Re-Genesis(リ・ジェネシス) 再創生
機動戦艦ナデシコ
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descripted by Veneficus(うぇねふぃくす)...

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第五話 Cパート

 『反攻の「航宙日誌」』


0.

こちらはゴルゴタ(This is GOLGOTHA,)航空宇宙軍聖域管理官(XION Sanctuary Super-Visor.)ゴルゴタは(GOLGOTHA found,)状況ナンバー 30807653844512(SITUATION #30807653844512)の進行を確認( has been proceeding.)

ゴルゴタは『鮮紅』(GOLGOTHA approase to awake Rouge,)聖域緊急対応部隊の起動を提案する。(Sanctuary Emergency Responce Team.)

...

承認を受容。(An acknowledgment accepted.)


『鮮紅』(Rouge)その代行者を起動中...(Alter Rouge, awake. Awake. Awake...)





1.

 薄暗い広大な空間に2隻の輸送艦が鎮座していた。
 火星都市国家連合軍(マーシャン・リンク)がクリムゾン・グループから受け取った二隻の七万トン級高速輸送艦は、大規模な改装を受けようやく戦力化しようとしていた。
 彼らがこの場に立ち会うのは、その内の一隻『ヘンプ・パーム』の戦力化の仕上げを確認するためだった。
 軍用の輸送艦は通常の輸送船と違い、コンテナ牽引式ではなく、単一の船殻を持つ。機関を核パルスから相転移炉に換装するために船殻を解体し、燃料ペレットを集積していた部分を格納庫に置き換え艦の剛性を再計算する。推進剤を積み替え、重力スラスターを設置し、組み直す。
 ほぼ、一から作り直したに等しい作業がヘンプ・パームには注がれていた。
 結果として、ヘンプ・パームには火星で稼働する唯一のオモイカネ型人工知性、それに制御される4機の無人高機動兵器チグリフォーン51型、雷装2門、14機の機動爆雷、40機にも達するバッタ型無人兵器が搭載されている。
 もっとも、今、搭載しているバッタには兵装は付いていない。
 これらの無人機械は後方トロヤ(トロイヤ)群制圧の後、現地で作業する無人機械に変わって採掘、運搬作業を行うことになっている。
 そして、これから2ヶ月以上にも渡る作戦を前に、最後の資材が運ばれてきた。
 運搬用カーゴに搭載された8基の機動爆雷が彼らの目の前を通り慎重に搭載レーンに接続する。作業員たちは弾頭部周辺のレーザードライバーに注意しながら、慎重に搭載レーンへと機動爆雷を移し替えていく。その爆雷の奇妙にくびれた部分には、黄色い地にマゼンダで放射線マークの三つ葉が描かれていた。
「10メガトンのレーザー水爆が今ある機動爆雷に搭載できる限界だったわ」
 イネス・フレサンジュは搭載用レーンに固定された機動爆雷を見上げた。
「生産数はとりあえず、八基。今の生産ラインは五〇キロトンの戦術核をメインにしてるから、今回はこれで打ち止め。残念ね」
 イネスはこの戦略核兵器がもたらすであろう衝撃を思ってすっと口元に鋭い笑みを浮かべた。
「だが、目的を達するには十分だ」「ふふふ…」
 テンカワ・アキトは短く答えた。笑みを柔らかいものにしてイネスはちらりと横目にアキトを見やる。闇雲に報復を求めようとしない。それが嬉しかった。
「お前ら、核を前になごまれても困るぞ」『そうですよ。まるでアキトが危ない人みたいじゃありませんか』「いや、じゅうぶん危ないヤツだと思うが」
 どゲシッと蹴飛ばす音がする。かくんと膝を崩してエノラが右足を抱えると、情けない表情で左に立つこよみを見あげた。ポニーテールを揺らし、アジア系の端正な顔をした少女が今、機動爆雷を搭載しているハッチから見下ろしていた。周囲にはオモイカネ・アールのウィンドウがいくつも浮かんでいた。
「どうだ、テンカワ。エンディミオンが戦力化するまでのお前の乗艦は?」「そうだな・・・」
 反応を楽しむようにこよみが訊ねる。アキトが片頬を釣り上げた。
「悪くはない。輸送艦を改修して作った割には、バランスがとれている。旧来の超長距離からの撃ち合いならば、これで充分だろう」
「へー、意外な評価だな」
 エノラが感心したようにアキトを見た。
「ん? どうしてだ?」「いや、アンタってよぉ、高加速(ハイG)高剛性(ハイ・テンション)の機体をギンギンに振り回してハイになるタイプかと」「ククク・・・」
 エノラの言葉にアキトが含み笑いを浮かべる。
「艦の排水量、重力スラスターの推力、改装後の質量バランスを見ればだいたいどんな機動ができるかぐらいの目処は付く。艦の特性がわかればどういう戦い方をするべきものかもな。道具に恵まれなければ戦えないなど、二流のいい訳だろう」
「まるで、自分が一流のような言い方だな」
 自分のつっかかるような言い方に首をかしげながらエノラが訊いた。アキトが横に首を振った。
「違うな」「ん?」
 アキトが自分を親指で示した。
「超一流だ」「・・・」「・・・」「・・・」
 アキトは周囲の冷たい視線に、自分の発言を後悔することとなる。



『作戦開始10秒前』『5』『4』『3』『2』『1』
『作戦開始です』
 軟質宇宙服のヘッドセットからオペレータの声が響いた。
「始めるぞ」
 テンカワ・アキトが呟くように告げる。
『了解』『いつでも』『いけいけ』『ごーごー』『・・・』『・・・』
「ご機嫌だな」「つーか、頭の上で暴れんで欲しいんだが」「ふふふ」
 オモイカネ改修型(オモイカネ・アール)ことアール君が上機嫌でウィンドウを飛び散らかせる。思わず、身をかがめたエノラ・パーキンスの周囲でくすくすと笑うざわめきが起きる。
 そこは輸送艦のコンテナ部を改装して造り上げられた臨時の戦闘情報指揮所だった。
 そこでは、指揮・通信管制のためにオペレータたちが32人4交代制を敷いていた。もちろん、戦闘時には総員体制になる。
「それでも・・・彼女には及ばない」
 アキトは周囲に拡がる情景を見渡し想う。
 長きに渡りアキトの眼であり耳であった桃色の少女を、いつも切なげに彼を見あげていた銀の髪の少女の姿を頭に思い描く。
「先行偵察隊、ジャンプします」
「行ったか」
 腕を組んで、傍らのシートに座るアジア系の少女がモニターに映しだされたボソン・ジャンプの姿を見つめた。通信中継器(リレイ)を抱えたA級ジャンパーたちが、この艦に先駆けて後方トロヤ(トロイヤ)群に潜入したのだ。
「でもよぉ、ここまでする必要があるか?」
 エノラが相棒の少女に問いかけた。こよみは大きな瞳のまなじりを少し釣り上げる。
「余裕のなさが失敗に繋がる。戦場では不測の事態が必ず起きる。戦場とはそう言うものだ。
 だからこそ、あらかじめ可能性に対して必要な手を打っておく。全力でな。そして、あとは現場で個々の最善を尽くせばいい。それをしないのは、無能か、怠惰さ。さもなければ・・・」「ん? なんだ?」
 珍しくこよみが言いよどんだ。エノラが先を促した。
「それをできないと言うことが、弱い、ということなのだろうな…」「ふうん…、まぁ、いいんだけどよ」
 こよみの言葉によくわからないエノラが首をかしげた。
「本艦周囲より作業員の退去完了しました」「ドック閉鎖。減圧開始」「エアロック閉鎖。気圧異常なし」「艦外気圧0.1気圧を切ります」「各位、配置に付きました」
「大将は念のためにフィールドを張っておいた方がいいんじゃないか?」「そうさせてもらおう」
 こよみはすぐに個人用空間歪曲場(ディストーション・フィールド)展開装置を機能させる。こよみ以外の乗員はすべてB級以上のジャンパーだ。定期的にDNA治療を受けているこよみだが、必ずしも安全とは言い切れない。
 アキトは傍らの少女にちらりと視線を投げた。
 今、この少女を失うのは惜しい。だが、他に連れて行ける電子戦に精通した戦闘指揮官の替わりがいなかった。
 人がいない。
 なによりも必要な専門家の人材の層の薄さが、火星軍(マーシャン・リンク)最大の弱点だった。
 それは、アキト自身についても言える。
 火星軍(マーシャン・リンク)としては熟練した艦長であり、火星でも最高峰の機動兵器乗りであり、唯一といえる航宙艦での実戦経験者だ。その知識、経験は転換点に立とうとしている火星軍(マーシャン・リンク)にとって何にも代え難いものである。それをみすみす最前線に出さざるを得ない。
 もし、この戦闘でヘンプ・パームが沈むようなことがあれば、火星軍(マーシャン・リンク)は貴重な人材を、唯一のオモイカネ型人工知性を失うことになる。
 火星軍(マーシャン・リンク)はまさしくこの戦いにすべてを賭けていた。
「総員、再度、宇宙服の気圧漏れを確認しろ」
『機関、全員問題なし』『雷装、問題なし』『観測、全員異常なしです』『艦橋、問題なし』『・・・』『・・・』
『全乗員、問題なし』
 最後にオモイカネ・アールから報告が入る。アキトは命じた。
「艦内気圧を外気圧に合わせろ」
『了解』『ただいま』『減圧開始』
 周囲から空気が排出される振動がだんだんと小さくなる。音を伝達する空気が艦内から排出されているのだ。
『完了』『全乗員に異常なし』
「ジャンプ・フィールド展開」
『ジャンプ・フィールド展開装置、機能安定』
 アキトの言葉に打てば響くような手応えでアール君が反応する。
『オール・システム、グリーン』『いつでもいけるよ』『早く早く』
 催促するようなアールの言葉にアキトは口元をゆがめて笑みを作った。
「ジャンプ・シーケンス開始」『了解』
 全乗員の正面にウィンドウが浮かぶ。同じものが、火星植民都市連合軍(マーシャン・リンク)の作戦本部にも表示されていることをアキトは知っていた。
 アキトは身体をシートに強く押しつけ衝撃に備える。
『ジャンプ・フィールド出力安定』
『よくできました』
 オモイカネ印のウィンドウが浮かんだ。
 アキトは呟く。
「ジャンプ」
 その言葉は宇宙服の通信機を通じて、伝わった。





2.

 二回目の交渉。
 クリムゾンを経由して行われている火星植民都市国家連合と木連、木星ガリレオ衛星群反地球政府共同連合体との外交交渉は前回の険悪の雰囲気を引き継いだまま続けられていた。
 双方ともに譲る形跡はない。
 無意味なまでに平行線な会議だった。いや、むしろ、火星植民都市国家連合が木連をいらだたせることに終始しているようにも見えた。
 火星側代表のヤシマ・マゴロクはなんてことでもないように言葉を続けた。
『私たちは宣戦も布告せずに市民に攻撃を行うような恥知らずではありませんから』
「なにを馬鹿なことを! 貴様たちは自分たちの立場をわきまえているのか!!」
 激高した木連高官が叫ぶ。この会談に同席する草壁 春樹も同感だった。が、しかし、これまでの過程で草壁は相手のカードが気になっていた。相手の提示してきた条件、そのメモに目を落とす。
 賠償金の請求、木連の国家予算の8倍にも達する額は決して戦時賠償として不自然な額ではない。
 戦争犯罪人、特に無人兵器を指揮し、市民の虐殺を指示した人物と責任者の裁判も妥当といえる。
 木連の戦力の解体と無人兵器を生産するプラントの管理の譲渡も、確かに要求するだろう。
 だが、その全ては『戦勝国であれば』という条件付きだ。
「火星は勝つ気でいると言うことか」
 草壁の口から思わずこぼれた言葉に居合わせる木連側の交渉者たちから失笑が漏れた。
 ボソン通信機の向こうで、ヤシマが答える。
『戦争を始めるのは、勝てると見込むからでしょう? 我々も同じです』
「現実を見つめることだ。お前たちにできることは這い蹲って助けを請うことだけなのではないのか」
 同席者の言葉に嗤いが沸き起こる。草壁は同調せずに注意深くヤシマの表情を見つめた。動じることなく淡々と事実を受け止める瞳がそこにあった。
『今はおっしゃるとおりでしょう。ですが、いずれこの状況は逆転します。
 その時、火星で我々が受けた境遇を、助けもなく絶望に見上げた宇宙を、エネルギーも食料も水もなく殺し合った姿を、ご覧になるのはあなた方です』「「「・・・」」」
「・・・夢物語だな」
 草壁が息苦しさすら感じられる空気を吹き飛ばそうとする。
『木連が火星の住民全てを虐殺するというのであれば、我々も報復として木連の人々を皆殺しにします。
 殺せば、殺される。単純な理屈です。
 あなた方は手にしたおもちゃに調子に乗って、そう言う戦争を始めてしまったのですよ。
 かつて月で始めてしまったように』
「!!」「??」
 木連側の出席者の3分の2ほどが怪訝な顔をする。だが、草壁を含む残りの者たちは火星側の担当者の言葉に思わず動揺していた。それは、木連では『高度に政治的な案件』として政府中枢に係わるものにしか知らされていない歴史的事実について言及していた。
 それを、地球連合の辺境とも言える火星の外交交渉員ごときが知るはずがない。
 だとすれば、この連中の背後にいるのは、一つだった。
「それが、航空宇宙軍の意向か?」
『さて、我々はあくまで火星都市国家連合として交渉に及んでいるわけですが。
 なにかお心当たりでも?』
 木連側の受けた衝撃を楽しむかのような表情でヤシマが問いかける。
 草壁は腕を組んで黙った。周囲では呆れたような白けた雰囲気が漂っていた。
「どちらにせよ、これでは話にならない。諸君は生き残る最後のチャンスを捨てようとしているようにしか思えないのだが」
 木連の外務を担当する高官の一人が取りなすように言葉をかけた。火星が航空宇宙軍とのパイプを持っているのであれば、地球側に対してもそれなりの影響力を持つと睨んだのだろう。
 木連の主敵は地球である。火星などその前座でしかない。
 だからこそ、木連軍はここで躓くわけにはいかなかった。
 ボソン通信機の向こうで、ヤシマが肩をすくめた。
『ですから、宣戦布告と言っているのですが』
 苦笑すら零す。
「ならば、答えは一つ。我々は悪逆な地球人に決して屈しない。諸君が語ることのできるたった一つの回答は、全面降伏、ただそれだけだ」
 草壁は腕を組んだまま重々しく答える。出席者たちは頷きで同意を示した。
 ヤシマは理解したように小さく頷いた。
『それも道でしょう。
 ですが、憶えておいてください。我々火星はいつでも対話の用意があると言うことを。
 今はわからなくとも、いずれ理解することになるでしょう』
「私にはそうは思えないが」
『じきに理解させますとも』
 ヤシマは自信たっぷりに答えると、立ち上がった。これ以上交わす言葉などなかった。
 ボソン通信機の接続は双方から切られた。
 木連側の参加者たちはしばし無言だった。
 あっけにとられた、そう表現できるだろう。
「狂ってやがる…」
 誰かの呟きが意外な大きさを持って広がった。
「追い詰めすぎて、現実すら受け入れられなくなったか」「それとも、航空宇宙軍からの支援の目処が付いたか」「馬鹿な! 確かに地球大気圏内の戦況は芳しくないが、それでも内惑星系の制宙圏を保持しているのは我々だ。地球=月圏の防衛すら満足にできない状況で、地球の奴らにいったい何ができる!」「所詮は敗者の戯れ言。口先三寸で時間を稼ごうとする賢しい手管にすぎません!」
 議論の行方を見定めて、草壁が口を開いた。
「彼らにも敗北の決意が必要だろう」「そのためにも大きな勝利が必要ですな」「うむ」
 草壁は頷いた。
「軍は直ちに行動に移るとしよう。目標は・・・」

「彼らが動き出しました」
 フェイエン・ノール火星植民都市連合軍(マーシャン・リンク)中佐は書類を片手に報告した。
 エマニュエル・ガドナスは大きなため息をついた。
「そうですか」「はい」
 ガドナスは窓の外に視線を向ける。フェイエンは報告を続けた。
「北半球に降下したチューリップから木連軍の無人兵器群が次々と出現し集結を始めております。近日中に北極冠シティに向けて進軍を開始するものと思われます。一部ではすでに小型無人兵器が北極冠シティ都市防衛隊(シティ・ガーズ)と交戦を開始したとの情報もあります」
「・・・」
「木連軍の圧縮通信の解読結果からも、無人兵器は我々にわかるよう進路を取った上で北極冠シティに対し都市爆撃を行うよう命令されていることが判明しております。
 軍は閣下の命令をお待ちしております」
 ガドナスは答えない。フェイエンも性急に回答を求めなかった。
 しばらくして、ガドナスが重い口を開いて問うた。
「欺瞞と言うことはありませんね」
 それは確認だった。決断のための必要な手続きだった。
 フェイエンは黒髪を軽く揺らして頷いた。
「はい」
「わかりました」
 ガドナスは頷いた。多くの血を自らの決断で流す政治家の表情だった。
「迎撃を始めてください。私たちは火星の亜宇宙圏の支配を必要としています。彼らが惑星の支配を進めている間に、私たちは星への道を取り戻しましょう」「ハッ」
 意思あるガドナスの言葉にフェイエンは綺麗な敬礼で応えた。





3.

 赤い大地に幾筋ものギザギザの刻印が穿たれる。
 その上空を黒と紫のカトンボ級駆逐艦とヤンマ級突撃艦が追い越していく。
 遙かな山影を縫うように幾筋もの白い煙が上がり、大地を這うように迫る。カトンボ級が前進し空間歪曲場を発生させると、その影からヤンマ級突撃艦の船倉からバッタとそれに抱えられたジョロが際限なく現れた。現れた無人兵器は挺団を組むと、カトンボ級が発生させた空間歪曲場の狭間に位置した。
 カトンボ級によって形成された前衛艦隊を確認した誘導弾が、次々と跳ね上がっ(ホップアップし)た。いったん高度を取り、正面を回り込むように前衛艦隊の主機を襲うためだ。
 そこを狙われた。
 ホップアップのために高度を取った誘導弾を無人兵器群は各戦闘挺団ごとに易々と迎撃する。最終到達速度にも達しないミサイルの迎撃など、何の困難にもならなかった。
 一機のミサイルがまた、地平から這い昇るように飛び上がる。近接する無人兵器群はレーザーによる迎撃を行うが、減速することなく上昇し続けるミサイルの動きに照準が定まらない。と、そのミサイルが自爆した。大量の煙とともにきらきらとナノマシンが輝く。
 そのナノマシンの発する誘導電波に導かれて、さらなる誘導弾が次々と煙の中に突っ込んだ。そして、姿勢を変えると、空間歪曲場(ディストーション・フィールド)の間をくぐり抜け、次々と爆発する。
 激しい爆発と衝撃波が周囲の空間歪曲場(ディストーション・フィールド)に跳ね返り、回廊を駆け抜けるように伝わる。散乱する破片と振動に、小型の無人兵器は堪えきれず、次々と爆発し、それがまた呼び水のように誘爆を繰り返す。
 空いた迎撃網の隙間をすり抜けて幾発かのミサイルがカトンボ級の空間歪曲場(ディストーション・フィールド)を揺らした。
 ぐらりと、一隻の駆逐艦が姿勢を崩し、ゆらゆらと高度を下げた。ぐしゃりとくの字に折れたカトンボ級は爆発とともに破片をまき散らし大地を抉った。
 しかし、遠距離からの誘導弾攻撃による戦果は、それだけだった。

『敵艦隊、第二次都市防衛線に入ります!』
「ノクターンを上げろ! 出し惜しみは無しだ! ここで食い止めなければ、我々に明日はない!」
『了解』『第二二航空隊、第二八航空隊、直ちに発進してください』
『第〇九航空隊より、二二、二八へ。誘導する。指揮下に入れ』
『二八了解』『二二了解』
 火星、北極冠シティ都市防衛隊(シティ・ガーズ)は火星での絶望的な防衛線の主戦力として奮闘している NACF-03 ノクターンに前進命令を出した。
 ノクターンは航空ユニットと装甲化されたエステバリスの融合という、上半身に翼端のない双胴機をかぶせたロボットの形をした奇妙な機動兵器である。重力波ビームがない場所で戦闘能力を維持するために、空間歪曲場(ディストーション・フィールド)発生装置を正面だけに限り、二基のヘリカル核融合炉を上半身に搭載した異形の兵器だ。
 軽量化のために強化プラスチックを利用したエステと異なり、有り余る出力と火星の低重力を利用して、全面装甲化している。その分重量はエステに比べて3トン強と増えることとなったが、電力が切れたら壁にもならないエステバリスよりも実戦的との評価を得ていた。
 おそらくは、充分な数と兵装があれば火星に特化した機体として高い評価を受けることもできただろう。
 しかし、そもそも生産の最初から木星蜥蜴の脅威にさらされ続けてきた北極冠シティでは最大で120機程度そろえるのが限界だった。加えて度重なる激戦で、航空隊としての形を維持しているのはわずか2個飛行隊、30機前後に止まっていた。
 その飛行隊を普段は高々度ミッションで単独行動する第〇九航空隊が誘導する。例え状況に一握りの救いもないとはいえ、上空を守る誰かがいるという事実は死地に赴く彼らに心強いものを与えていた。
 そして、さらに上空、亜宇宙高度と呼ばれる領域では別の戦闘が続いていた。

 高々度まで上昇した一二機のチグリフォーン二二型は次々とブースターに点火し加速を開始した。
 目標高度は二万三千キロメートル。
 火星の衛星ダイモスとの合流軌道だった。





4.

 エノラ・パーキンスは全員の意見を代弁するかのように呟いた。
「意外にあっけないもんだったな」
 木星軌道L5宙域、後方トロヤ(トロイヤ)群。火星植民都市国家連合軍(マーシャン・リンク)によるトロイヤ群攻略作戦は作戦開始後わずか30分で終了していた。
「血で血を洗う凄惨な戦いの方が良かったか?」「・・・いや、そいつはもう火星で充分」
 皮肉に口元をゆがめるこよみにエノラが肩をすくめる。
「あら、危険な戦いではあったのよ?」
 楽しそうに金髪を結い上げた長身の女性が告げる。手に診断書を止めたボードを持って、イネス・フレサンジュが診察室から出てきた。
「やばいとこなんてあったかぁ?」
「言うわね。そうね。例えば、ジャンプした先に偶然、木連の輸送船がいたらどうかしら? 木連とトロイヤ群を結ぶ定期輸送船が時間を間違えて到着していたら、集積基地を制圧する他に輸送船も制圧しなきゃいけないでしょう?
 ううん。輸送船なんて大きな物でなくとも、通信機の故障したバッタやジョロがいたら?
 トロイヤ群で稼働している無人機械はおよそ8万機。故障率が0.02%としても、毎日16機が故障している換算になるわ。他にも、電子制圧時に通信圏外にいたらどうかしら。こちらの方が現実的かしらね。本来到着するはずのない輸送船を見つけた時の無人機械の行動が想像つくかしら?
 あなたの言う『あっけないもの』というのは、ずいぶん幸運に支えられていたのだと感じないかしら」「いや、まぁ、その・・・」
 問いつめられる結果となったエノラは助けを求めるように周囲を見回した。視線を向けられたこよみが眉を上げた。
「その程度で失敗するような作戦など、作戦とは呼ばん」「あら、ごめんなさい」
 嘲笑するようにイネスがこよみを見下ろす。
「だったら、お兄ちゃん抜きでも勝てる作戦を考えてもらえないかしら」
 パシンとイネスの甲がボードを叩いた。こよみが眉をひそめる。
「やばいのか?」「まだ、大丈夫。でもそれは、あくまでも、まだ、でしかないわ」
 イネスは診療室で眠るテンカワ・アキトに目を向けた。
「発熱で内臓がずいぶんとダメージを受けているわ。そろそろ、臓器移植を考えるべきね。培養している臓器が固着したら、順次、移植を行うわ。コレオプテールもそろそろ試作から量産に廻せそうだから、私の方も手が空くしね」「頼む」
 短く答えて、こよみが診療室を出る。エノラは慌ててその小さな背中を追いかけた。こよみのいらだちを表すようにポニーテールがひょこひょこ揺れる。
 しばらくどうしたものか悩んでいたエノラであったが、考えるのも面倒くさくなったのか、ひょいっと手を伸ばしてこよみの襟元をつかむと、自分の肩まで持ち上げた。
「まぁ、いらだつのもわかるが、あんまり気にするな」「・・・」
 こよみを肩車すると、ヘンプ・パームの戦闘情報指揮所(CIC)に向かう。
「奴さんも今は無理せにゃならん時とわかっているのさ。アールもそれがわかってたから、何も言わなかったんだろ?」『はい。済みません』
 話を聞いていたのか、ウィンドウがこよみの前に現れた。銅鐸のアイコンが申し訳なさそうに身を縮めていた。こよみはエノラの頭上で小さく頭を振った。
「いいさ。無茶は承知だからな。ただ、いつまでもこの調子ではな…」
「あら、こよみ、お帰り。どう? アキトの具合は?」
 戦闘情報指揮所(CIC)の扉が開く。帰投したばかりなのだろう。グレーの戦闘宇宙服(ソフト・スーツ)を着たままのササハラ・イオリがヘルメットを片手に訊ねた。
「ああ、大したことはない。しばらく医務室で寝かせておくつもりだ。ま、余裕ができたら後送するさ」「あー、酷いわねぇ」
 イオリが苦笑する。それに誘われるように周囲で聞き耳を立てていたオペレータたちの表情に笑みが浮かんだ。
「それで、これからどうするの?」「これから、か・・・」
 こよみは自分がそんな当たり前のことも指示していなかったことに内心ショックを憶える。しかし、そんな動揺を顔に出さずにふくれっ面のまま答えた。
「しばらくは、そうだな、一月ぐらいはこのままだ。後方トロヤ(トロイヤ)群を我々の根拠地にするためにいろいろとやるべきことがある。アレの準備も進める必要もあるからな」「アレって?」「・・・」
 当たり前のように首をかしげるエノラに、頭の上でこよみが眉をつり上げた。
「この輸送艦にたっぷり積み込んでる無人兵器のことだ! ここの採掘基地を利用して、修正したプログラムを載せた無人兵器が木連に潜入しても大丈夫かどうか実地検証を行う予定になってるだろう!!」「いや、わかったから頭の上で騒ぐなよ…」
 エノラは耳を押さえて訊ねた。
「んじゃ、火星はどうするんだ?」「・・・フェイエンたちに任せるさ」
 こよみは醒めた目で見つめ返した。
「私たちはスーパーマンじゃない」
「古っ!!」「・・・こよみ、ヲタだったのね?」「突っ込みどころはそこかよっ!」
 笑い声が上がる。
 2095年10月、後方トロヤ(トロイヤ)群は火星植民都市国家連合によって制圧された。
 しかし、その事実を知るものは、彼ら以外まだいない。





0...

 その日、森には雪が降っていた。
 白い雪を踏んで黒いエナメルの靴が小さな足跡を残し、すぐに雪に埋もれて消える。
 舞うように軽やかな足取り。
 雪に踊る黒いドレス姿の少女。
 それは幻想的で、氷点下のはずの大地をそんな薄着で軽やかに歩くことの異常性に気付くことすら忘れてしまうほどだった。
 ほっそりと伸びる白い腕がもたらす、死とともに。



 刻を告げよう
 死をもたらす時が来たと
 破壊をもたらす時が来たと
 祈りと怒り
 希望と絶望
 すべてをさらけ出し、願え
 せめて安らかなる死を





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 あとがき

 さぁ、これでメイン予定全キャラだな(w
 あとは減る一方なので気が楽です。であであ。