It's not all, but... One and Only my shining star!
Episode 1:2


機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story
Till the destruction...

Descripted by Veneficus.


崩落の間


 ナスカ級戦闘艦ヴェサリウスの船腹が開く。伸びてゆくリニア・カタパルトに、フレイ・アルスターは緊張で身が引き締まるような気がしていた。
 すでに潜入班はヘリオポリスでの作戦行動を開始している時間だ。前進する2隻の艦は電子妨害を開始している。他国領内での電子戦。
 これは交戦状態だった。
 ミゲルの機体、彼のコンディションに調整されている専用のジンが予備機として待機しているフレイのジンに親指を立てて通りすぎた。一歩、二歩と、鈍い音を格納庫中に響かせ、カタパルト・レールに乗る。
 器用なものだと、フレイは思う。専用機にすれば、フレイにも簡単にできるとミゲルは笑って言うが、フレイは専用機を調達する気はない。フレイにとってジンは戦争の道具であり、人殺しの機械に愛着を持ちたいとは少しも思わなかった。むしろ、その巨躯には恐怖を感じる。
 左右の誘導灯が伸びるように点灯していき、カタパルト上のジンがGに備えるように鋼を軋ませて身をかがめた。
『ミゲル・アイマン、出るぞ』
 隊内通信のバンドに合わせたレシーバーからミゲルの声が響く。
 次の瞬間、バッテリーケーブルを引きずって緑色のジンの巨体が漆黒の闇に打ち出された。
 続いてオロールとその僚機が駐機場からカタパルト・デッキへ移動する。いずれも劣らぬエースたちは次々と虚空に機体を躍らせると僚機と編隊を組んでまぶしく宙に浮かぶヘリオポリスへ針路を向けた。
『アルスター機、カタパルト・デッキへ』
「フレイ・アルスター、了解」
 フレイは航宙機管制官に短く答え、コンソールに指を這わせた。誘導の作業員のライトに注意しながらも、五感はジンの動きに意識を張り巡らせる。
 いっそ、機体に異常があれば戦場に出ないで済む。しかし、フレイの内心の思いをあざ笑うかのように機体は隅々まで快調だった。
 それもそうだろう。クルーゼ隊には優先的に良好な機材、優れた人材が提供されている。以前、フレイが所属していた客船改装の仮装巡航艦のように狭いハンガーに機体を動かせないような整備状況で発進命令がでなければ、機体に異常があるかどうかもわからないなんてことはない。
 フレイは小さく自嘲の笑みを浮かべて、カタパルト待機位置に機体を止めた。
 戦術予備として、ひとり、静かに待ち続ける。友軍の作戦に問題が無ければ、彼女の出番は無い。
 ただひっそりと、時が過ぎるのを祈る。
 待機任務とは、そんな仕事だ。
 フレイは暗いコクピットの中、モニターやボタンの明かりに照らされて、孤独のときが過ぎ去るのを待つ。
 ずっと、ひとり。
 フレイはコクピットのシートに小さく縮こまる様に身をかがめて、待ち続ける。


 輸送船は混乱の中にあった。
 ムゥ・ラ・フラガ大尉は艦橋にあがるなり叫んだ。
「敵は!?」
「2隻だ。ナスカ級ならびにローラシア級。電子妨害直前にモビルスーツの発進を確認した!」
「ひよっこどもは?」
「もうモルゲンレーテについている頃だろう」
 フラガは軽く肩をすくめた。
「せめてもの幸いですな。
 ルークとゲイルはメビウスで待機! 発進シーケンス、急げ!」
 フラガは格納庫に繋がる無電源電話に叫んだ。民間の輸送船に偽装しているが、この船は地球連合の軍用輸送艦だった。当然、乗っているのは全員正規の軍人である。
 フラガはいらいらと待つ。
 遅い。もちろん乗員に問題があるわけではない。中立国ということで輸送船に搭載してきた以上、発進に手間取るのはしかたがないことだった。だが、敵はもう機動兵器を投入している。ザフトが戦闘の意思を示した以上、ことは一刻を争う。
 港湾の入り口の向こうで短い火線がきらめくと共に、いくつもの炎が上がった。おそらく、オーブのコロニー警備隊の武装艇がやられたのだと想像が付いた。
 来る。
 港湾の入り口に、スラスターの噴射炎をあげて幾つもの影が突入してくる。
 侵入を許した。
 フラガは胸に冷たいものを感じていた。ザフトの機動兵器と違い、連合の主力である宇宙戦闘機は閉鎖空間での格闘戦に向いていない。この船に待機するパイロット達もエース級の腕前を持つ者ばかりだったが、カタパルトも無く、メビウスの利点とも言える高加速を活かせない状況で、キル・レシオが1:5にも達する相手に苦戦するだろうことは容易に予想が付いた。
 メビウスの発進準備完了の報告があがる。待ち焦がれていたフラガは艦長に振り向いた。
「船を出してください! 港を制圧される。こちらも出ます!」
 次々と通りすぎていくジンの目を引かないように、輸送船は湾外へとゆっくり加速を始めた。


 大気が一瞬ひずんだ。次の瞬間、激しい振動が身体を揺さぶり、爆風が襲いかかる。

 ドックの各所ではザフトの潜入班によって仕掛けられた爆弾が爆発していた。
 爆圧に砕かれ、荒れ狂う破片に斬り刻まれ、あるいは吹き飛ぶ構造物に押し潰されて、さまざまな死の饗宴が披露される。
 かろうじて生き残った者達も、迫り来る炎と誘爆する弾薬、発生した有毒ガスと消化剤による酸欠が傷を負いった身体と朦朧とした意識に追い討ちをかける。
 アークエンジェル級強襲揚陸艦一番艦アークエンジェルの誕生は、こうして砲火の洗礼に祝福されることとなる。


 不気味な振動が建物を揺さぶった。キラ達は始めて感じる現象に互いに目を交わしあう。
 続いて、間違いようの無い爆発音が連続して響いた。
 不安とともに、非常用階段の扉を開く。モルゲンレーテの建物にいた人達が、戸惑いを見せながらも整然と地下のシェルターに避難していた。
「何かあったんですか?」「ザフトの攻撃だよ」「!!」
 サイ・アーガイルの問いかけに、社員らしき人が答えた。
 それまで不満気にしていた小柄な人影がその言葉に弾かれたように走り出した。
「あ、君!」
 キラはなんとなくほうっておけなくなって駆け出した。すぐに追いつき、その手を捕まえる。
 思っていたよりも華奢で小さな手をキラは掌中に感じた。
「きみ、避難するんだ」「離せ! わたしには確かめなければならぬことが・・・」
 激しい爆風が通路を吹きぬけた。おもわず抱きしめた感触。爆風に煽られ吹き飛ばされた帽子からこぼれた金色の髪。キラは知らず呟いた。
「え? おんなの子?」
「なんだと思っていたんだ、今まで!」
 少女の声が高らかに響いた。


 ヘリオポリスを巡る航宙戦はザフトの一方的優位で進んでいた。
 攻めるザフト側でも、この状況は当然と捉えられていた。警備隊程度の戦力しか整備されていない中立国のコロニーで、輸送船に偽装した程度の戦力を相手に2隻の戦闘艦で遅れを取るなど、考えられなかった。
 だから、その報告は彼らを驚かせるに足るものだった。
「オロール機、被弾!」
「ほう・・・」
 部隊を率いるラウ・ル・クルーゼも意外そうに声を上げた。
「帰還を命じました」「補助機出ます」
『フレイ・アルスター、出ます』
 ヴェサリウスのカタパルトから一機のジンが発進する。
 クルーゼは薄い笑みを一瞬浮かべると、虚空を睨んだ。
「うるさいハエがいるようだ。私も出る」「しかし・・・」
 振り向いて宙に身体を浮かべるクルーゼに、艦長のアデスが振りかえった。
「アルスターにはミゲルを支援させろ。シグーの用意を」


 対空自走砲車両を先頭に、数台のカーゴが宇宙港への道を突き進む。
 ザフトのイザーク・ジュールは双眼鏡に映る姿に口元を綻ばせた。
「クルーゼ隊長の言ったとおりだな」
「巣穴をつつけば大慌てで出てくるってね」
 ディアッカ・エルスマンがおどけて見せる。
「時間だ」
 腕時計を見つめていたアスラン・ザラが短く声を発した。どこからともなく響く爆音が彼らの戦果を伝えていた。
 そして、聞きなれた飛翔音が幾重にも響き渡る。
 緑色の機体のモノ・アイが光った。


 モルゲンレーテの社屋を絶え間無い振動が揺さぶる。キラは少女と廊下を急いだ。
「なぜ、ついて来る! お前はあっちへ」「もう無理だよ」
 キラは少女に後ろを示した。先ほどの爆発でコンクリートを穿って廊下には大きな穴が空いている。
「クッ、こんなことにならないために来たというのに。
 それとももう駄目なのか」
「そんなこと言ってないで、こっちへ」
 キラはうなだれる少女を引っ張るように先を急ぐ。その先に、大きな格納庫が広がっていた。
「こ、これは?」「やっぱり、連合の機動兵器・・・」
 銃声や爆発音が鳴り響く格納庫には、鋭角的な表情をした巨大な人型が灰色の巨体を横たえていた。
 手すりに乗り出していた少女の身体が力無く崩れる。キラは慌てて少女を抱きとめた。
 その耳元で、少女が叫んだ。
「お父様の裏切り者ぉ!!」「・・・」
 直撃だった。


 ジンの支援を受けたイザーク達は次々と路上の輸送用車両を制圧していた。輸送用コンテナの数は三機。イザークは事前の打ち合わせと違う機体数に首をかしげた。
「輸送できない部品と工場設備は破壊しろ―――報告ではあと2機あるはずだが」
「工場にまだ残っているようだ。イザーク達はそっちの三機を先に」
 アスランの言葉にイザークは笑みを深くした。
「任せよう! 各自搭乗したらすぐに自爆装置を解除!」
 アスランはラスティに手信号で伝えると、工場の搬入口を目指した。


 カタパルトのGをヘッドレストに頭を強く押し付けて耐える。
 すれ違いざまに帰投してきたオロール機に翼を振って、フレイ・アルスターは機体を加速させた。すぐに大きくなるヘリオポリスの姿に、宇宙港の位置を見て取った。
 開口部周辺に飛び交う光の乱舞にフレイは迂回するようにコロニー外壁を回ると、コロニーを背に宇宙港に迫った。
 すぐに薄いピンク色の宇宙戦闘機が迫るのをロールでやり過ごし、機体を翻してすばやく2連射する。
 砕けたスラスターを横目に、深追いせずに宇宙港へ、開口部近くをうろうろしている輸送艦の対空砲火をすり抜け、ついでとばかりにミサイルを撃ち放つ。
 爆炎が輸送艦を包んだ。
「かぼちゃなんかに、わたしがやられるわけないでしょう」
 照り返しを背後にフレイのジンが宇宙港の構造体を悠々と回避した。コロニーの人工の大空が広がる。
 作られた青い空、霞のかかる先に、三機の機動兵器を感知して、フレイはジンの機関砲を向けた。
 すぐにIFFに信号が入る。友軍機だった。
「さすがね、早かったじゃない」
 通信圏内に入って映ったイザークにフレイが声をかけた。
 すれ違う。

 ザフトとは違う鋭角な機体を一瞥した。
「フ、当たり前だ」「ミゲルは?」
 自慢げに続けようとしたイザークの言葉を遮ってフレイが訊ねる。イザークが一瞬不満そうに顔をそむけた。
「例の工場だ。アスランとラスティの支援をしている」
「わかったわ。あなた達はこのルートで退避して」
 さらりと確保したルートを転送すると、フレイはすぐに加速を開始した。




あとがき