One and Only my shining star : Another episode
純白の盾
Shield of Innocence
機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story
Descripted by Veneficus.
第二話
そして、わたしはカーペンタリア戦の敗北と、わたしとイザーク、イザーク・ジュールが2隊を新設し、ヤキン・ドゥーエ要塞の警備隊に配属されたことを知った。
「フレイか」「あら、イザーク。久しぶりね」
久しぶりに会ったイザークは少し大人びたようだった。
探るようにわたしを見るイザークに、わざとらしく胸元を隠して見せる。
「ちょっと、どこ見てるのよ!」
「違う!」
まったく、と憮然としたイザークの姿にわたしはおかしさを堪えきれなかった。たまらず、吹きだして笑うわたしを見て、イザークはやっと探るような目つきをやめた。目もとの険が取れると、すねたように顔をそむけた。
「まったく、俺をからかうな!」
「なによぅ、イザークの目つきがいやらしいのがいけないんでしょ?」
ようやく笑いを収めたわたしにイザークが顔を向けた。
「フン、どうやらマシな顔になったようだな」「あら、そんなひどい顔してる?」
「茶化すなよ」
鏡を探すしぐさをしてみせたわたしをイザークが正面から見つめる。
「いまにも後追い自殺でもしそうな腑抜けた面をしていたものだが、戦える顔をしている」「・・・」
わたしはいなくなってしまった誰かの匂いを探すように、顔を傾けて左手で肩にかかる髪をそっと後ろに送った。
「そうね・・・。くすっ、そんな酷い顔してた?」
憂いを込めた瞳でイザークに微笑む。なぜか顔を赤くして視線を落ちつかないようにきょろきょろとする姿に微笑みが深くなる。
男って単純。
でも、ああ、きっとそうだったのだろう。
振りかえるようにあの頃を想う。
キラが死んで、わたしにはもうこの世界に生き続けている理由がなかった。ただ、不意に訪れる終わりを待ちつづけていた。
それはどんな形でもよかった。
高いビルから地上をじっと見下ろしたこともある。支給された拳銃をこめかみに当ててみたこともある。いっそのこと、ブルー・コスモスのテロでも起きてくれないかと願ったこともある。
でも、怖かった。
いつ死んでもいいと思っていた。ううん、むしろ早くわたしに死が訪れて欲しいと願っていた。
でも、いざ自分の死を選ぶ段階でわたしがわたしを裏切る。踏み出す足がすくむ。飛び出す身体がためらう。引き金を絞る指がこわばる。わたしはわたしが死すら選べない臆病者だとほとほと思い知った。
そう。キラがいないこの世界で、わたしはまだ生きていた。そんな自分が嫌いで、ただひたすらに死の訪れを恋い願っていた。
だから、ザフトの出頭命令は嬉しかった。
ようやく死ねる。ようやく殺されることができる。ようやくわたしはこの世界からキラの元に逃げることができる。
もう、この灰色の日常を続けなくてもいい。
そんなことを思ってアルピオーネと出会ったわたしに、みんな、みんな優しかった。
だから、まだ、わたしはキラのいないこの世界に生きている。まだ生きていける。
だから、キラ。
もう少し、待っててね。
わたしとイザークを出迎えたのは、エザリア・ジュール評議会議員だった。現在の軍務委員を担当しているザフトの長だ。パトリック・ザラ評議会議長が最高司令官として、その直下で実際の作戦を認可するのが、このエザリア委員になる。
ただ、ちょっと嫌な噂をわたしは耳にしていた。
最近の敗戦続きの作戦は必ずパトリック・ザラ議長が口を出したものだと言う噂だ。そもそも、ひとつひとつの作戦に最高評議会議長の認可が必要なんて馬鹿げてる。ザフトはザラ議長の私兵ではないし、権能分離ができることこそ、人の上に立つという意味での有能さの証拠ではないか。
それを実現できていないザフトのどこが優れているというのだろう。
「母上!」
イザークが久しぶりに会う母親に、驚きと喜びの声を上げた。エザリア委員はその端正な表情をかすかに和ませるが、わたしのほうをちらりと一瞥して、イザークを叱責しようとする。
わたしは一歩下がると、顔をそむけた。久しぶりに会った母子の会話に口を挟むほど無粋じゃない。衆目監視の中というわけでもなし、親愛の情を交わすぐらいなんだというのだ。
エザリア委員はわたしに軽く目礼すると、イザークを抱きしめた。
「イザーク、久しぶりですね。あなたの活躍、私も誇りに思っておりますよ」
「いえ、当然のことです」
イザークが少し頬を赤らめながら抱擁に身を任せる。ふん、でれでれして。
「フレイ・アルスター、イージス・アルピオーネの仕上がり具合はいかがですか?」
「はい。良好です。わたしとアルピオーネはすぐにでも作戦行動を行う準備ができております」
しばらくの後、かけられた言葉にわたしは足を一歩前に踏み出すと、胸を張って答えた。
それは正直な気持ちだった。
技術工廠に詰めきりだったため、現在の戦況がどう推移しているのか、詳しくはわからない。カーペンタリア戦後、ザフトは軌道艦隊を再編中のはず。わたしとイージス・アルピオーネが投入されるのはその切っ先だ。困難な任務になるだろうが、不安はなかった。
「結構です。
それでは、イザーク・ジュール、フレイ・アルスター両名は、それぞれ選抜部隊を率い、プラント防衛隊に配属となります。
以後、両部隊をジュール隊、アルスター隊と呼称します」「ハッ!」「・・・?」
イザークが勢いよく敬礼する。でも、わたしは言われた言葉の意味が理解できなかった。プラント防衛隊とは、どう言う意味だろうう。
「どうしました、フレイ・アルスター?」
「はい。あの、プラント防衛隊とはどういうことでしょうか?」「フレイ、いったいなにを…」
「イザーク、お待ちなさい」「はい、母上」
エザリア委員がわたしに視線で続けるよう促した。わたしは問いかける。
「わたしが試験運用しているイージス・アルピオーネは前線指揮機です。現状、もっとも有効な戦場である地球=月軌道間の艦隊への配属だとばかり・・・。
それとも、わたしはアルピオーネから別の機体への転換となるのでしょうか?」
それとも、いつのまにか前線がそこまで押し込まれるほどに戦況は悪化してしまったのだろうか。そこまで考えて、ひとつ理由を思いついていた。
わたしが裏切ることを警戒しているのではないか。
そんな考えが表情に出ていたのか、エザリア委員は少し表情を和らげた。
「フレイ・アルスター、イージス・アルピオーネはあなた以外の人ではその実力を発揮できないでしょう。いま少し、その能力をイージス・アルピオーネのために貸していただきたい。それから、確かにあなたとイージスを前線へという声は強くありましたが・・・」
エザリア委員が口篭った。言いにくそうにわたしの顔を見つめる。
「ラクス・クラインによって専用運用艦エターナルを盗まれてしまったために、イージス・アルピオーネとその増加装甲ミーティアを運用するシステムが、いまの我々の元にないのです」「・・・そんな」「・・・」
ラクスの馬鹿。
このときばかりは、わたしはラクスを心の中で罵った。なんで他の艦にしなかったのよ。
頭の中で一ダースほどの罵倒をラクスに投げつけると、ざっとアルピオーネとミーティアの容積を計算した。確かに従来型の艦艇では運用に問題がある。ザフトにアークエンジェル級に相当する艦があればよかったのだけど。
「輸送船を改装した特務艦があるはずです。コンテナ船ならミーティアは無理でもアルピオーネを運用するだけの容積を稼げます」「フレイ!」
「フレイ・アルスター、その意味をわかって言っているのですね?」
イザークの視線を横顔に感じる。でも、わたしは自分の胸に手を当ててエザリア委員に強く肯いた。
「アルピオーネはいま、前線でこそ必要な力です。わたしはアルピオーネが必要とされる場所に行きたい」
エザリア委員は少し目許を和らげて、わたしを見つめた。
「怖い場所ですよ?」
たぶん、わたしの精神状態についての報告書をエザリア委員も読んでいたのだと思う。人一倍怖がりで、臆病なわたしを気遣ってくれているのだろう。
「わかっています。でも、ちゃんと見ます。自分がすることを、ちゃんと見つめます」
ああ、きっとわたしをアルピオーネに配備したのも、防衛隊に配置しようとしたのも、わたしのことを見てくれている人達の恩情なんだと感じる。
エザリア委員は痛ましいものを見たかのように目を細めた。
「『赤』は連れていけませんよ?」「母上、それでは降格人事では!」
イザークがわたしのために怒ってくれている。こうした気遣いの一つ一つをようやくいま、気付けるようになった気がする。だから・・・。
「ありがとう、イザーク。でも、いいの。アルピオーネは『赤』を着れない人達も守れる盾だから」「・・・」
イザークが意外そうな目でわたしを見てる。失礼ね。
エザリア委員が小さくせき払いをした。
「わかりました。アルスター隊に配属の者達はイザークに任せましょう。ザフト軌道艦隊司令部に話しを通しておきます。きっと、彼らも喜ぶと思います」
「ありがとうございます」
わたしは敬礼ではなく、頭を下げた。エザリア委員がため息をつく。
「フレイ、死んでは駄目ですよ。プラントの未来はあなたやイザークが担うのですから」
エザリア委員の物憂げな表情にわたしはもう一度深く頭を下げた。
わたしはその日のうちにザフト軌道艦隊司令部に出頭した。やはりエザリア委員は話しが早い、と思ったけど、実際には彼らもイージス・アルピオーネを軌道艦隊で運用するにはこの方法しかないとわかっていたようだ。
わたしが作戦本部を訪れると、なぜか、事務員の女の子達までわたしに敬礼してきて、大変だった。あとで聞いた話によると、わたしがプラント防衛隊から軌道艦隊へ移ったときの話が美談として作戦本部に流れたらしい。
確かに形としては『赤』のエリート部隊を率いる立場を投げ打って、危険な最前線に志願したようにも見える。しかも、特務艦配置などというある意味屈辱的な勤務を自分から提案したとなると、ああ、そう言われてみれば、美談に見えなくもない。でも・・・。
どっちかというと、ただの戦争狂?
わたしにはそう見えるんだけど、エザリア委員との会話もなんか流れていて、正直恥ずかしい。みんなが言うほど立派な話じゃなくて、ただたんにわたしはアルピオーネのために、アルピオーネを作ってくれたあの優しい人達のために、前線でその力を発揮させてあげたいと思っただけなんだけど…。
最終更新 $Date: 2004/07/26 11:56:05 $
文書 $Revision: 1.2 $