Re-Genesis
再創生
機動戦艦ナデシコ
2次小説
descripted by Veneficus...
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第六話 Eパート
『「運命の選択」かもな』
1.
暗い闇の中にディスプレイに照らし出された文字を覗き込む。持ち込んだ暗号解読器でいくつものロックを解除し、次々とファイルを読み込んでは持ち込んだ端末に写し取る。
「これ・・・」
フィルタリング処理をし、すかしから浮き彫りになる『太陽系社会における秩序の再構成』の文字。
それは彼女が探していたファイルだった。
彼女はトラップの有無を確認しながら、注意深くそのファイルと関連づけられているドキュメントを読み取っていく。
『ボソン・ジャンプの戦術的研究』『木星系攻略概要』『機動兵器開発計画』『火星侵攻計画』『地球=月軌道侵攻作戦』『木星系防衛基本戦略』・・・。そこにはあの少女が構想している戦争計画が様々な視点からいくつも記述されているようだった。
彼女は慎重にドキュメントに仕掛けられているいくつもの罠を取り去っていく。ドキュメントが参照されたという情報すら残さぬよう、慎重に。
カチャリと金属製の音が響いた。
エリス・ティタニア火星植民都市連合軍中尉はその音をよく知っていた。遊底が銃身に弾丸を送り込む音だった。
「欲しい物は見つかったか?」
ソプラノの少女の声が響く。振り向くまでもない。この場所、航空宇宙軍の特殊潜行艇の主である、こよみの声だ。
エリスはゆっくりと両手を上げた。
「いくつか、ですが」「ふむ」
こよみは用心深く銃口を突きつけたまま、手近な端末を片手で操作する。エリスは少し考えたが抵抗することを放棄した。すでにエリスがこよみの隠しているデータを探していたという事が露見した段階で、すでに逃げ場はなかった。
「誰の指示だ?」「私の――「独断ではないな」――・・・」
エリスの答えを遮る。こよみはエリスに突きつけていた銃を下ろした。
「なるほど。フェイエンの子飼いの部下であるお前が実行犯である以上、命令の出所はフェイエンは当然、さらにその上ということもある訳か…」「・・・」
こよみは引き金から指を離し腕を組んで首をかしげた。エリスは横目でちらりと銃を見る。22口径のダブルカラム。安全装置は外れている。
一般に22口径の拳銃はスポーツ・ピストルとして、反動の少ない子供用と認知されている。が、子供用、競技用、スポーツ用として以外にもある特殊な職業の人々は22口径の銃を選ぶことが多い。
反動が少なく命中精度が高い。銃自体が小振りで隠しやすく発砲音も小さい。ストッピング・パワーには欠くが強装弾やホローポイントを使うことで充分な殺傷力を持っている。また、実包が小さく、多数の弾を携行することができる。急所に打ち込むことができる腕さえあれば、これほど危険な武器はない。暗殺者と呼ばれる職業で重宝されるのも無理はなかった。
こよみが持っているのはそんな銃だった。いや、よく見ると安全装置のセレクターに複数のポッチがある。2とAと刻まれた赤い文字は、その銃が本当に特殊な用途を目的に作られていることを示していた。
「私を‥‥どうしますか?」「ん? ああ、そうだな」
硬い表情で問いかけるエリス中尉にこよみは肩をすくめて見せた。銃の安全装置を見えるようにかける。
「だいたい誰の指示かわかるからな。正直、どうする気もない。自陣営の状況を見誤らないためにも、この程度のイベントがあった方がいい」「そうですか…」
エリスは肩をほっと落とした。いや、全然状況は変わっていないのだが。
こよみはクスリと笑った。
「まぁ、ちょうどいい。エリス・ティタニア中尉。フェイエンの方に貸しにしておくから、どこからどうやってその資料を取り出したか、覚えておいてくれ。いつか必要になる時が来るかもしれん」
「え、はい・・・?」
エリスはこよみがどうしてそんなことを言うのか理解できなかった。その様子が伝わったのかこよみは手をひらひらとさせて背を向けた。
「まぁ、大したことじゃないさ。痕跡は消しておけ」
こよみが操作する端末上でデータへのリンクが落とされる。エリスもこよみが促すままに持ち込んだツールをまとめると共に発令所を出た。
跳ねるように足早に歩みを進める小さな後ろ姿を、エリスは後にいくばかりかの感慨を持って思い出すこととなる。
2.
暗い金属の回廊を走る。
記憶の中の周辺地図と、現在の地図に違いがないことを確認しながら、こよみはドックに向けての最短ルートを追いかけた。すでに先発したエノラ・パーキンスとササハラ・イオリがボソン・ジャンプの準備を始めているはずだ。
腰のホルスターから銃を抜く。
『鮮紅』の性格から考えて、このまま引くはずがない。『代行者』の反応速度から考えて、『鮮紅』はこの施設内に潜んでいる。おそらく、こちらが個人用空間歪曲場発生装置を持っていることも理解したことだろう。となると、アンブッシュからの肉弾戦に持ち込んでくることが容易に想定できた。
風が動く気配に、こよみは脚を止めた。『代行者』の制御には全感覚を投入する必要がある。つまり、『鮮紅』が動く間、『代行者』が投入されることはない。
今、動きがあるとしたら、『鮮紅』自身以外あり得なかった。
念のために空間歪曲場発生装置のバッテリーをチェックする。ボソン・ジャンプのために一定の出力を残しておきたいが…。こよみはポケットの中のナノマシンの無針注射器を上から押さえた。使うなら今のうちだ。だが、体調に影響が出るため、戦闘感覚を維持するのに最後まで使いたくなかった。
ちらりと視界の隅に映る。揺れる影。ソバージュの黒髪に、こよみは決断するとポケットから取り出した無針注射器を首筋に当てて引き金を引いた。
「しかし、いいのか? 航空宇宙軍との取引にしては、見せるカードが多すぎないか?」
「それはある。だがな…」
エノラ・パーキンスの疑問に珍しくこよみは口ごもった。なんと表現するべきなのか、言葉を探す。
「見せておくべきカードというものもある。正直言って、今の火星軍は不安定要素に過ぎる」
「地球が予防攻撃というオプションも取る、と?」「!!」
テンカワ・アキトの言葉に一瞬誰もが言葉をなくした。自分たちがよりによって地球から攻撃されるなどという事態は誰もが考えたくないことだった。だが、アキトの指摘にこよみが頷いた。
「可能性は高い。自らの手を汚さなくとも、積極的な不介入で木連に火星を滅ぼさせようとするだろうな」
「そんな!」「なんで俺たちが?」「・・・」「・・・」
ざわめく一同にこよみが説明する。
「かつての月独立派と同じだ。彼らは月に設置された質量加速器で地球を脅迫した。月からの戦略攻撃、その恐怖を振り払うべく、地球勢力は徹底的な非合法介入を行い、月独立派の内紛を煽ったあげく、質量加速器の武装制圧を行った。そして、独立派残存には徹底的な戦略攻撃を行い、その結果として、現在の木連の存在がある。
どうやら連中は、自分たちが地球の都市に対して質量攻撃で脅迫したという事実は覆い隠しているらしいが」
被害者の神話というヤツだ。こよみはそう鼻で笑う。政治的な弱者が自身が弱者であることを理由に強者に譲歩を迫るテクニックだ。相手が誠実なほど効果がある。こういう政治的狡猾さも必要なときがある。
「幻想が必要なのだろう。自らの敗北を慰めるために」
アキトが呟く。誰に届くとも思わず。
「民族、国家、金、敵。生きていくのに理由がいるのは弱い証拠なのだと理解しない輩が多いがな」
こよみも独白で答える。
「何にせよ、今は考える時間がほしい。一分でも、1秒でも、より良い答えを導く時間が欲しい。
最悪の答えは知っている。安易なやり方もわかっている。だが、示すべき理想が見つからない。
これでは、なにも変わらん」
「夢がいるのか?」
アキトが皮肉に唇を曲げて問いかける。こよみは首を横に振った。
「夢ではない。実現すべき未来だ」
「だからって、こちらからボソン・ジャンプの裏側を教えなくたっていいと思うんだがな…」
エノラは腰を軽く叩いて身を起こした。
航空宇宙軍の巡航追撃機ブラスティの周囲にチューリップ・クリスタルを均等にばらまくのは、一人でやるには辛い作業だった。
「これはなに?」「??」
ふと、覗き込んでいる人影にエノラが凍り付いた。金色の長い髪を垂らした人形のような美しい少女がエノラの設置したチューリップ・クリスタルを指さした。エノラは宙を見て、こよみから言われたことを思い出しながら答える。
「あ、ああ。それはチューリップ・クリスタルって言って、あのチューリップの破片だよ」「ふーん…」
少女は少し宙に浮き上がるとブラスティの周囲を見回す。
「これでジャンプを?」「ああ。このCCってヤツは空間歪曲場と反応して、ジャンプ・フィールドを展開する。このジャンプ・フィールド内の状態がボソン・ジャンプの対象と扱われるわけだ」
「そう」
少女はかがんで膝を抱えると、もう一度CCを覗き込んだ。
「でも、誰がジャンプ・フィールドを対象として扱うの?」「・・・さぁなぁ」
エノラはぽりぽりと頬を掻きながら目を逸らした。
正直やりずらい。発言の一つ一つをこよみにチェックされているようで、気が抜けなかった。
「ジャンプ・フィールドの影響範囲を空間歪曲場で限定するのね? ばらまかれたCCへは空間歪曲場から重力波経由でエネルギーが伝播する。そして、CCが活性化してジャンプ・フィールドが展開されるのね」
「よくおわかりで」
かなわんなぁとエノラはCCをばらまく。これ以上何か言うと、あとでこよみにどやされそうだった。
「あなたはあの娘の友達?」「あー、友達っつーよりは下っ端かなぁ」
「そう・・・。どうしたの?」
頭を抱えるエノラを少女が覗き込む。
「あ、いや、言ってて悲しくなってきた」「ふぅん」
少女はクスリと笑みをこぼす。たぶん彼女にはエノラがこよみにこき使われている姿が想像できたのだろう。
「あの娘は笑ってる?」「ああ?」
突然の問いかけにエノラは首をかしげて少女を振り向いた。
「あの娘はあなた達と一緒にいて、本当に笑えているのかしら?」
3.
木連の政務会議は紛糾していた。
「火星との講和など無意味! 力で押しつぶしてしまえばよい!」「だが、彼らの作戦能力は侮れまい。ここはむしろ懐柔し、地球側にも恩を売っておくべき状況なのではないか?」「フン、臆病風にでも吹かれたか? 奴らは我らが父祖の地を汚した悪逆な地球人の先兵ぞ!? 断固とした対処を行うのが正義というものであろう!」
「だが、現実的に考えて、木連の防宙は可能なのか? あの者達がもう一度木連に核を使う可能性は?」
息苦しいほどの雰囲気に暗い連想が浮かぶ。
もし、彼らがまた、今度は木連の宇宙都市にその刃を向けてきたとしたら。
自然と会議に参加している者達の視線が一点に集まった。その視線の先で木連中将、草壁 春樹は腕を組んで静かに目を瞑っていた。
「ないとは言えますまい。しかし、我らも苦しいがそれ以上に苦しいのが火星のはず。これ以上はやってこないでしょう」
自信を込めて答える。その態度に頼もしさを感じる。
「その根拠は?」「核を使わざるをえなかったのが、その証拠」
草壁は大きく声を張り上げた。
「彼らは初撃に全火力を『プラント』に向けて投入している。これは初撃を逃したら、二度と『プラント』を攻撃できなくなるため。また、彼らも我々に都市攻撃を行えば、自らの死を逃れられなくなることをわかっているのだ。
だからこそ『プラント』を狙った。
これは彼らからのメッセージだ。我々との講和を望むという」
「では閣下はこのような非道な連中との講和を飲むとおっしゃるのですか!」
「そのつもりはない。しかし、気になる情報がある」
「気になる情報ですか?」「それはいったい?」
「ウム。我らが敵憎むべき地球人がついに相転移機関を備えた戦艦を製作したらしい。名前を『ナデシコ』という」
「「「「「ナデシコ?」」」」」
『ナデシコ?』
「そう。航空宇宙軍が現在勧めている対木星戦争計画書で増産が決定した主力戦闘艦の名前だ。現在、その一番艦がサセボで艤装されているそうだ」
『ほう…』
ロバート・クリムゾンの言葉に草壁は手元の資料をめくった。ほとんどが黒塗りに潰された資料ではあったが、そこには航空宇宙軍が壊滅した内惑星艦隊を再建するために、ナデシコ級を軸に月軌道艦隊からの改修艦艇への移行計画が詳細に記述されていた。
「我々、クリムゾン・グループとしても、ネルガル重工に一人勝ちされるのは少々困るのでな」
『我々に潰して欲しいと?』
冷ややかな視線で草壁がロバートを睨み付ける。ロバートは困ったように肩をすくめた。
「邪推されては困る。協力を求めるのは君たちだろう。君たちがこの船を見過ごすのであれば、私は気にしないとも」
ロバートはそういって口の中で笑みをこぼした。
「この船は安全な地球圏で実証実験後、航空宇宙軍の主力艦艇として君たちの前に立ちふさがることだろう。なに、いつ出会うか、それだけの違いでしかない」「・・・」
ロバートは草壁の逡巡を見透かすように片頬を歪めた。
「ただ、君たちが我々に何か要請があるのであれば、手を貸すにやぶさかではないが」「クッ、下衆な真似を」
露骨に足元を見る言動に草壁は反射的に罵っていた。
ロバートの提案の意味、それは完成前のナデシコを襲撃することで航空宇宙軍の新造艦配備計画を遅らせると言うことだ。木連には『プラント』があるとはいえ、地球軍の潜在的な生産能力は強大だ。それは、開戦から1年が過ぎようとしつつある現在ですら、木連が総動員態勢を取っているにもかかわらず、地球では未だ動員体制が取られていないことからでも容易に想像がつく。
未だ地球軍は本格的な戦時体制に移行していない。
その認識は地球の大きさを実感させられる。圧倒的なはずだ。一方的な勝利を収め続けているはずだ。
それでもなお、じわりじわりとわき上がる不気味な不安を草壁は感じていた。それが弱さなら、自らの行動を持って粉砕しなければならなかった。
新たなる秩序のために。
『わかった。だが、即時講和というわけにはいかない。とりあえず、休戦を受け入れるよう説得しよう』
草壁は腕を組んで頷いた。
草壁の言葉に政務会議は戸惑うような雰囲気に包まれていた。
「我ら木連が最後の勝利を得るためには、攻めて攻めて攻め続ける以外に道はない。地球軍は強大なれど、僕らの激我魂は決してひるむことはない。
それに一時的にせよ、火星方面での停戦は我が木連にとって有利となる」
「ほう、有利とは?」
「ウム。現在再建中の『プラント』施設が再稼働するまで、既存艦艇を積極的に動かすことはできない。だが、地球軍に対して手を抜くわけにはいかない。火星方面での活動を休止すれば、その戦力を後方予備として地球に対する攻勢を維持し続けることが可能だ。地球人を休ませてはいけない。『プラント』が再稼働すれば、これまでの老朽艦などを一気に火星方面に投入し、火星を完全に制圧することができる。
そのために、今は屈辱に耐え、地球への攻撃態勢の維持と、木連『プラント』の修復に全力を当てなければならない」
草壁の言葉に納得したような表情で誰もが顔を見交わし頷きあっていた。
草壁は自分の言葉が受け入れられていく様子に満足しながら、注意深く見回す。ただ一人、秋山 源八郎が腕を組んで考え込んでいることが気にかかった。
「秋山くん、どうかしたのかね?」「は」
秋山は突然の問いかけにはっと頭を上げた。すべてを見抜くような意志の強い瞳に秋山は慌てて言葉を紡いだ。
「はぁ、『ナデシコ』というとナナコさんのようなたおやかな船かと思いまして」
会議場が爆笑で沸いた。
秋山は照れたように頭をかきながら、草壁の注意が自分から逸れたことに安堵していた。そう、秋山はずっと疑問に思っていたのだ。
草壁閣下はどうして火星にこだわるのだろうか、と。
4.
空気が鋭く切り裂かれる。返す刃がこよみのインナースーツを引っかけ、やすやすと柔らかな肌を切り裂いた。
こよみは後ろに転がって距離を取る。起きあがりざまに駆け込んで持ち替えたナイフで突いてくる『鮮紅』の腕を蹴り上げ、その反動でさらに後ろにバックステップした。
こよみは大きく息を吐く。吐息が熱い。発熱のせいだろうか。身体の制御の精度が落ちていた。
正面で素早く手首を返して右手のナイフを逆手に持ち直した『鮮紅』が怪訝そうに首をかしげた。
「どういうことかしら?」
刃に施されたつや消しによって黒い20センチほどのナイフを両手で持ち、『鮮紅』が無造作に歩み寄る。こよみは脇を締めて両手で拳銃を支える。
「そんな体調でこの私に抗しきれるとでも思っているの? いえ、そもそもあなたが体調を崩す? ついに壊れたのかしら?」
「なまものなんだが…」
牽制に引き金を引く。その間際に『鮮紅』が軽く身をずらした。軽い音と反動に、跳弾が金属製の回廊に火花を上げる。『鮮紅』が髪を掻き上げた。
「わからないわ。あなたが彼らに入れ込む理由はなぜ? 政治的にも、軍事的にも誤差で片づく程度の相手でしょう? 情が湧いた? ハン、嘲わせないで。
あなたはXIONの端末。航空宇宙軍の貪欲なまでに生存しようとする意志そのもの。あなたたちが幼生固定体であるのはそのためだし、あなたの能力のすべては『人類圏の無限の拡大』に捧げられるべきモノでしょう?」
「・・・」
こよみが目を落とす。『鮮紅』の動きを意識せずとも眺めるように。
頭の隅ではここからドックまでの距離を冷徹に計算し続けている。
弱者であること。それは『鮮紅』が告げた通り『彼女たち』が設計されたときの重要なコンセプトの一つだ。弱者であるが故に、どんな卑怯な汚い手を使ってでも、なにを利用してでも、なにを犠牲にしてでも、生存するという目的にその能力のすべてを注ぎ込むことができる。幼い外見も、真空ですら短時間なら活動できる能力も、生存性を上げるためのわずかばかりのアドバンテージだ。弱者が強力な外敵に囲まれて生き残るために、幼い容貌で相手の敵意を惑わせ、敵を無害化し、自らの庇護者にすら仕立て上げる。そして、容赦なく諮られた計算高さは、強者の庇護の範囲を見つめ、使い、捨てる。航空宇宙軍は中枢ネットーワークの構成をこのような弱者による監視網によって築き上げてきた。
「なにも思わなくていいのならば、本当に感じなくてもいいなら、端末は機械で充分だ。
それでは足りないから、私たちはヒトなんだ、ルージュ。切り捨てる者、切り捨てられる者、殺す者、殺される者、その総てであるために、我々はヒトとして造られた。
だから、ルージュ。たやすく切り捨てる側に回るな。それは私たち『闘争する意志』の敗北ですらある」
ギリッと硬く歯を噛みしめる音が響いた。激しい怒りを込めた視線がこよみを凝視する。そして、次の瞬間、それは黒い暴風となって襲いかかった。
「あなたがそれを言うな!」「クッ…」
拳とともに突きつけられるナイフをしゃがんでかわす。ぶんと空気が唸り、通り過ぎたナイフの後から翻るスカートとともに、少女の回し蹴りがこよみの頸を刈るべく弧を描く。こよみはそのまま身体を回廊に滑らし、一瞬だけ、個人用空間歪曲場発生装置の出力を上げた。鋭い蹴りの反動で浮かび上がった『鮮紅』の身体がフィールドの斥力に押され、吹き飛ばされる。『鮮紅』は抵抗せずにそのまま身体を宙に投げると、ひらりと身を翻し、すぐに廊下に伏せた。その頭上を発射音とともに銃弾が突き抜ける。
顔を上げるとこよみがこちらに背を向けて駆け出そうとしていた。反射的に『鮮紅』は首元から手首のスナップを利かせてナイフを投げた。空中を一回転してどすっと鈍い音がする。だが、浅い。ナイフはこよみの左の背に突き立つが、伏せたまま投げたせいか致命傷にはほど遠かった。
タタタタン!
銃声と甲高い金属音に『鮮紅』は再び頭を伏せる。フルオートで撃ち出された22口径の銃弾が跳弾となって通路を跳ね回った。
遠くで金属製のマガジンが落ちる音がした。ガシャンと破壊音がして非常用のロックが下りてくるのがわかった。
『鮮紅』は顔を上げた。手傷は負わせた。この先はドックで追いつけばいい。
『鮮紅』はゆっくりと立ち上がると、周囲を見回した。迂回路を頭に思い描いて、ちらりと一度だけこよみの閉ざしたロックを睨み付けた。
「殺す」
それは彼女の誓いだった。
「畜生! 大将、まだかよ!」「ちょっと、落ち着きなさいよ!」
苛立つエノラ・パーキンスをササハラ・イオリが諫める。
「どうかしら?」「駄目。『鮮紅』の直接管理下に入っているから、私たちの回線を維持するのが精一杯。でも、走り回ってるから『あの娘』は大丈夫みたい」
宙に浮かぶ少女達が互いに顔を見交わす。
その言葉に、エノラがため息をついた。どうやら、まだ元気に走り回っているようだ。
航空宇宙軍の巡航追撃機ブラスティはすでに機関の暖気を終え、いつでも発進が可能な状況だ。チューリップ・クリスタルも一通り周囲に巻いてある。あとはこよみがたどり着けば、すぐにジャンプ・フィールドを展開できる状況だった。
「なぁ、あんたたちはアレ、止められないのか?」「そうよ!」
エノラが気づいたように宙に浮ぶ、あ、ブラスティのアームの上でバスケットを開いてお茶始めやがった、少女達に問いかける。黒人の少女が右頬に手を当てて首を傾げた。
「難しいですわねぇ」「部署が違うから」
その隣でちょこんと脚をぶらつかせている金髪の少女が答える。
「私たちは分析、彼女は防諜だから、効力ある命令を出すのに少し時間がかかるの」「おいおい、お役所仕事かよ」「まぁ、軍隊もお役所なのは確かなんだけど…」
空を仰ぐエノラに金髪の少女が伝える。
「手順は大切だわ。それが『文民統制』だから」「航空宇宙軍は民主主義の軍隊なんですの」
ごめんなさい、と黒人の少女がちらりと舌を出して謝る。しかし、ふと顔を上げた。
「あ、でも来たみたいですわ」「うん。もう帯域に空きがない」
目の前でうっすらと光り輝く少女達の姿が消え始める。手を振る黒人の少女。そして、金髪の少女が立ち上がった。
「『あの娘』にあまり早く戻ってこないようにって伝えて」「皆さんの健闘を祈りますわ」
二人の姿が薄れ、消える。
それと同時に、ドック下層の扉が開いた。
インナーの上からきつくベルトを巻いて、背中に突き刺さっていたナイフを抜く。
激しい痛みにこよみは唇を噛みしめ、目を瞑って宙を仰いだ。幸い、微熱が痛みを鈍くしてくれている。ぎゅっとベルトをきつく締めた。内臓が傷ついていたらもっと激痛が奔るだろう。とりあえず、内臓が腹圧ではみ出してこなければいい。
こよみは念のためにバッテリーをチェックすると、微弱な出力で空間歪曲場を張った。最期の一瞬でバッテリーが尽きなければいい。
今できる最低限の手当をして、こよみは歩き始めた。急がなければ、確実に追いつかれる。ここで死んではお笑いぐさだ。本来の目的も果たせないなんて馬鹿げている。
歩く。歩く。歩く。
先ほどから感じる微熱のせいか頭がぼうっとするが、痛みが本来の目的を思い出させてくれていた。
もう少し先にある扉の向こう、そこにドックがある。耳を澄ます。遠くで靴音がする。たぶん、『鮮紅』がこちらへ急いでいるのだろう。だが、どうやらこよみのほうが先にドックに着けそうだった。
だから、その一撃を避けることができたのは幸運だった。
ふと、何か押し出されるような気がして身体をそのまま勢いに任せると、こよみの首をかすめるようにナイフの刃が通り過ぎた。そのまま、こよみは正面の扉にたたきつけられ、勢いよくドックに転がり込んだ。
「チッ、よく避けたわね」「あの靴音はダミーか…」
こよみを追って、『鮮紅』も扉を抜ける。広いドックに、明るい照明が眩しい。
「ギャラリーは帰ったようね。これで邪魔は入らないわ」
『鮮紅』は先ほどまでXIONの端末達が、彼女の散布した『代行者』を利用していたことを知っていた。いまは『代行者』の管理は完全に『鮮紅』の下にあるため、覗き見は許していない。
「大将!!」「こよみ!!」
ドック中央に鎮座する機体の操縦席からこよみを呼ぶ声がする。こよみはかすかに唇を動かし笑みを浮かべた。『鮮紅』が眉をひそめる。
「追いつめられている割には余裕ね。自分の置かれた状況がわかっているの?」「ああ、もちろん」
こよみはゆっくりと立ち上がる。先ほどまで転がっていたところに血溜まりができている。それを見てすこし迷う。あの血には彼女が注射したB級ジャンパー用のナノマシンが含まれている可能性があった。
ちらりと、ブラスティまでの距離を確かめる。およそ20メートルほど。一撃、嫌、多くて二撃といったところか。こよみは唇を舐めた。
「ところで、ひとつゲームをしないか?」「? なにを言っているの?」
『鮮紅』は腰に手を当てて首を傾げた。長い黒髪がエアコンのかすかな風に揺れる。
「お前は私のことが嫌いだな?」「ええ。そうよ?」「だからだ。もし、私が火星の敵に回ったら、火星側に付かないか?」
「はぁ?」
呆れたように『鮮紅』が腰に両の拳を乗せて頭を傾げた。
「私がXIONの管理から外れるわけがないでしょう?」「それでは、いつまでも私を越えられないぞ」
こよみは傷口を押さえるように腹を押さえる。『鮮紅』は冷ややかな目でこよみを見つめると、鼻を鳴らした。
「フン。それにあなたに次はないわ」「いや…」
空間歪曲場、出力最大。
こよみは後ろにジャンプしながら携帯用の空間歪曲場発生装置を最大出力で稼働させた。月の六分の一の重力に逆らって、勢いよく、こよみの身体が跳ね飛ばされる。その先には、ブラスティのコクピットがあった。
「しまった!!」
『鮮紅』は慌ててもう一本のナイフを投げるが、フィールドに阻まれて届かない。舌打ちを一つ打つと、『鮮紅』は着地点に向かって駆け出した。
「エノラ!!」「うっしゃぁ! フィールド展開」
ブラスティの空間歪曲場の効果範囲にこよみがたどり着いたのを見て、エノラがブラスティの空間歪曲場を展開する。『鮮紅』の身体がふわりと吹き飛ばされた。
「ニンバス!!」「下がれ。お前の装備ではジャンプに耐えられない!」「!!」
こよみの叫びに『鮮紅』は慌てて後ずさった。ブラスティの空間歪曲場の周囲に何かが青白い光を放っている。その向こうに、憎むべき少女の姿を見た。
「ゲームのこと、覚えておけ!」
ブラスティの上方に黒い闇が発生した。こよみの姿がブラスティと共に黒い闇に吸い込まれるように掻き消える。
後に残った皓々としたドックに、『鮮紅』は一人立ち尽くしていた。
その耳にはこよみの最後の叫びが残っていた。
「馬鹿にして!」
『鮮紅』はいらだちを叩きつけるようにドックの床を蹴飛ばした。
5.
西暦2196年11月7日午前8時をもって、火星植民都市連合軍と木星系ガリレオ衛星群反地球連合共同体軍の双方が停戦が合意した。
もちろん、火星軍、木連軍の双方ともに、この停戦が休戦に繋がるものだと思っていない。
火星軍にとっては、地球連合航空宇宙軍が火星支援を本格化するまでの繋ぎでしかなく、生存するための方便でしかない。また、木連軍にとっても、破壊された『プラント』周辺施設が最低限の機能を取り戻すまで軍事目標を一本化するため、また、地球における木連の政治的仲介者であるクリムゾン・グループの顔を立てるためのインターバルでしかない。
すべてが航空宇宙軍の反攻作戦を睨んで行われる駆け引きの一環だった。
一人、執務室にたたずむ。
草壁春樹は背で腕を組むと問いかけた。
「どうだった?」「特に怪しい者はおりませんでした」
影から身を起こした編み笠の男が答える。
「会議に参加した者達、その後をつけさせましたが、誰が誰と連絡を取るというわけでもなく」
「フム・・・」
草壁は男、北辰の言葉に考え込んだ。
「火星への裏切り者がいるとすれば、我々とクリムゾンとの会議の内容、その動向を報告すると踏んだが」「よほど巧妙に身を隠しておるか、そもそも、そのような者がおらぬか」「悪魔の証明とか言うやつだな」「御意」
火星軍による『プラント』攻撃。そのあまりの攻撃精度に草壁は木連内部に火星軍と通じている者がいるのではないかと疑っていた。
そもそも『プラント』は木連にとってその生産能力の過半を占める重要戦略都市だ。その存在は地球側も知っているが、実際にどこにあるのか、どのような防衛体制を取っているのかなど、全く明らかにはなっていない。だが、火星軍の戦略攻撃は、最重要機密事項とも言える『プラント』の軌道を予測し、正確に誘導し、そして、木連軍の防宙網をかいくぐって攻撃に成功している。
これはよほどの高精度な誘導装置を備えているか、さもなくば、機密漏洩以外考えられない。
そして、もし機密漏洩であるとすれば、早急に対処しなければならなかった。
「北辰」「ハッ」
草壁はゆっくりと振り返り、北辰を見た。
「いずれ、行ってもらうぞ」「・・・」
北辰は深く頷いた。
火星植民都市連合軍と木連軍は現在の最前線である火星の赤道を双方の停戦ラインとして確定した。マリネリス・シティはその停戦ライン上にかかるのだが、これに関してはマリネリス・シティを無防備都市とすることで、双方ともに合意。
火星植民都市連合軍はマリネリス・シティに駐屯させていた都市防衛隊を南半球の都市シレナ・シティに回収した。また、マリネリス・シティからの海路に限り、他の都市との自由な交流を認められる。それには相転移機関の安定供給を望むクリムゾン・グループからの強い要求があった。
火星植民都市連合軍は部隊の再編を開始し、無人戦闘機であるMLF-2 チグリフォーン52型の配備を開始する。また、戦闘攻撃機MLE-03 コレオプテールの初の実験戦闘団を編成。次の戦いを睨み戦力の拡張に努めていた。
地球連合航空宇宙軍、極東方面軍作戦本部参謀長ムネタケ・ヨシサダはコホンと小さく咳払いをすると大きな革張りのソファに座っている一団に声をかけた。
「こちら、よろしいですかな?」
「ああ、かまわないよ。ムネタケ少将」
ホウメイ・ゲレル中将は右側に座っていた数名の士官に目配せをした。彼らはヨシサダに軽く目礼をすると、席を立つ。航空宇宙軍では高級士官用の食堂では敬礼はしない。食堂やラウンジはさまざまな打ち合わせの場所となるため、いちいち敬礼していたら本来の目的が果たせなくなってしまうからだ。ヨシサダは彼らに軽く頷くいて答えると、ヨシサダに付いていた従卒がテーブルの準備を整えるのを待った。
「ごくろうさま。今日の日替わりメニューは何でしたかな?」
従卒に礼を言うと、差し出されたメニューを受け取らずにヨシサダが尋ねる。ゲレルはふっと笑みを漏らすと自分の皿を示した。
「白身魚の香味焼きだね。なかなかいけるよ。どうだい?」「それでは、それを」
食前酒とともに従卒に頼むと、ヨシサダはラウンジに座るもう一人の人物に目を向けた。カイオウ・シンイチロウ大佐が軽く一礼する。確か、ゲレル提督の懐刀としてよく知られている人物だった。
ヨシサダの前に冷酒のグラスが置かれ、升にあふれるまで注がれる。ヨシサダは特徴的なグレイのキノコ頭をグラスに近づけて、一口グラスからすすった。喉越しの冷たさと後味にヨシサダはくっと首をこわばらせる。
「ふふふ、最近、下の様子はどうだい?」
ゲレルは手元のパンをちぎり口に運ぶ。
「難儀しておりますよ」
ヨシサダは目を瞑り味わいながら、呟く。
「敵は無尽蔵。一つでも敵性母艦の侵入を許すと、すぐに部隊を展開されてしまいますから」
まるでモグラ叩きですな、と嗤う。ゲレルは軽く頷いた。
地球圏における敵性母艦の排除は順調ではない。それは蜥蜴戦争初期に打ち込まれた敵性母艦の数があまりにも多く、敵の部隊展開に付いていけないという問題が大きいからだ。
敵は地球連合軍の弱いところに展開する。そこから柔らかい横腹を食むように戦果を拡大され、地球ではひたすら混乱が続いているのが現実だった。
「まぁ、そうだね。この間も、サセボ・シティに侵入を許したんだって?」「不徳の致すところです」
それはゲレルが状況を理解しているというサインだった。おそらくはネルガル重工の機動戦艦ND−001ナデシコの出航に合わせて要員を派遣していたのだろう。
本来であれば、ナデシコ級機動戦艦はゲレルの元で主戦列艦として一本化される予定だったのだ。航空宇宙軍きっての猛将が四隻のナデシコ級戦闘艦を指揮することになればどれほどの戦果を上げることができただろう。
だが、実際にはナデシコ級機動戦艦は二番艦のカグヤを除いて、ナデシコ、シャクヤク、カキツバタ、そのすべてをネルガル重工が私的に運用することになる。二番艦は武装の付いていない練習艦として第四艦隊で練習艦隊に組み込まれる。果たして三隻の最新鋭戦艦を手中にしたネルガルはいったいどう動くつもりなのか。
ネルガルはこの戦争を私物化する気か、そんな怒りはここリンデンバウムにも蔓延していた。その風当たりはネルガル重工本社があり、ネルガルとのつながりも深い極東方面軍にも向けられている。だが、幸いなことに、極東方面軍は地球圏で航空宇宙軍初の航空戦闘団を形成した実績がある。航空宇宙軍の地球圏艦隊、つまり、第三艦隊においてミスマル・コウイチロウ中将と彼のスタッフの発言力はいまや頂点を極めつつあった。
だが、そんな彼らにもアキレス腱といえる弱点があった。
「『彼女』はナデシコで火星ですか。帰還は半年後ですね」
カイオウ大佐がため息をつく。そう。第四艦隊、正確には第四艦隊内に設置された外惑星艦隊司令部は優秀な幕僚を一人手に入れ損なう結果となっていた。
ミスマル・コウイチロウは部下に甘い。特に二人の愛娘に。
また、現在、第三艦隊は自分たちの艦隊を解体しより実戦的な航空戦闘団への再編途上にある。その教導ができる人材を手放したくなかったというのが真実だろう。
「あの娘には航宙機、機動兵器を軸においた艦隊の編成に相談に乗って欲しかったんだがねぇ」
「まったくです」「・・・言葉もありませんな」
ヨシサダはゲレルの言葉の背後に自分が三艦隊統一司令部での『彼女』の後ろ盾になるというメッセージを受け取っていた。
第四艦隊における艦隊編成の研究はまだ始まったばかりだ。航空宇宙軍では相転移機関、重力波砲、空間歪曲場の登場によって抜本的な航宙戦術の変更を強いられている。
本来であれば、そのときの主軸となるのはナデシコ級戦闘艦だったはずだ。『彼女』達をいかに効果的に駆使するかが、艦隊編成研究の主軸になっていたはずだ。だが、実際には第四艦隊には一隻の練習戦艦と多数のフリゲート艦、そして、航宙機母艦しか残っていない。彼らはこれらで戦い続ける方法を考えなければならない羽目に陥っていた。
さらには、ボソン・ジャンプという不安要素もあった。
これら将来型艦隊編制の研究に『彼女』、アマノガ・ルリ大尉の協力が得られれば、大きな成果となることは間違いなかった。
「XIONから背景に問題なしっていう評価も来てるって言うのに、全く、先の見えない輩が」
ゲレルが吐き捨てるように言う。
アマノガ・ルリが示した電子制圧は、対無人兵器における新たな戦術を示していた。バッタやジョロなど木星勢力側の無人兵器は大量に量産されている。アマノガ・ルリが行った手順を機械化することができれば、バッタやジョロなどとの肉弾戦を繰り広げる陸軍の苦境を救うことができるのではないか、そういう期待もあったのだ。
しかし、上層部は未知の戦術と能力の限界におびえ、火星に向かう船に乗せて追い出してしまった。これでどれほどの兵士の命が引き替えになるかと思うと、よほど連中を軍事法廷に突き出してやりたい気持ちになる。
「いろいろと後ろ暗いこともあるのではないか、と」「・・・まぁ、いい。これも文民統制の一部だ。指導者の愚かさは市民と我々の血で購うさ」
ゲレルは皮肉げに唇をねじって笑みを浮かべた。ヨシサダも頷く。
「それでは、後のこと、お願いできますか?」
料理を一通り食べ終わりナプキンで口元をぬぐうと、ヨシサダは何気なく問いかけた。ゲレルは大きく頷く。
「ああ。こっちからも火星から帰りしだい配属してもらえるよう手を打っておくよ。安心しな」
「助かります」「何にせよ、無事、戻ってからだがね」
頭を下げるヨシサダにゲレルは右手を振って気にしないよう指し示す。
ヨシサダは彼女の態度に満足すると席を立った。これで、火星から帰った時、あの娘がいきなり拘束されるというようなことはなくなるだろう。『彼女』の置かれた立場からすると、味方は一人でも欲しかった。
だが、すべては。
「火星から帰ってきてから、ですな」
ヨシサダは少し肩をおろして遙かな星に思いを馳せた。
そして、その艦影を彼らは様々な思いで見つめていた。
「招かれざる客と言ったところかしら?」
イネス・フレサンジュは統合作戦指揮所のレーダーに捕捉されたその艦を見つめて率直すぎる感想を漏らした。
「さて、な」
テンカワ・アキトは万感の思いを持って捕捉された光点を見上げていた。
多くの血を流し、多くの涙を流させ
手に入れたのはわずかばかりの休息
嵐の予感に震えながら
今は訪れる
懐かしい思い出にさよならを告げよう
あとがき
・・・ついにアキトの出番無しの回が○| ̄|_
いつかくるとは思っていたけど、ほんとにやっちゃうなんて。鬱だ死のう・・・
久しぶりに「遊撃宇宙戦艦ナデシコ」読んでて気づいたんですが、ユートピア・コロニーって開戦直後3000万人の人が住んでたんですね。だいたい、火星全土で2億人くらいの計算になるのでしょうか。うーん、よく殺したねぇ、木連。
であであ。