One and Only my shining star : Another episode
純白の盾
Shield of Innocence
機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story
Descripted by Veneficus.
第五話後編
露骨に艦の足並みが乱れている輸送艦隊に接近する。接近するにつれ、状況が見てきた。
どうやら、わたしが撃った弾は輸送艦の前方に展開しようとしていた護衛の一隻に当たったらしい。飛び散った破片に泡を食って後続の艦が回避したところ、輸送艦が回避しきれずに引っ掛けて、それがまた広範囲に破片をばらまいた、と。
あーあ。
これで多分、わたし単独で人を殺した数、ザフトでぶっちぎりナンバーワンね。
・・・ちゃんと避けなさいよ。
わたしは機体を接近させる。正直、輸送艦隊はどうでもよかったのだ。付属の護衛艦と多少戦闘して追って来れない程度に損害を与えたかっただけで。
ああ、もう!
ここまで被害が出ちゃったら、護衛艦隊が意地になって追ってきちゃうじゃない!
頭の片隅で囁く誰かがいる。そんなのしょせんは殺す側の論理だと。人間には本来、他者を殺すことへの心理的抵抗などない。ヒトは容易にヒトを殺す。なぜなら、自己と他という形で対比された世界において、自己でない全ては均質な現象でしかなく、異形のモノでしかないからだ。
倫理はその他で発生している現象に自己を投影することで、自分が意味付けすることによって発生する。もし、そこに理解の不能などの自己投影の失敗が起きたとき、異貌の視線は畏怖にも、恐怖にもなる。
そして、ヒトは不安と恐怖を解決するための最終手段に飛びつくのだ。
そっと目を伏せる。
生産される、多くの死。
この大量に死が生産される時代には、個の存在は過剰に現れる。それはわたしのような大量殺人者であったり、たった今、わたしの適当な攻撃によって死んでいった1万人近い人々であったりする。
わたしと彼らは奪い、奪われた関係だけど、その関係は絶対的なものではなく、次の瞬間にはわたし自身がユニウス7で死んでいった20万人の一人になる。
そんな危うい時代。生と死、強者と弱者と言う枠組すら無意味な、誰もが簡単に大量殺人者にも、虐殺される側にも回る時代。
無力さに裸で打ちのめされる。
ひとはみんな彼らのように無重力に投げだされ、やがて地球の大気の摩擦に燃えて消えていくのだ。
この無力さの世紀に、ねぇ、ラクス、あなたは何を語るのかしらね。
アラートが意識をはっきりさせる。
艦隊方向から三機の機動兵器が接近してくる。どうやら本格的に迎撃するつもりではないようだ。アルピオーネは機動兵器戦はあまり得意ではないから、適当に相手にしてくれる状況はありがたかった。
いまの相対速度は秒速20キロを少し越えたぐらいだ。
・・・変ねぇ。加速力が違うのかしら。
接近してくる三機の速度がばらばらだ。同一機種ならちゃんと戦列を組むんだけど。
わたしは一番速そうな機体と、地球軍の輸送艦隊が同一射線上に並ぶよう、機位を補正する。レールキャノンの弾数を確認。引き金を引く。
伸びるアーク。
しかし、着弾まで10秒以上かかるこの距離で当たるものではない。背後の輸送艦隊のように行き脚を止めていない限りは。
わたしは散開した敵機動兵器のうち、一番加速の良さそうな機体を選ぶと、スラスターを吹かして速度を同期する。相手の機影が小さいから少し心配だったけど、運動能力はともかく機動力、加速力はこちらのほうが優速だ。となると、戦い方は決まり。引っ張りまわしてあげる。
敵の輸送艦隊はいまだに動き出す様子はない。もしも、分遣戦隊を編成し、わたしの戦隊を追いかけるようなことがあれば、突撃もやむなしと覚悟していたんだけど、このまま手前の機動兵器の燃料が尽きるまで、輸送艦隊を盾に叩き続けばいい。
NJCの持つ圧倒的な制宙能力で戦場に君臨する。イージス・アルピオーネは戦域の女王となる。
こういうとき、実体弾は楽よね。宇宙じゃ速度が低下しないから、どれほど遠くからでも威力が変わらない。心配なのは残弾だけ。
うーん、最初に景気よくばらまいたからなぁ。
追いすがろうと必死になる手前の機動兵器を適当にあしらいながら、わたしは離脱タイミングを計算する。接近する、というか、接近しようと必死な機動兵器に速度をあわせていたから、結構な軌道速度を持っている。
戦隊への合流はとうにあきらめていた。アルピオーネは月軌道を往復する能力を持っているから、わたしは直接プラントまで戻ればいい。
ん?
輸送艦隊から二隻ほどの戦闘艦が分離しようとしてる。ともに大型の戦列艦、つまり戦艦だ。どうするつもりかしら。
いつのまにか、あの三機の機動兵器が接近を止めていた。相変わらずちょこまか動き回っているけど、多分、フェイクだ。その証拠に、あの鈍速の支援機がいつのまにか輸送艦隊へのわたしの攻撃を迎撃できる位置にいる。
嫌な予感がする。
地球気圏上層と言うこともあって絞っていたセンサを開放する。熱と電波雑音がすごい。目を凝らすように幾重にもフィルターを通してあの二隻の動きに注視する。
軌道を変えている。周辺にいた艦艇が退避している。
複数のビームがわたしめがけて放たれる。機動兵器程度のエネルギーでは届くはずのない攻撃が繰り返される。
うっとうしい。
ビームが放たれるたびに発生する電磁波と熱量がセンサを眩ませる。
わたしは射線が整うタイミングを見計らって、斉射を放った。狙いは奥でビームを撃つ鈍い奴だ。自分は狙われていないと思っていたから動きが単調で回避範囲が狭い。見事に命中! 確実な手応えに、わたしは撃破を確信する。
でも、次の瞬間、何もなかったかのようにあいつは姿勢を直すと、再びビームを撃ってきた。さすがに今度は回避運動に余念がない。
クッ、こんなことで動揺するなんて。
自分の考えの甘さに舌打ちする。フェイズ・シフト装甲はもともと地球軍の技術だ。たった三機でわたしをくいとめようという機動兵器が装備していないわけがない。
ストライク・ダガーとかいう量産を開始した制式機はPS装甲を装備していない。その主目的は制宙にあるから、おそらく戦闘時間での優越を取ったのだろう。
だが、この三機は違う。
たぶん、オーブ戦に現れた特殊用途機だ。
戦局の中にはどうしても堅固に守られた拠点を打通しなければならない局面がある。そこに必要なのは数ではない。困難な状況の中ですら一時的にでも圧倒する無造作なまでの力だ。
あの三機にはそれが求められたのだろう。
フリーダムとジャスティスの二機と渡りあって負けなかった。それだけの戦闘力を秘めている機体だった。
ぞくりとする。
わたしが今あの機体を圧倒していられるのは、あくまでNJCによって与えられた豊富で無制限のエネルギーのおかげだ。そのおかげで、わたしはこの戦いを機動兵器戦ではなく、運動戦に持ちこめている。果たしてアルピオーネ単機であの三機とやりあうことができるのか、と問われれば、答えは否だ。
ドラグーン・コントロールに浮かぶあの二隻に意識を集中する。意識は時系列を進めて予測軌道を脳裏に描き出していた。
行く先は月への全力加速か、それとも・・・。
動き出した。
機関の赤外放射、そのドップラー・シフトから方向と加速を算出する。
結果は最悪だった。
ドラグーン・コントロールは八割がたの予測であの二隻の針路をデブリ・ベルト前でわたしの戦隊を捕捉するものと示していた。
唇をかみしめる。
輸送船を改装した特務艦と最初から戦艦として設計された戦闘艦では戦いの趨勢は明らかだった。頭の中ではわかる。
ここで彼らを見捨てても、それは仕方がないことだ、とわかっている。
戦うのは、すごく怖い。戦いたくない。逃げ出したい。
でも。
わたしはシールド・ドラグーンの正常動作を確認する。各部の状態をチェック。
レール・キャノンの残弾も乏しい。相手はフリーダムとジャスティスの二機で互角あった相手だ。わたしのアルピオーネは電子戦機。しかも、機動兵器との格闘戦では圧倒的に不利な宇宙機だ。なにより、NJC搭載機であるイージス・アルピオーネを危険に晒すわけにはいかない。
頭の中で、戦わない理由が幾つも幾つも浮かぶ。逃げ出した言い訳が繰り返される。
でも、失ってしまうことは、もっと辛い。
機関正常。レール・キャノンの残弾は乏しいけど、近距離・格闘戦用のビーム兵器は大丈夫だ。なにより、加速性能、戦闘時間においてアルピオーネは優越している。
戦艦から増援の機動兵器が出てきたら辛いけど、そのころには戦艦はわたしの射程に入っている。
大丈夫。わたしのアルピオーネはきっと全てを守りきってみせる。
モルダブ船長あてに退避軌道の指示をだす。へんに小細工せずに一番近い友軍の制宙圏内に逃げ込ませるのだ。そして、一番近い友軍艦艇に支援を要請する。作戦本部にも同様に、支援を要請したことを圧縮通信で送った。
わたしは戦艦の追尾軌道を計算する。最短コースではない。あの三機の機動兵器を迂回するよう、たとえ1秒でも、会敵までの時間を遅らせるよう機動補正に余裕があるコースを選ぶ。わたしの目的は母艦を逃がすこと。機動兵器を撃破することじゃない。
ふと、脳裏にあのいやらしい男の言葉が浮かんだ。
「僕はただ、地球軍とザフトの最新兵器の饗宴を間近で見たかっただけです」
ああ、きっとこれはあの男にとっては、ただの気まぐれ、ショーでしかなくても。
アルピオーネの機関出力を全開にする。
推進材があまりの高熱にプラズマ化し、亜光速に近い速度でスラスターから排出される。それに押されてアルピオーネは激しい加速で突撃を開始した。慣性でわたしの身体はシートに深く押し付けられる。
クッ、奥歯を強くかみしめる。
Gに全身が重く、身体が数倍にも感じられる。
・・・ん? 気のせいか、以前、全力加速したときよりも・・・、身体が、鈍い・・・。
うそっ、太った!?
以前より、息苦しくて、身体が・・重い。
そんなはずはない。この間も、少しだけ加速してもらって、低重力体重計で変わっていないことを確認してる!
加速表示が間違っていたのだろうか。もしかして、いたずらされていたとか。
ドラグーン・コントロールの視界に敵機動兵器が動き出したのが見える。わたしの計算した軌道に進出するつもりだ。戦闘機動に備えて腕に力を込める。軽い。わたしの感じている息苦しさがまるで嘘のように腕が動く。
どうゆうこと?
考える。わずか200グラムの増加でも5G加速すれば1キロの加重になる。だとしたら、お肉がついたのは・・・。このあいだ、カップがひとつ上がったことを思いだした。
こんなときだけは、ラクスのスレンダーなスタイルもいいわね、としみじみ思った。
遠距離から放たれるビーム砲がアルピオーネをかすめる。磁束から飛び出した荷電粒子が亜光速で周辺に跳びはね、アルピオーネの電磁シールドに凍りつき運動エネルギーを光の形で放出する。
ほんのりと浮かび上がる純白の機体を、猛禽にも似た黒い機体が追いすがる。
しつこい!
わたしは一瞬だけフル・スラストで加速すると機体の姿勢制御スラスターを使って、アルピオーネを反転させた。流すように40ミリビームガンを撃ち放す。黒い機体はわたしの加速を追いかけようとした鼻先にビームを受けて、慌てて機体を翻した。
わたしは機体の回転を止めずに機首前方下部のスラスターを吹かせて跳ねるように機首を上げると、すぐに加速を開始した。わたしの機体運動を予測して撃たれた二条のビームが空を通りすぎる。
加速のベクトルが予定軌道に向かうものを保持していることを確認して、ドラグーン・コントロールに映る敵味方の配置に意識を向けた。
敵戦艦は地球低軌道からのパワードライブによる離脱を続けている。わたしはなんとか追いすがっているが、このままだと逃げきられてしまいそうだった。
それにしても強い。
わたしは機体を激しく躍らせて、強引に加速方向をねじ伏せた。
緑色の円盤のような機動兵器から放たれたビームがわたしの機体を刈り取るかのようにねじ曲がる。ロールしてかすめるビームを頭上に見ながら、加速タイミングをあわせて、横滑りに流れる機体から炎を吐きだした。
すぐに青い機体の射線に晒されるのがわかる。
クッ、わたしは意識を鋭く跳ばした。長射程のビーム束が迫る。しかし、左翼から跳びだした白い翼が、その光束を押し止めた。
すり抜ける。右! 再び、右から跳びだした翼が行く手を阻むように曲げてきたビームを食い止めた。
加速し速度に乗ったアルピオーネに、ひらりと双翼の白が舞い戻った。アルピオーネ双翼のシールド・ドラグーンは、よくその主を守ったのだ。
相手の攻め手が止まった隙に、ぐんぐんと敵戦隊との間を詰める。
シールド・ドラグーンを排出。機体を慣性飛行にし、姿勢制御スラスターで機体の回転を押し止めた。
行けッ!
確信と共にレール・キャノンを撃ち放つ。四連装から放たれた幾多の光の行方を見届けず、わたしはすぐに機体を翻した。
ドラグーンが受けとめるいくつもの光。わたしの翼は直ちに機体を追い、わたしを傷つけようとする害意からわたしを守る。
純白の盾が、守り抜く。
わたしはアルピオーネを反転させた。戸惑うように、あの三機の機動兵器が動きを横に滑らせる。
彼方で光がはぜた。
自然と口元に笑みが浮かぶ。今のわたしは誰にも負けない。そんな根拠のない自信がわたしに戦場を掌握させる。
ドラグーン・コントロールがあの敵戦隊の加速が停止したことを伝えてきた。遅いわね。
あとは、こいつらだけ。
放たれたビームを機体の横滑りだけで避けた。
わかる。限定された戦域に絞り込まれた意識。機体の向きから放たれるビームの軌跡、反動に揺れる加速位置まで未来に向けて識る。
撃ちこむレール・キャノンが緑色の機体の円盤を捉えて跳ねとばす。格闘戦に入ろうと近寄る黒い猛禽の左翼にビームを撃ちこむ。そして、逆に近寄り、わたしを狙う青い機体との射線上に置いた。その影から、緑の機体にレール・キャノンを撃ちこむ。黒い機体が逃げ出す。その背にもう一度ビームを撃ちこむと、突撃。シールド・ドラグーンを前方に展開して、ビームに耐える。直後、レール・キャノンを連射した。正面から突っ込む形となった青い機体の頭部が吹き跳んだ。取り囲まれる前にドラグーンを回収すると、機体を横向きに倒し、全力加速。斧のようなブレードを振りかざす緑の機体にレール・キャノンを撃ちこむ。二斉射で弾が切れた。ならば、ビーム・クローで…。
その時、ロックオン警報が鳴った。
はっと我に帰る。ドラグーン・コントロールが敵戦艦からの対空ミサイルの発射を伝えていた。
こんなことも気付かないなんて!
自分に舌打ちする。
ずいぶんと視野狭窄におちいっていたらしい。加速して逃げ出す。駄目。一、二発は避けきれない。
衝撃に全身が揺さぶられる。続くハンマーに殴られたような衝撃に一瞬意識が遠くなった。
くらくらする。
しゅういでなにかがてんめつしている。
すごくうるさい。
おれんじとあかにくらいせかいが。
きこえる。
ろんどがきこ・・・。
鋭い圧縮通信の受信音に意識が一気に覚醒した。周囲に点灯するロックオン警報に慌ててドラグーン・コントロールを掌握する。
近い。
わたしは双翼のシールド・ドラグーンを展開すると可能な限りミサイルを迎撃する。4機目まで撃破したところで、シールド・ドラグーンが吹き荒れる近接信管の爆散破片を防ぎとめた。
わたしはドラグーン・コントロールに映るミサイルを睨みつけて、離脱のタイミングを図った。舞い散る破片の効果範囲内ではミサイルは破片の反射波に目を眩ませて自爆してしまう。そのため、クラッタ発生源が収まるまで、攻撃の手を緩めざるをえない。
わたしは噴射炎をミサイルの破片に向けて放射する。周囲の破片が機関の熱を受けてわたしのアルピオーネを電磁的におおきくぼやけて見えさせる。
十分な偽装を行うと、タイミングを見計らって一気に加速した。ドラグーン・コントロールに展開する敵戦艦の機動兵器部隊に捕まらないように、複雑な機動を取って逃げ惑う。
地球軍もあれだけのミサイルを受けたアルピオーネがまだこれほど動けることに驚愕しているのだろうか。追撃の手が緩い。
わたしはミサイルに十分対処できる距離を取ると、ようやく周囲を見渡すだけの余裕を持った。
あの三機がいない。気付く。
アルピオーネのセンサは間断ない攻撃でぼろぼろだった。当然だ。センサやデトネイターは精密機器だ。いくら機体の主要部はフェイズ・シフト装甲で守られていても、受光機やアンテナまで守ることはできない。
わたしはわずかに生き残っていた近距離用のレーダーを再起動させた。近くに危険な敵機は存在していなかった。すこしだけ安心して自己診断機能を流す。
そして、その間にシールド・ドラグーンに帰還信号を送った。左翼のドラグーンは帰ってきたが、もうひとつは反応がない。仕方なく、自爆信号を送る。遠くで小さな赤外反応を観測した。
機体を旋回させて生きているセンサで周辺宇宙を探る。どうやら、あの三機は撤退したようだ。
!! 地球軍の戦艦は!?
機体の回転を止めて、周囲に視線を向ける。反応がおかしいセンサを次々と再起動させて、反応がないものは落とす。そして、ドラグーン・コントロールの再起動を試みた。
駄目だ。立ち上がらない。
わたしはドラグーン・コントロールをあきらめると、敵戦艦の記録されている最後位置と現在の観測情報を照らし合わせた。
いない。近距離でのセンシング圏内に敵戦艦の反応はない。
赤外反応は。わたしは周辺宇宙にまき散らされている推進材の分布熱から敵戦隊の機動を見ようとする。でも、わからない。あれから時計を見てもそれほど時間が立っている様子はないのに、敵戦隊から吐きだされたとおぼしき熱分布は周囲を撹拌するように散らばっており、そこからどのような軌道を取ったのか、ぜんぜん推測がつかなかった。
「お願いよ・・・」
涙ぐみながら、なんども何度も同じ操作を繰り返す。
「追わなくちゃいけないの」
壊れかけのCCDカメラを予測軌道に向ける。戦艦の排気炎は目立つ。その光が捕まえられれば、そう思って機首を振り、観測圏をマッピングしていく。同時に時間差分も取って丁寧に重ね合わせる。わずかな差異も見逃さないように。
「だから、見つかって。お願い・・・」
地球が遠い。遥かな場所で、加速する幾つもの光が見える。あれは船団が月に向けて出発したのだろう。
戦闘記録から、針路予測を立てる。互いの相対位置や、慣性から取りうる軌道を読み取り、受け取る観測データと比較する。
「お願い。お願いよぉ」
涙が溢れる。無重力の中、幾つもの水滴が宙に舞った。
わたしはがっくりと顔を伏せると、身体を抱えた。
見つからない。
それはわたしが結局、わたしの仲間達を守れなかったことを意味していた。
「どうして・・・」
呟きがコボレル。
「どうして、みんな、わたしを残していなくなっちゃうの…」
パパもキラも死んでしまった。シーゲルのおじ様も死亡が確認された。ミゲルもニコルも逝き、また仲間達もその列に加わることになる。
なんで、わたしやあのアズラエルのような大量殺人者が生き残るのか。
神様は残酷だ。奪うものを責めず、奪いたくないものたちから奪う。おかしい。間違ってる。世界はなんて不公平なんだろう。
どれほどそうして泣いていたのだろうか。頭が重い。
もう、どうでもいい。
そう思って、身体を拘束するハーネスを外した。無重力に身を任せ、どこに辿りつくこともなく、漂う。
静かで暗い機内。コクピットの計器を照らす灯りだけがぼんやりと光って…。
ああ、もう、うっとうしいわね。
わたしは赤く点滅する圧縮通信機を睨みつけた。ひとがひたってるのに、こんな受信確認を要求する通信なんて送ってきて。
わたしは八当たり気味に通信機のコンソールを開いた。確かにさっきはこの着信に助けられたんだけど。
暗号を解読して、通信文を映しだした。
読む。
えーっと・・・。
わたしは目を疑って、何度も読み返した。
『アルスター隊の支援要請を受信。ザフト軌道艦隊への合流を指示す』
短くそっけない文書だったが、わたしは発作でも起こしたように笑い出した。
たったこれだけで、幸せになれる自分を安上がりな人間だと感じる。
だって、これはみんなが無事プラントに帰還できるってことだから。
わたしはアルピオーネをプラントへの帰還ルートに乗せると、疲れて寝てしまうまでひたすら笑いつづけていた。
幸せだった。
本当に幸せだったのだ。
その時のわたしは、これがつまり、ザフト軌道艦隊が月周辺の制宙圏を失った結果なのだと言うことに気付いていなかった。
そして、わたしはザフト最後の防衛線、滅びゆく故郷の存亡を賭けた戦いで、彼と再会することになる。
最終更新 $Date: 2004/09/29 11:24:14 $
文書 $Revision: 1.4 $