集団に始まりH、F、Gと四個の群集団を相次いで失ったことで戦力の再編に努めている。しかし、再度の攻勢が始まったとき、すでにマリネリスを防衛する能力が火星宙軍にはなかった。
この会議は、ではどうするか、ということで行われたものだった。
すでに初期の予定通り、電子戦による「いかさま戦争」を仕掛ける余裕はない。それは、出動する航空機がなくては演出ができないからだ。では、戦略宙軍による再度の木星系攻撃も、木連を構成する市民船、宇宙都市近辺に大型軍用艦艇が配備されている状況では効果が薄い。
火星植民都市連合軍が置かれた状況はすでに八方塞がりだった。
そこで開かれた『火星の後継者』の会議の席上で、イネス・フレサンジュが火星宙軍の取るべき戦術をこう提言したのだった。
「直ちに現有戦力の総てを投入して、火星上の全ての敵性母艦を破壊するべきだわ」
火星奪還。
それはもともとフェイエン・ノールたちが主張していたことだった。だが、マリネリス会戦での戦略的惨敗はフェイエンをしても消極論に傾かせているようだった。
「火星宙軍にはもう戦線を維持する戦力がない」
アジア系の少女が首を振る。少女のポニーテールにした長い髪が揺れた。
「まさか、母艦航宙機隊の連中をマリネリスに貼り付ける気か? 今はまだ火星表面に張り付いている奴らも、いつ軌道上に上がるともしれん。コレオプテールだってせいぜい二十機前後を運用するのが限界だ。このままだと確実にじり貧だぞ」
「だからといって、わずかばかりの戦力で攻勢に出ろと言うのか!」「・・・次はもうない」
黒ずくめの男が告げた。
その一言に空気が引き締まる。
「例え、全ての艦艇、戦力を失おうと火星から木連軍を駆逐する。それ以外に、もう道はない」
木星系ガリレオ衛星群反地球連合共同体、通称、木連では建国以来の初の外征艦隊の創設に沸いていた。
かつて彼らが非道な地球連合によって核で追い払われた火星に、半恒久的な木連軍の根拠地を建設する。
それは、木連の国民にとって、歴史的快挙である。
また、純軍事的にも、木星=地球間の距離が、最近接時でも4天文単位(1天文単位は地球=太陽間の距離)離れているのに対し、火星=地球間は最近接時「衝」でわずか0.5天文単位、最遠時ですら2.5天文単位でしかない。現在、戦力展開を時空転移門に頼らなければならない木連にとって、軍事力の効率的な運用に敵情を直接取得できる拠点は必須の物だった。
秋山源八郎は記念式典と共に出撃を命ぜられる派遣艦隊を腕を組んで見つめていた。その表情には普段の晴れがましさはなく、暗い面持ちであった。
「源八郎、ここにいたのか」「全く、どこに行った物かと探したぞ」
両腕に一升瓶と枡を手にした白鳥九十九と月臣元一郎がほろ酔い加減で源八郎の両隣に立った。九十九は源八郎に枡を押しつけると、肩を抱いて酒を注いだ。
「まぁ、呑め。今日は晴れがましい日だ! 一人しんみりやるのもいいが、今日は大いに祝うべきだぞ」「まったくだ。源八郎は奥手で困る」「お、おお!」
源八郎は慌てて突きつけられた枡を両手に捕ると、二人の注ぐ酒を受け取る。
「・・・あまり疑われるような真似は慎め」「すまん」
九十九が囁いた。源八郎は頭をかきながら、ぐっと酒を飲む。
「ふぅ、旨い!」「おお、そうだろう。そうだろう」
源八郎は九十九の言葉に察すると、大いに威勢よく升酒を味わう。
木連では先の火星軍による核攻撃以来、国内に対して厳重な監視体制が敷かれている。特に軍事情報を扱う士官やその家族には木連の暗部が張り付いていると言ってもいい。
木連は決して理想郷ではない。
市民船から逃げ出せば処分される。五人組と呼ばれる相互監視体制で市民自身を監視させ、少しでも反戦的なことを口走れば、特別高等警察と呼ばれる思想犯取り締まりを専門とする警察組織による『教育』が行われていた。
ここまでしなければ、木連は戦えないのか。
源八郎は前線指揮官として木連の継戦能力を心配していた。
戦力ならある。資源も無尽蔵。だが、たかだか一回の本土攻撃にここまで萎縮してしまうほど、木連の人心は弱かったのだろうか。対する地球は故郷を戦場としながらも依然屈服しようとしない。むしろ、昨今では相転移技術の追い上げを受けて、支配地域を奪還されることもあった。地球軍がナデシコ級を主力に艦艇を更新しようとする8月までに、現状の支配地域の一層の拡大に努めなければどのようなことになるか。
「戦隊指揮は蘭君か」「あいつなら任せられる」「ああ」
火星派遣戦隊は木連軍本国艦隊から分派された4隻の双星級巡航艦を中核に十二機の時空転移門、そして、八〇隻の無人戦艦群によって編成されている。その偉容は木連全都市に放送されている。
彼らの成功を木連のすべての人々が見つめていた。
「うむ。見事に役目を果たしてもらいたいものだ」
源八郎は窓の外で行軍する派遣戦隊に枡を掲げた。
もちろん、この木連軍火星派遣戦隊の出撃の様子は、後方トロヤ群を通じて、火星植民都市連合軍にも余すとこなく伝えられていた。
5.
休暇は終わり。
アクア・クリムゾンは海を渡る風になびく髪を手で押さえた。
「戦争の夏が始まるのですね」
テニシアン島の邸宅のバルコニーで手摺りに左手をつき、遠い水平線の果てを見つめる。しかし、口とは裏腹にアクアは微笑みを浮かべていた。
「ですが、アクア様。よろしいのですか?」
いつも物憂げな瞳を海に向けていた女主人の明るい姿に嬉しそうにパーカーが問いかける。アクアが小首を傾げた。
「あら、パーカー。お小言?」「滅相もありません。ただ、航宙母艦2隻とは、少しばかりサービスのしすぎではありませんでしょうか?」「ふふふ・・・」
アクアが口元を押さえて笑う。
「パーカー。火星軍の人材の層の薄さを見誤っては駄目よ? このままだと火星軍はテンカワ・アキトを使い潰して負けてしまいますわ。今、彼らに消えられては困りますの。せめて航空宇宙軍の装備調達でクリムゾンが優勢になるまでは、ね」「なるほど」
アクアがウィンクする。パーカーは感心したように頷いた。
「それは、それは。良い宣伝となりましょう」
「それに、『彼』を手に入れれば『火星の後継者』の半分が付いてくるわ。ネルガルきっての天才、イネス・フレサンジュ博士も。航宙母艦二隻など、安いものだわ」
パーカーは無言で彼の女主人に深々と頭を下げる。
「あの資料は財団に廻しておいて。あれだけ材料があれば、クリムゾンのR&Dももう少しちゃんとした母艦を設計できるんじゃないかしら。本当に、ふがいのないこと」「は。人材という点で火星軍に劣っているとは思いませんが、適切な発想が表に出てこれないのは事実でしょう」「あら。それは、正すべきことではなくて?」「承知いたしました」
「うふふふ・・・」
アクアは心地よさげに潮風に身を委ねる。
「あの人、長くありませんでしょうね。火星と運命を共にさせて上げてもよろしいのですけど、私を本気にさせたのですもの。もう少し、お付き合いしていただかないと、退屈してしまいますわ。だから・・・」
アクアは空を見上げた。
その視線の先、遙か彼方には血のように赤い戦場がある。
アクアは楽しげに微笑んだ。
「セカイよ、もっと、もっとオドッて?」
笑う。嗤う。嘲う。
アクアは心の底から愉快な気持ちでワラい続けた。
続く...
あとがき
やあ (´・ω・`)。
ようこそ、後書きへ。
この楽しげなアクア様はサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい(略)
というわけで、おひさです。進行、遅れてます。
えへ。
次は艦隊戦です。なんか、政治進行ばかりで戦闘シーンも冴えてないけど、ごめんね。
その分、メカ萌えでよろしくです。
ではでは。