One and Only my shining star : Another episode

純白の盾

Shield of Innocence

機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story


Descripted by Veneficus.


Title

第三話


 冠地球軌道軍事条約、すなわち、ザフトはコンテナ船を改装した2隻の特務艦を持って、特務戦隊を編成した。
 戦隊名はわたしの名前を取って、以後、アルスター隊と呼称される。

 わたしの隊となった特務戦隊は、最大0.02G加速が可能な2隻のコンテナ船改装母艦で編成されている。この改装母艦は二つの籠吊りコンテナを牽引している。
各コンテナに機動兵器の整備用ブロックを搭載し、四機の機動兵器が運用可能になる。
 だが、今回はコンテナひとつをまるまるイージス・アルピオーネ用のプラットフォームにしている。そのおかげでわたしは昔のように発進の度に整備員の退避や空気の排出をせずにすんでいるけど、他の機体は昔ながらの発進手順だ。
 たぶん、相手に先手を取られたとき、発進できるのはわたしのアルピオーネだけだと思う。
 アルスター隊に配備された機動兵器はジンが定数の四機とシグーが一機、あとはジンにビーム兵器を持たせた改良型が一機だ。新型のゲイツはまだ先行量産型が数機ロールアウトされたばかりでプラント防衛隊に優先配備されるらしい。これに二機の補用機のジンを加えてようやく半個編成となる。
 申し訳なさそうに説明する軌道艦隊司令部の参謀にわたしは首を振って気にしていないことを示すと、案内された宇宙港には、コーディネイターのくせにプロテインでも飲んで筋トレしていそうな男がタバコをふかしながら待っていた。隣で作本の参謀が苦い顔をしていた。
「よう、お嬢ちゃん。そんな気張った格好でパーティにでもお出かけか? あんたみたいなお嬢ちゃんは振り振りドレスでも着て、男引っ掛けてた方がお似合いだぜ」
 宇宙焼けした褐色の肌に無骨な顔がにやりと凄みを帯びた笑みを浮かべた。
 わたしも思わずハイな気分で答える。
「ふん、わたしの着飾った姿を拝みたかったら、まずはあなたが紳士な態度でエスコートして見せることね。もっとも、こんなぼろバケツじゃお里が知れるわ」
 言い合いを始めた私達を、おろおろと案内の士官が仲裁に入ろうと見まわす。互いの張り上げた声が聞こえたのだろう。周囲にろくに軍服も着ていない、一癖も二癖もありそうなやからが集まり始めていた。
「くっくっく、言ってくれるじゃねぇか。言っとくが俺のぼろバケツは水一滴もこぼしたことはねぇ。いざパーティーで慌てふためいてんじゃねぇぞ」
「ふふん、口だけは達者ね。わたしの純白のお肌に傷でもつけたら、許さないんだから」
「「「そしたら、俺達がもらってやるぞ!」」」
 外野がげひた笑い声を上げた。わたしは見せつけるように鼻で笑ってみせた。
「顔を洗って出直して」
 爆笑が響いた。
 わたしも正面の男も周囲で取り囲むようにニヤニヤしていた男達もみんな腹を抱えて笑っていた。
「古巣へようこそ、フレイ・アルスター。なつかしの古バケツは出戻り娘のお帰りを歓迎するぞ!」
「モルダブ、相変わらずこの船のお守りなの? とうにナスカ級にでも転属になったと思ってたわ」
 筋骨隆々の男が抱えていた両腕を開く。その腕の中にわたしは飛び込んだ。
「この筋肉も変わらないわねぇ」
「ふ、男は最後はこれだぜ」
 モルダブ船長は片腕でわたしを抱き上げると分厚い胸板を叩く。昔ながらのその姿に自然笑みがこぼれた。
 そう。昔馴染み。
 わたしが吹きだまりと称される特務艦勤務に忌避感がないのは、わたしの軍歴の始まりがもともとこのルーズィ・バケットだったからだ。
 戦争の初期に志願兵としてザフトに入隊したわたしは二ヶ月の訓練の後、派遣される宛てがないまま、作戦本部で事務処理をしていた。ザフトでもわたしの扱いには困っていたようだ。戦意高揚のキャンペーン・ガールにしたはいいが、しょせんは新兵。最前線に投入して戦死されても困る。できれば、適当に安全な戦場で、宣伝するに足る戦果を上げて欲しい。そこでわたしは敵地球連合の
後方支援船団に対する襲撃任務を受けて、特務艦ルーズィ・バケットに配属された。
 任務の名称は仰々しいが、要は独行艦による気ままな商船襲撃任務だ。船長の判断で安全確実な敵の輸送船を沈める。
 敵方に護衛などが張りついている場合は艦の保全を第一に手を出さない。有力な戦闘艦からは逃げまわるという地味な仕事だった。三ヶ月の配属帰還のうち、交戦回数はわずか四回。それでも沈めた輸送船の数は合計で50隻を越える。
 最終的には敵の輸送船団にも有力な戦闘艦の護衛がつくようになり、特務艦による船団襲撃は停止したが、それでも、かくやくたる戦果には違いがなかった。
 わたしはすぐに月での戦いに赴き、彼らとは離れ離れになってしまったが、彼らもまた新たな船を得て戦いに赴いているものだとばかり思っていた。
 だから、こうして懐かしい顔ぶれに会えるなんて、思っても見なかった。
 あとから知ったのだが、彼らは特務艦による戦隊がわたしの名前で編成されると聞いて、志願してくれたらしかった。
 そんなことも知らずに、この時のわたしはただ無邪気に再会を喜んでいた。



 ルーズィ・バケットの作戦指揮所に場所を移したわたしは今回の作戦担当者と顔合わせをした。これから戦隊ひとつを預かることになる。艦の運用そのものは艦長に任せるにしても、機動兵器部隊はわたしが直卒することになる。そして、機動兵器を運用する整備要員など、把握しておくべき人物は少なくなかった。
 コンテナ船に設置されたCICに集まった人達を前に、わたしは内心、震えが止まらなかった。
 配備されたばかりで不安そうにわたしを見つめる緑の宇宙服を着たパイロット達。わたしがアルピオーネを前線にと言ったばかりに同行することになった整備員。そして、もう特務艦による通商破壊は危険であるにもかかわらず、この特務戦隊に派遣された彼ら。
 わたしの判断ひとつで彼らの運命が決まってしまう。わたしは自分の、個人の無力さに涙が出そうだった。
 たかだか一機の機動兵器。それを運用するために、これだけの人々を駆りださなければならなかった。わたしたちは、コーディネイターと言えど、個人の無力さを克服できてないのだ。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
 CICの作戦指揮卓を前にわたしは胸に手をあてて話し始めた。集まる視線が、重い。
「この特務戦隊を預かるフレイ・アルスターです。ただいまより、当特務戦隊をアルスター隊と呼称します」
 どよめきが上がる。総勢80名近い人々の命をわたしが背負う、その宣言だ。
「これより、わたしたちアルスター隊は地球中低位軌道での地球軍輸送部隊に対する通商破壊活動を行います。
 地球軍は現在、プラントへの反攻を準備しています。しかし、彼らがプラントへの攻撃を行うには、資材、人員の集積地を必要とします。それが月です。
 現在、我々ザフトの軌道艦隊が月の封鎖を行っております。月軌道は彼らに任せ、わたしたちは地球軍がマス・ドライバーで打ち上げた直後の輸送部隊を襲撃します」
 わたしはアルスター隊の目的を一気に話しきった。そして、横から差しだされた水を礼を言って受けとって口を湿らせる。その間に理解を待った。
「質問してもいいか?」「ええ、どうぞ」
 モルダブ船長が手を上げる。わたしはにこやかに肯いた。
「いくらなんでも、相手も護衛なしと言うわけじゃないだろう? その時はどうするんだ?」
 それは艦を預かるものとして当然の質問だった。
 わたしは同行の参謀に肯いた。その参謀は作戦卓に地球・月間の軌道とデブリベルト、そして、今地球で唯一稼動しているマス・ドライバー、カーペンタリアの位置を示した。
「御質問はごもっともです。
 現在、地球軍は物資を主にカーペンタリアから射出しようとしています。
これらの物資は地球低位軌道でコンテナ船に受け取られ、そこから月軌道まで運搬されることになります」
 わたしの指示に参謀は地球・月間の物資輸送航路を表示する。そこの一点、地球重力圏の離脱軌道を指差した。
「ここを襲撃ポイントとします」
 それは三回にも渡る攻撃が可能な位置だった。そして、デブリベルトから伸びるラインがこれも三つに分かれた。まず、地球へのラインを切り離し、地球重力圏を逃れるように退避する高速度軌道。月からの減速軌道にも地球からの加速軌道にも交わることのない、比較的安全な軌道だ。そして、地球重力圏に向かうラインが二つに分離する。ひとつは地球から持ちあがろうとする軌道を押さえこみ、そのまま流れるように高速度軌道へ合流する。最後のひとつは一度地球大気圏上層まで降下し、地球重力圏を脱出しようとする軌道を追いかけ、そして、最後に月から降下してきた軌道を遮った挙句に、高速度軌道を追いかけ合流する力任せの軌道だった。
「これが想定する襲撃ルートです。
 カーペンタリアから射出される物資の護衛部隊を重点に対抗しています。月からザフト軌道艦隊の封鎖を突破してきた護衛艦隊については、事前の警告から戦力評価をして上で、判断したいと思います」
 わたしの説明に軌道図を睨みつけてモルダブ船長が考える。
「これはしかし、無謀じゃないか?」
 地球軌道に最近接するルートを船長が指差した。船長にもこれがわたしのアルピオーネが取る軌道だとわかっているのだろう。唸りながら、首を振った。
「一歩間違えれば、地球に落ちて燃え尽きる。もう少し、上空での交戦を考えるべきだと思うが」
 だが、わたしは強く首を振って答えにした。
「イージス・アルピオーネは自力でプラントまで帰還することが可能です。バウンド軌道を取れば、自在にルーズィ・バケットと合流できます」
 一度、深く降下したアルピオーネが跳ねるように地球大気上層を飛び回る。もちろん、これは敵と交戦後も機体に問題がない場合だ。深刻な被害を受けて脱出できなくなった場合、機密保持のため地球に機体を放棄することになる。
 最悪でも、大気上層に機体を破棄する。
 それが、わたしが提案し、作戦本部が受け入れた襲撃計画だった。



 宇宙港からタグ・ボートに牽引された二隻のコンテナ船が出港する。
 行く先はデブリベルト。
 そこに潜伏することから、わたしたちの戦いが始まる。


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最終更新 $Date: 2004/08/06 12:42:10 $
文書 $Revision: 1.2 $