It's not all, but... One and Only my shining star!
Episode 1:1


機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story

Last silent days...

Descripted by Veneficus.


続かぬ午睡


 穏やかな午後。
 公園のテーブルに広げられたノート状の端末からは、しかし、穏やかではないニュースが流れていた。
『では次に、激戦の伝えられる華南(カオシュン)戦線、その後の情報を・・・』
「はぁ」
 黒髪の端正な顔をした少年が憂鬱な表情でウィンドウを見つめていた。
そんな彼を心配するように肩に止まったヒスイ色の翼を持つ人巧の小鳥が鳴いた。
『トリィ』
「よっ、なんだキラ、こんなところで」
 トール・ケーニッヒは黒髪の少年、キラ・ヤマトの背後から、キラが広げているノートのディスプレイを覗きこんだ。
「先週のニュースでこんな調子じゃ、今ごろはもう陥ちてるかもな」「ねぇ、カオシュンって本国に近くない? 大丈夫かなぁ」
 心配げな表情で、ミリアリア・ハゥが恋人のトールを見つめる。トールは安心させるようにミリィの肩に手を置いた。
「戦争に巻き込まれないために、オーブは中立を宣言してるのさ。大丈夫。な!」
 トールは同意を求めるようにキラに振りかえった。キラはミリィにゆっくりと肯く。
「そうだね」「そうそう。そう言う難しいことは本国の偉いさんが考えてくれるさ。
 そういえば、カトー教授がおまえのこと探してたぜ。またなんか仕事を押し付けられるんじゃねぇ?」
「またぁ! 先週の分もまだ終わっていないって言うのに」
 情けない顔をしてキラが悲鳴を上げる。
 それは穏やかな午後。
 最後の平穏な日々のことだった。



 それは大切な友達と、おそらくは、初恋の記憶だろう。
「父はたぶん心配しすぎているのだと思う」
 実際の年齢よりも大人びた彼はそう静かに微笑んだ。
「地球とプラントが戦争になるはずなんてないさ」
「アスラン・・・」
「それにキラもすぐプラントに来るんだろう?」「たぶん」
 自信なさそうにキラは大切な幼な馴染みに肯く。
「だったら、すぐまた逢えるよ」「うん」
 アスラン・ザラの黒曜の瞳がキラの肩に止まる機械仕掛けの翠翼を捕らえる。
 アスランの瞳が優しげに細められた。
 すぐ、また逢える。
 そう信じた。
「・・・ねぇ、アスラン、そろそろ時間よ?」
 おずおずとかけられた声。しかし、キラには無遠慮にかけられた言葉に聞こえて、むっとした気分を隠そうともせず振りかえる。大切な友達との別れに水を差した相手に一言言ってやらなければ気が済まなかった。
 アスランの視線の先、振り向いたキラは、しかし、口を開きかけて固まってしまった。
 そこにいたのは、ひとりの少女。
 長く艶やかな赤い髪を桜散る風になびかせ、繊細に彫り上げられたガラス細工のような美しい面立ちに、多彩な感情をきらめかせる瞳が彼を、彼らをしっとりと潤いをこめて見つめていた。
「・・・なに、このひと?」「フレイ、彼は僕の大切な友達なんだ」
 睨みつけられた上にぽかんと口を開けて固まってしまったキラに少女は柳眉をひそませた。口を尖らせて尋ねる様子にアスランは苦笑する。
「彼は・・・」「キラ。キラ・ヤマト」
 キラは慌てて名乗る。少女が微笑んだ。
「わたしはフレイ・アルスター。アスランのご近所さんなの。
 始めまして、キラ」
 よそ行きの笑顔を見せるフレイとぽかんと少女を見つめつづけるキラにアスランの苦笑は止まらなかった。
 そんなアスランの服をちょいちょいとフレイが引っ張った。
「ねぇ、パパが待ってるの。もうすぐシャトルの時間だからって」「ああ」
「えっ!」
 フレイの言葉の意味を理解して、キラは不安げにアスランと視線を交わす。
 アスランは優しくうなずいた。
「じゃあ、また」「うん」
「じゃあ、キラ。また逢いましょう」
 フレイが白くほっそりとした手を伸ばす。キラはその時悟った。彼女もおそらくアスランと共にプラントに行ってしまうのだ。
 キラがすこしひんやりとした柔らかな手を握った。

 その指先の感触を、キラはずっと覚えている。



 緑の軟式宇宙服の群れ。その所々に赤が混じる。
 フレイ・アルスターは漆黒の宙に飛び立つ彼らの姿を見送る。行く人の数を指折り、帰らぬ人を想う。
「わたしだっていつかは・・・」
 震える身体をそっと抱きしめる。
 戦争は怖い。
 戦闘艦の中から見る砲撃は、全てが自分に向けられているようで思わず背を向けたくなる。
 できることなら、砲撃の音も加速する艦の動揺も、何も感じないでいられるプラントへ、今すぐ帰りたかった。
 分厚い耐爆ガラスに手を付いて見送る彼女の姿に気付いたのか、幾人ものノーマルスーツ姿が敬礼していく。フレイも慌ててガラスについていた手を離すと、船外推進器を背負って旅行く彼らに敬礼する。
 心配そうな姿を見せてはいけなかった。本当は泣きたい。泣いてみんなでこんな怖い場所から逃げ出したかった。
「心配なんかいらないさ」
 いつの間にガン・ルームに入ってきていたのか、ミゲル・アイマンがフレイの横に飛んできた。フレイは手を伸ばして、ミゲルが通りすぎてしまわないよう受けとめた。
「心配なんか・・・」「フレイみたいな美人には憂い顔も似あうが、出撃前にあんな顔で見つめられたら、気になって出られなくなるからな」「ラクスじゃないんだから」
 ミゲルがにやりと笑ってウィンクする。まんざらでもない表情でフレイは首を振った。
「いやいや、クライン嬢はもう婚約者のいる身だからな。イザークあたりならサインを欲しがるかもしれないが」
「あら、そうなの?」
 フレイはきょとんとすると、何か合点がいったように肯いた。
「ああ、それで時々なにか言いたそうな顔してるのね。ラクスのサインが欲しかったのなら、遠慮せずに言えばいいのに」「・・・まあ、いいか」
 ミゲルは苦笑する。別の解釈はイザークが自分で説明すればいい。
「でも、婚約者といえば、わたしにもいたわよ」「なに!!」
 驚くミゲルにフレイは不満そうに口を尖らせた。
「失礼ね。そんなに驚くようなこと? オーブの有力者の息子よ。確か、サイ・アーガイルってひと」「それは初耳だ」「でしょうね」
 フレイは哀しげに笑みを浮かべた。
「まだお話だけだったし、決まる前にパパ、死んじゃったし」「・・・」
 ミゲルは言葉をなくして、窓の外を眺めた。
「そいつは良い奴なのか?」「あたりまえでしょ。パパが決めてくれたひとなんだから」「・・・おいおい」
 このファザコン娘が、という内心の思いを賢明にも口に出さず、ミゲルはガン・ルームの時計を見た。まもなく、作戦開始1時間前だった。
「さて、行くか」「あら、わたしも機体で待機しなくちゃ」
 フレイは赤い艶やかな髪を指で漉くと、ヘルメットを取りにミゲルとガン・ルームを出る。
「へまするなよ」
 一声かけるミゲルを振りかえると左腕を突き出し親指を立てた。
「かぼちゃにやられるほど、馬鹿じゃないわ」「ははは、そうだな」
 ミゲルはかぼちゃ呼ばわりされた茶色い敵の機体、メビウスを思いだして笑って格納庫に出た。
 フレイは周囲に誰もいないことを確認すると、右手を伸ばして震える左腕を抱きかかえおろした。
「・・・そうよ。かぼちゃなんだから」
 自分に言い聞かせるように呟く。無重力の通路をよたよたと歩いて、フレイはロッカーへ急いだ。



「よう、キラ。これ、カトゥ教授から」
 明るい色眼鏡をかけたサイ・アーガイルが手にしたメディアをキラに差しだす。キラは困惑した表情で受け取った。
「まったく、自分とこのゼミの学生だからって、こき使ってくれるよ」「キラは教授のお気に入りだからな」「勘弁してよ」
 キラの情けない声に笑い声が響く。
 ふと、キラはそんな研究室の雰囲気に馴染むことを拒絶するように、壁に持たれかかる人影に気が付いた。帽子を真深に被り、体格のわからないジャケットを羽織っている。同じく、それに気付いたトールがカズイ・バスカークに顔を寄せた。
「あれ、誰?」
 秘密めいた雰囲気にカズイもちらとだけ視線を投げて小さく答えた。
「教授のお客さんらしいよ。ここで待ってろって言われたんだって」「ふーん」
 トールが納得したようにうなづく。キラは隅のテーブルに端末を置いて受け取ったメディアを差しこんだ。



「そう難しい顔をするな、アデス」
「は・・・しかし」
 ナスカ級戦闘艦ヴェサリウスを任されているアデスは艦長席でかたわらに立つ仮面を被る男の苦笑に顔をしかめた。
 思いだすのは赤い髪の少女の言葉。
 作戦開始直前の今になって、少女の連ねた言葉の意味が身にしみる。最悪、これまで好意的中立を保ってきていたオーブを地球軍側に追いやることとなる。
「――評議会からの回答を待ってからでもよかったのでは、隊長」「遅いな」
 アデスの問いをラウ・ル・クルーゼは一言で斬って捨てた。
「私の勘が告げている。ここで見過ごせば、その代価、我らの命で支払わなければならなくなるぞ」
 クルーゼの指に弾かれた偵察写真、その不鮮明な画像が無重力空間に漂った。
「地球軍の新型兵器、あそこから運び出される前に、奪取する。
 時間だな。ヴェサリウスとガモフを前進させろ」



あとがき
 相変わらず、多重でお届けします。
 そろそろ危険領域に達してきたかなと思いますが、まぁ、適当に続いています。
 それではでは。