One and Only my shining star : Another episode
純白の盾
Shield of Innocence
機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story
Descripted by Veneficus.
第四話
始まりは月を封鎖するザフト軌道艦隊から届いた暗号文だった。
「月より有力な艦船五を含む輸送艦隊が軌道艦隊の封鎖を突破した模様です」
後方、軌道艦隊司令部から中継された予想軌道と邂逅予定が作戦指揮卓に表示される。カーペンタリアから物資を打ちだすための準備も、現地工作員から報告されていた。
わたしは軌道要素を一瞥して、船に積載されている装備をチェックした。特に低軌道監視衛星と爆雷の数が十分であることにほっとする。置きみあげも十分用意できそうだった。
「出撃します。今回はアルスター隊初の攻撃となります。戦果を拡大することよりも、作戦の妥当性や訓練どおりの行動が行えるかどうかを優先してください」
わたしの言葉に、CICに緊張が走った。
「でも、地球軍もこんな規模の部隊で護衛だなんて、ザフトを舐めてるの?」
わたしは内心の緊張を押し殺して、いかにもつまらなそうに首を傾げて、腕を組んだ。
たぶん、わたしの意図を理解してくれたんだろう。モルダブ船長がおいおいとばかりに肩をすくめた。
「勘弁してくれよ、お嬢ちゃん。連中にしてみれば、地球から打ち上げた護衛部隊だっているんだ。数は足りると見えるんじゃねぇか」
「数って言ったって、低位軌道に安定するまでは展開できないし、典型的な各個撃破になるんだけど」
「いや、そりゃ、嬢ちゃんみたいに低軌道殴りこみなんて、普通はやらないからな」
モルダブ船長がため息をついて顔を右手で押さえた。わたしはすねるように頬を膨らませた。
「ふん、へま打って頭を押さえられたりしないでよ。わたしは少し仮眠するから、向こうの輸送艦隊に見つかる頃に起こして」
そう言って、髪をかきあげる。
「ほいほい、余裕だな」「寝不足は美容の大敵なの」
背中越しに軽く手を振ってCICを後にする。私室にあてがわれた部屋に辿りつくと、扉をロックしてその場にへたりこんだ。
余裕なんか、ない。
わたしが指揮を取るわたしの戦争。
きっと敵も味方もいっぱい殺す。そんな戦争をわたしはこれから始めるんだ。
手さぐりで部屋の灯りを消す。
膝を抱え、微かな重力に身を任せて、わたしはただ時が過ぎるのを持ちつづけた。
地球軍がわたしたちの戦隊を発見する頃に合わせて、わたしはCICに戻った。
地球軍の輸送船団の動きは鈍い。わたしたちの特務艦の方が多少優速だろう。
もっとも、この程度の速度など軌道の取り方しだいでなんとでもなる。かれらとわたしたちの最大の違いは、彼らは地球低軌道で荷物を受け取るために減速しなければならず、わたしたちは地球重力圏をフライ・バイできると言う自由度の違いが重要だった。
「地球軍は護衛艦隊を分離しないようね」
わたしは作戦指揮卓に表示された各艦の加速状況から、一番懸念していた自体が起きていないことにほっとしてた。わたしは地球軍が護衛艦隊の一部を分離して、わたしたちの針路上に展開されることを怖れていた。もしそうなれば、わたしたちはまともに戦うこともできない船で逃げ惑うしかなかった。
「機動兵器を発進させている様子は?」
「ありません」「そう」
わたしは満足そうに肯く。
本当はびくびくものだった。地球軍はまだこの二隻の艦の目的を考えあぐねている。わたしなら念のために索敵機を出す。それをしない敵の艦隊司令は剛胆なのか、無難な行動がお好みのようだった。
わきの下に冷たい汗を意識しながら、わたしは無重力に身を任せる。
「アルピオーネの出撃は中止。予定どおり、両艦よりのミサイル攻撃で作戦を開始します」「了解」「作戦開始まで、およそ1時間58分」
わたしは誰かに引っ張られて床に降ろされた。跳ねあがる反動をマジックテープが引きとめる。
わたしは礼を言うと、指揮卓に肘をついた。
「ちゃんと寝てきたか?」
モルダブ船長がなにげなく囁く。
「いつもより、化粧が濃いぜ?」
「そんなわけないでしょ!」「グォッ!」
一撃で黙らせた。まったく。
「寝れるわけないじゃない…」
口の中で呟くと、わたしは指揮卓にうっすらと映る自分の姿を覗きこんだ。うん、大丈夫。
作戦前に化粧の心配をするのも、なんだかなぁ。
「パイロット、集合」
作戦開始1時間前になり、わたしはブリーフィング・ルームとは名ばかりの食堂にパイロットを集めた。とっても、このルーズィ・バケットにいるパイロットはわずかに二名。わたしが直卒する新人パイロットだ。
わたしの隊に派遣された八名のパイロットの内、六名までが訓練を終了したばかりの新兵だった。それを聞いたとき、特に心配はしていなかった。確かに特務艦による通商破壊に熟練パイロットをつけたいと思わないだろう。同行する参謀の申し訳なさそうな表情が気になったが、このひと、いつも申し訳なさそうな顔をしてるから、気軽に肯いていた。
だけど、着任したパイロットとアルピオーネとの共同訓練をしてようやく理解した。新人パイロット達は本当に機動兵器を動かせるだけだった。
慌てて機動訓練時間を聞くと、200時間にすら達していない。わたしは訓練スケジュールを僚機に同行できること、その一点に絞ると、ベテラン二人と両艦の艦長を集めて考えた。むろん、生き残る方法についてだ。
いまさら人員の交代はできない。敵の襲撃まで寸暇を惜しんで訓練をしても、開戦当初の新兵レベルにまで引き上げることは難しい。死なないために、死なせないために、手段を選ぶ余裕などなかった。
結局、熟に付けるしかなかった。ふたりのベテランに新兵を付けてペアを構成する。当初の予定ではわたしが四機を直卒して襲撃を行うつもりだったが、わたしは単機で突入し後続の四機に攻撃指示を行うより攻撃的なシフトに変更した。残り四名の新人は戦術予備と、母艦の護衛にあたることになる。
わたしの予備機だったシグーも使うことにした。カーペンタリア戦も経験したことのあるパイロットにシグーを与え、もうひとりにはビーム兵器を搭載したジンを任せる。
地球軍のダガーという機動兵器がでてきたら、わたしたち三名が対抗し、新兵は下げるしかなかった。
僚艦のハーデン・ブルームとも直接通信を繋げて、全員の顔を見つめた。
緊張している顔、不安げな顔、心配そうな顔、悔しそうな顔。さまざまな容貌がわたしを見つめる。異貌の視線に晒される。
だから、わたしは胸をはって告げた。
「まもなく出撃します。みなさんは今回の作戦を遂行する十分な能力を持っていることをわたしが保証します。
気楽に、さっさと片付けましょう」
通信の向こうとこちらで苦笑が上がる。実際、今回の作戦は難度が低い。これをさっさと片付けられないと言うことは、ザフトの主力である機動兵器パイロットの基幹要員の養成に失敗したことになる。戦略的に無意味な戦闘で兵を無駄に消尽した今のザフト上層部は本当にそのことを理解しているのだろうか。
今回、わたしの直掩のにジン二機は母艦の護衛にあてられる。わたしのアルピオーネにジンでは追づいできないというのが、その理由だが本当は彼らはまず戦闘をするのではなく、僚機と飛べるようになるべきだと判断したからだ。だから、今回は純粋に腕ではなく、友軍機と行動を共にできるという点で襲撃メンバーを選んでいた。
「それじゃ、艦を任せたわよ」
緊張するふたりに声をかけ、わたしはアルピオーネに搭乗する。
「お任せください!」「隊長に御武運を」
軽く答礼をして、わたしはアルピオーネの操縦席に座る。大丈夫。地球軍の行動は予測の範囲を出ていない。
きっと、大丈夫。
地球への降下軌道に向けて、ルーズィ・バケットとハーデン・ブルームが宙対宙ミサイルを発射した。
今ごろ地球軍は大慌てだろう。カーペンタリアのマス・ドライバーから打ち上げられたばかりの艦隊は、今だ気を抜いている状況だ。そこにミサイルを打ちこまれては、たとえ迎撃に成功したとしても、散乱する破片の被害を回避することはできない。
『モビルスーツ隊、発進準備』
レシーバーに響く声にわたしは管制室に親指をたてて見せる。
『各機、機体状況を報告』
「こちらシールド・メイデン、イージス・アルピオーネ異常なし」
『シールド・メイデン、ウォータールーフ了解。・・・全機より異常なしとのことですが、整備よりパイク02の脚部アキュムレーターに異常を確認したとのことです。どうします?』
「パイク02はルーキーよね。パイク02の出撃は中止。チャリオット01を交代させて
――キャセイ、聞こえる?」
『はい、隊長。良好です』
アルピオーネの隊内通信で同行する艦のパイク・リーダーに呼びかける。シグーの指揮通信機能は良好のようだった。
「あなたのところのルーキー、気合い入ってるのはいいんだけど、機体の異常を報告していないようよ。チャーリー01と換えるけど、いける?」『C01って言うと、シィンですか。大丈夫です』
「わかったわ。――ハイ、セザワ。あなたは今回居残りよ。警報が出ていないのか、報告しなかったのか、あとでとっちめてあげる。しばらく、ハンガーで待機していて」
『…了解です。隊長』『チャリオット01、発進準備よろし』
『モビルスーツ隊全機へ。まもなく射出ポイント。武運を祈る。ザフトのために!』
二隻の船に搭載された機動兵器がつぎつぎにコンテナから射出される。
わたしは全機が射出されるのを確認して、管制室にうなづいた。
『イージス・アルピオーネ、発進シーケンスに入ります』
「こちら、シールド・メイデン。お土産、たのしみにしてて。
ザフトのために」
お決まりの言葉に添えて、投げキッスを送る。
アルピオーネを固定していた電磁ラックが解除された。わたしは空気圧で押し出される機体がするりとコンテナ外まで押し出されるのを感じると、ゆっくりとスラスターから推力を引きだしていく。姿勢制御スラスターを軽くあてて流出空気による機体の回転を止める。
そして、一気に加速を開始した。
アルピオーネの流れるような身を任せる。スクリーンに映る漆黒の闇。すすの付いた銀色のおもちゃのようなコンテナ船をするりと追い越し、ロールをする。ほんとはベクタースラスターなんだからこんなことしなくてもいいんだけど、そこは気分だ。
先行する機動兵器隊に合流する前に、アルピオーネの通信管制機能に火を入れた。正規戦闘艦と違い射出ブロックに充分な遮蔽がないコンテナ船でこんなことをしたら、乗員全員がこんがり生焼けだ。基本的な電通はともかく、戦闘管制に耐えるかどうかは、こうして試してみなければわからなかった。
「ビーム発信出力良好。ディテクト・インジケーター1番から20番まで問題なし。ドラグーン・コマンド反応良好。ドラグーン・コントロール接続シーケンス開始。
IFFリレイ接続。『バケツ』と『帚』を認識。
こちらドラグーン・コントロール。これより、『バケツ』と『帚』のコマンド・コントロールを当ドラグーン・コントロールの指揮下に入れます」『こちら、バケツ。接続良好。貴機の指揮下に入る』『帚・コントロール。全状態問題なし。お嬢様の御気の召すままに』
「フフン、言うじゃない。反応良好。僚艦共にデータ・リンク確立。
アルピオーネ、全センサ開放。最上位コマンダーとして、シールド・メイデンを宣言。
モビルスーツ隊、各機。コマンド・コントロールをシールド・メイデンに」
『『『『『『了解』』』』』』
アルピオーネの三次元モニタにセンサに引っかかる全てが表示され、ドラグーン・システムを通じてわたしの空間認識に伝わる。
フィードバックの影響からいきなり視界が開けたように認識が拡大する。周囲の空間に展開する全てが手に取るように把握できる絶対の支配感。いつなにが起こるのか、わたしはその中でどうするべきなのか、その全てがわかる。自分が世界の現象そのものであるかのように透き通った透徹した知性と、余計な全てをそぎ落としたような剥き出しの意思が支配する。
でも、わたしにはわかっている。
この世界の何もかもが理解できそうな感覚、その全てが錯覚に過ぎないと言うことを。
変な宗教かぶれのマルキオとか言うひとはそれをなんとかって変な名前で呼んでいたけど、わたしには普段慣れていない空間把握を意識させられて空間失調しているハイな状態にしか思えない。そんな状況だとまともに地に足が付いた思考なんてできるはずがない。
仮定に仮定を積み上げた幻想の知性だ。頭がいい人ほど陥りやすい、無限と言う名の外向きに開放された閉塞。その中で人間性を削ぎ落とした純粋な意思が自身の正しさを主張する。なまじっか意識がクリアなだけ、そこに混じる疑問は雑音として排除されるのだ。
論理的に正しい人はこうして道を誤る。その道は円環を回りつづけるハムスターと同じだと言うのに。
困るのはこういうひとって、自分が間違ってるってことを受けいれないのよね。
わたしの認識する二万キロの空間。
アルピオーネはそこにセンサが拾い上げたさまざまな情報を流し込む。友軍機の軌道と識別ビーコン。二隻の艦と撃ち出したミサイル。わたしはミサイルに識別信号を送り、指揮下に組み込んだ。爆散タイミングと突入軌道を調整して友軍の機動兵器が破片の影になるように誘導する。
ようやく、地球軍の輸送艦隊が護衛艦四隻を分派し加速させていた。でも、遅い。そのタイミングだとわたしたちの襲撃に間に合わない。無理をして加速すれば地球を通り越してしまう。事実上、輸送艦隊の護衛は無力化していた。
あたしはアルピオーネを一気に加速させると機動兵器隊の先頭に付いた。そろそろ、後方で母艦が軌道変更を行い、わたしたちの姿を推進材の反射と熱で隠してくれる。その隙にカーペンタリアから地球低軌道に打ち上げられた資材に突入を図る。
後方に大量の赤外幅射が発生する。
わたしは後続の部隊に軌道修整を指示した。二機の新人はぎこちないながらも、指示どうりの軌道に遷移する。多少の推進材のロスは折込済みだ。上出来よ。
わたしは隊内通信で呼びかけた。
「パイク・リーダー、道案内は頼んだわよ」
『お任せください』
スクリーンで小さく敬礼するキャセイに親指を立てて、ウィンクする。
ここからわたしは単独行動になる。
昔はひとりが怖くて、耐えられなくて、全てを忘れるためにしゃにむに戦っていた。自分を機械だと言い聞かせて、感じないように、想わないように、わたしは逃げつづけていた。
スティックを操作して、純白の機体を地球に向けて降下させる。対地高度計は4000キロを示している。ジンはこのまま緩やかに減速しながら、いったん輸送艦隊を追い越すように会合する。
地球大気圏上層にいくつもの反応を捉えた。おそらくは地球で建造された艦船や機動兵器、そして、宇宙での反攻のために訓練された人材を月まで届ける貨客船だ。一隻に付き400人から500人を乗せ、多くの物資を月まで運んでいる。月まで届けば、訓練の後、恐るべき戦力としてわたしたちの前に立ちはだかることだろう。
でも、今はただの荷物でしかない。
アルピオーネの操縦にわずかながらのタイムラグを感じる。わたしはアルピオーネの全力で減速を開始した。これでわたしは地球軍に位置と加速能力を晒したことになる。
わかる。遥か彼方に展開する艦艇の動揺を手に取るように感じる。もう一度、地球への緩やかな降下軌道に移るために地球に主機を向けて全力で減速する。
見えた。カーペンタリアから射出された船が、低軌道で船団を形成しようとしている。そのうちの二隻ほどが船団から離脱して、こちらに向かおうとしていた。
わたしはドラグーン・コントロールを操作して、先行するミサイルに最終加速を命じた。全長二万キロのわたしの世界の中で、減速することなくわたしに先んじて接近していたミサイルが、位置の判明した敵船団に向けて100Gを越す加速をしてみせる。前方に展開しようとしていた護衛艦が慌てて対空レーザーを放つが、弾着を得る前に最終加速を終えたミサイルが自爆する。秒速2000キロ、およそ光速の0.5パーセントにも達する相対速度を持って、拡散する破片が正面の護衛艦を覆い尽くし、そして、後方の船団がやがて破片のもやに覆い包まれる。
わたしはもはやゆっくりとロールしながら漂っているだけとなってしまった護衛艦の間をすり抜けた。フェイズ・シフト装甲が時折反応している。このタイプの護衛艦は省力化が進んでいるとはいえ、80人以上の乗員を乗せていたはずだ。二隻で160人にもなる。
160人の死。それは数字で言うと一瞬に見える。でも、これはこう考えるべきなんだ。
ひとりの死が160回繰り返されたのだと。
わたしが人をひとり殺す。それを160回繰り返したのだと、実感する。
そして、この死は拡大されて、今からさらに繰り返されるのだ。
アルピオーネが機動を繰り返すごとに、機体の翼端がかすかに赤く染まる。わずかばかりの大気との摩擦がアルピオーネの機体を熱していた。
わたしは一度だけターンすると、主機をもう一度全力で吹かして、さらに地球に向けて降下した。探す。地球の大気の白の中、微かな影を追い求める。地球の地形から今の機体位置を確認した。カーペンタリアからの射出軌道の延長線上、大気と漆黒の闇の境目に、感覚を研ぎ澄まし、探す。
見つけた。
機体をさらに地球側に降下させる。大気をかき分け、灼熱の赤に晒されながら、わたしはその船を追いかける。マス・ドライバーの慣性にエンジンを吹かせてソラへとかけあがる巨大な鉄の鯨に追いすがる。
上を見た。遥かに見える船団からいくつもの軌跡がこちらにむけて流れてくるようだった。
でも、わたしはひとりじゃない。
ドラグーン・コントロールを通じて、そろそろ近接軌道に到着するわたしの隊に射撃管制情報を送信した。答えるように火線が伸びる。
第一射。散布率が高い。やはり、新人の狙いは甘いと感じる。
第二射。弾着の火花が上がる。敵機は混乱しているようだった。当然だろう。わたしの機体から見上げられた位置にあるはずが、いきなりさらに高空から射すくめられているのだ。しかも、機体は地球重力圏へ向けての降下中、上昇する艦船援護のために反転減速中を狙われては混乱するのもし方がなかった。だから、わたしは斉射を命じた。
第三射。さきほどに比べて倍になった火線が一機のメビウスを捉えた。たちまちに火だるまになると、すぐに、火線は次の機体をもとめ炎に絡め取る。
わたしはその間に先の輸送艦を追った。アルピオーネの固定武装は長銃身の四連装80ミリレールキャノンだ。盗まれたフリーダムと同じ光景だが、銃身長は倍に近い。初速度にして1.2倍の差を持つ。
わたしは大気補正のためにコンソールに指を走らせながら、一発ずつ、試し撃ちを行った。すぐ頭上で、大きな火球が生まれる。爆散するメビウスの破片をフェイズ・シフト装甲で弾きながら、わたしは輸送艦を照準に収めた。狙いは艦橋の少し後ろ。燃料タンクや輸送コンテナの接続部になる。
ふと、後部指揮所からこちらを見ている人と目が合った気がした。たぶん、輸送用コンテナを監視できる場所だ。錯覚じゃない。
喉が乾いた。スクリーン上にはロックオン・マークが表示されている。
指がコワバル。射撃管制のセレクターにグリーンのランプが点る。
ごくりと唾を飲みこんだ。喉の奥が引きつるように痛い。
逡巡していたのはごくわずかな時間だった。わたしは引き金を曳いた。かちりとした金属音と共に白銀のアークが伸びる。四本の火線は吸い込まれるように輸送艦に突き立った。ちいさな爆発とともに大量の水蒸気が放出され、次の瞬間凍りつく。その水蒸気は赤かったような気がした。
爆発し自力航行できなくなった輸送艦を追い越し、地球軍の輸送船団に突入する。
さきほどの散弾の影響か、わたしに対する迎撃は無視できるほどに薄い。高空からの支援を受けながら、わたしたちは20隻の船団そのすべてに何らかの打撃を与えると、敵の護衛艦隊が到着する前に戦場を離脱する。
わたしの隊の被害はわたしのアルピオーネが軽微な損害を受けた以外にない。
まったくのワンサイド・ゲームだった。
帰還軌道に乗り、先行するモビルスーツ隊に追いつく。周囲に敵の存在が認められないことを確かめて、わたしはドラグーン・コントロールを解除した。『ウォータールーフ』に機体の制御を委ねて、会合宙域へと向かった。
後方スクリーンには青い星がスクリーンに一端を映している。
わたしは通信機がオフになっていることを確認すると、ヘルメットを外してシートに身を預けた。
ねぇ、キラ。わたし、今日もいっぱい人を殺したわ。あなたが泣きながら、殺したくないと叫びながら戦っていたことを、わたしは当たり前のようにやってる。
そうね。
優しいあなたはきっと天国にいるから、わたし、もう会えないね。
キラ…、ごめんなさい。
最終更新 $Date: 2004/09/19 14:46:20 $
文書 $Revision: 1.3 $