It's not all, but... One and Only my shining star!
Episode -1:0


機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story

Days for atonement...

Descripted by Veneficus.


贖いの日


「パパぁ、ホントに行くの?」
 フレイ・アルスターはプラントからの外交使節団のために用意されたクルーザーに乗り込もうとするジョージ・アルスターのスーツの裾を取った。
 ジョージは甘える娘に相好を崩しながらも、ごほんと咳払いをして毅然とした態度を取り繕う。
「フレイ、誰も戦争を望んでいるものなんていないよ。大丈夫。すぐに戻ってくるからね」「でもぉ・・・」
 フレイは不安そうにジョージの顔を見上げた。ジョージがゆっくりと頭を撫でた。
「フレイは心配性だな。後のことはクライン議長にもお願いしているし、大丈夫だ。カレッジの入学式までには戻ってくるとも。
 入学式のフレイの晴れ姿をちゃんとこの目で見ておかないとお母さんに怒られてしまうしね。
 オーブのカレッジにはナチュラルもコーディネーターもない。フレイにはオーブに多くの友達を作ってもらわないとな」
「・・・それがパパのお仕事に役立つのなら」
 拗ねるようにフレイがピンク色のスカートを翻した。ジョージは苦笑する。
 そう。今はまだ、それでいい。
「失礼ですが、アルスター参事官殿。そろそろよろしいか?」
「ああ、すまない」
 仮面を付けた金髪の男がジョージの背後から声をかけた。その姿にフレイは思わず父の陰に姿を隠した。
「なに、あれ?」「おいおい、彼はザフトの護衛をしてくれるクルーゼ君だよ。あれ呼ばわりはないだろう?」「はぁい」
 ジョージに諭されてフレイはおずおずと姿を現した。
「あの・・・」「なにかな、お嬢さん?」
 仮面の男、ラウ・ル・クルーゼは父の影から姿を現した少女に問いかけた。赤い髪の少女は勢いよく頭を下げた。背中に垂れたポニーテールが勢いよく跳ねる。
「パパを、パパをよろしくお願いしますっ!」「・・・」
 ジョージ・アルスターは少し照れたように、しかし、自慢げに胸を張っていた。
「それは当然のこと。私はあなたのお父上の護衛なのだから」
 クルーゼが艶のある声で答えた。少女の表情がぱっと明るくなった。
「さ、時間だ。なるべく早く帰ってくるよ」「うん。パパ、地球のおみあげ楽しみに待ってるわ!」
 フレイは寂しさを振り切るように元気な声を上げた。
 ジョージはもう一度だけフレイの頭を撫でると、歩き出した。
「元気なお嬢さんですね」「ああ、片親だけでどうなるものかと心配したものだが、素直に育ってくれた」
 クルーゼの言葉にジョージが頷く。


 ナチュラルであり、かつては穏健派とはいえブルー・コスモスと呼ばれるコーディネイター排斥団体に所属していたジョージが、プラントの外務参事官としてナチュラルに代表される地球連合との交渉役を引き受けることになったのは、愛娘フレイ・アルスターの存在にあった。
 当初、妻が勝手に娘をコーディネイトしたことに激怒したジョージだったが、やはり親として娘が生まれた喜びが先にたった。
 しかし、その幸せに冷や水を浴びせるように、妻が出産した病院が爆破される。ジョージの妻も、犠牲者の一人に数えられた。ブルー・コスモス過激派によるテロだった。
 退院したばかりの妻を失い、生まれたばかりの娘を抱えたジョージは、このままでは残された娘の命も危ないと妻の本国であるオーブに亡命した。そして、娘共々、月のコペルニクス市に居を移した。
 穏やかな日々。
 かつて大西洋連合の文官のホープとして期待されたジョージは、月の植民都市と各国の調整役としてその腕をふるうことになる。
 しかし、プラントと地球間の緊張がジョージを再び決断させた。娘のフレイとともに、プラントへ移民したのである。
 娘が第一世代のコーディネイターとはいえ、プラントにおけるナチュラルに対する偏見は厳しい。
 だが、ジョージはヒトとの交渉に活路を見出していた。
 第3世代を数えようとするコーディネイターたちはナチュラルとの接し方を忘れつつあった。
 そんなプラントにとってジョージのような経験豊富な外交官は宝石よりも貴重だった。
 移住して三年。ジョージはプラント側の外交使節参事官として、まだ若いプラント生まれのコーディネイター達を率いる立場にあった。


「ところで、君とは以前どこかであったことはなかったかな?」
 遠ざかる愛娘の姿を見送りながら、ジョージはふと隣に立つクルーゼに問いかけた。
「さて、私の方は初対面であったかと」「ははは、そうだな」
 ジョージは自分を納得させるかのように苦笑した。
「そうだな。いや、つまらないことを訊いた」「・・・」
 クルーゼは軽く首を振って、答えとした。ジョージは振り向いて娘に手を振ると、タラップを上っていった。
 後に残されたクルーゼは口元に手を当てて、呟いた。
「あなたがお会いになったのは、私であってボクではない。しかし、憶えておられたとは困った方だ。・・・ここでご退場願うか」
 その視線の先、ジョージ・アルスターの背中がクルーザーに飲み込まれた。




 プラントの外交使節を乗せたクルーザーはデブリ・ベルトをかすめるように地球への降下軌道を取っていた。
 開戦から一週間。
 「血のバレンタイン」事件の影響も今だ覚めやらぬ時期である。
 プラント内でもやすやすと地球軍に屈するのか、と反発する意見が大勢を占めていた。
「やれやれ、プラントの諸兄は頭のよすぎる方々が多すぎる。ヒトとは、ナチュラルとは、元来愚かなものなのだが」
 ジョージ・アルスターは同乗している外交使節の人々に自分の胸を親指で示して告げた。
 好意的な笑いが響く。


 もちろん、ここに同乗している人々のほとんどがコーディネイターだ。
 彼らはジョージの同僚として、そして、彼に実務的な外交・政治手法を教わる立場にある。
 ジョージがプラントに移民して一番痛感したのが、コーディネイターの理解力の高さだった。
 彼らは数語で理解し、判断する。
 そして、その危険性をまったくといっていいほど理解していなかった。
 プラントのコーディネイターたちは共存能力に欠けている。
 その認識はジョージをして危機感に駆り立てた。世の中にはいろいろな人間がいる。大衆は愚かだと切って捨てるのは、敗者の言葉でしかない。根気強く、相手が理解するのを待ち、双方の共通認識を作り上げる。
 そういった社会学的アプローチを、彼らコーディネイターたちは理解していなかった。いや、優秀すぎる彼らは理解する必要がなかったのだ。
 このままでは、プラントは孤立するか、世界の全てを支配することを望むだろう。
 実体験の伴わない、机上の空論によって作られたコーディネイターの幻想のユートピアを世界に押し付ける、そんな振るまいに出るのは時間の問題だとジョージには思えたのだ。
 ジョージはすぐさま行動に移った。
 娘のフレイをそのような危険な教育体制から、ナチュラル・コーディネイターの双方が学ぶオーブのカレッジに留学させる準備を整え、プラントの行政当局には、共生能力の足りなさが生む歴史的問題、すなわち、戦争や虐殺の経緯を報告書の形でまとめ、送ったのだ。
 プラント最高評議会議長シーゲル・クラインと知故を得たのはこの時だった。
 プラントと地球の幾度にも渡る話し合いは行われるたびに決裂を迎え、評議会議員達の苛立ちが高まる中、シーゲルはジョージの報告書を見たのだ。そこには、交渉の場でナチュラルに翻弄されるコーディネイターの姿が描かれていた。シーゲル自身が幾度となく出会った情景だった。
 シーゲル・クラインは外交参事官としてジョージを迎えると、若きコーディネイターたちの教育係として、プラント・地球間の調整役の仕事を任せた。


「人生、何事もままならないもの。そんな単純な真実を忘れているものは多い。
 始まってしまったものをすぐに止めることなどできないが、交渉する意思があり、互いの落ち着くところを提示しなければ、双方が絶滅するまで戦うことになる。
 国務に携わるなら、それだけは避けなければ・・」
 ジョージの言葉に若手のひとりが眉をひそめた。
「相手がこちらを絶滅させるつもりであったら、どうすればよろしいのでしょう?」
 重い空気が支配する。先日行われたユニウス7への核攻撃はコーディネイターにとって、地球側の絶滅への意思と受け取られていた。
 ジョージもまた一瞬眉をひそめたが、すぐに答えた。
「分割して征服せよ、だ」
 かつて大英帝国という西洋の小さな島国が七つの海を支配した政治手法を口にした。
「地球側、そう一言でいっても実際には多くの政治勢力が存在している。我々の直接の敵である地球連合も、所属する国家間でプラントに対するスタンスも微妙に違っている。
 それらの利害を対立させ、敵を敵の敵とする。そして、相互の利害の調整者として君臨するのだ。
 いかなる勢力であろうと、利用する。
 敵よりも、裏切り者のほうが嫌われるものだ」
 苦いものを感じる。
 敵よりも裏切り者を憎む。
 ジョージは誰よりも知っていた。
「あの少年もそうだった・・・」
 ジョージはブルー・コスモスを去っとき、自らを燃やし尽くすような目で彼を睨みつけていた少年の姿を思いだす。
 ムルタ・アズラエル。今はブルーコスモス総帥として名高い。
 清浄なる大地のために、彼は今も裏切り者に制裁を加えているのだろうか。


「・・・待てよ?」
 ジョージはふと思いだした。
 あの少年に似た人物に最近逢ったことがあるような気がする。
「・・・おい、どういうことだ!」「あれは、交戦しているのか!?」「馬鹿な! 我々は民間船だぞ」「地球連合軍には話が通してあるはずです」
 何かを掴みかけたと思った矢先のことだった。船内の騒がしさにジョージはあたりを見まわした。
「なにごとだね?」
「出迎えの地球軍が何者かと交戦しています!」「なんだと!?」
 ジョージはシャトルの窓際に寄って外を眺めた。デブリ・ベルトを越えたあたり、地球軍との極秘の交渉で指定された会合宙域で戦闘のものと見られる激しい光が乱舞していた。
 その光の絢爛豪華な舞踏は、静かに、しかし、刻一刻とシャトルに迫ろうとしていた。
「地球連合軍第8艦隊より、退避指示が出ています!」「駄目だ! 間に合わん!」
 機長から状況報告が流れる。
「・・・そうか。そうだったのか!」
 ざわめく機内に、ふとジョージは気が付いた。あの少年によく似た印象を持つ男と、つい先ほど言葉を交わしていたことに。その連想は彼の血族の男に繋がった。
「なぜだ! ジンがこちらに!」
 誰かの悲鳴が響く。
 ジョージは窓の外にシャトルに銃口を向けるジンの姿を見た。その向こうに笑う仮面の男の影をジョージは鮮やかに思い描くことができた。
「フレイ!!」
 銃口が閃光をまとう。
 意識が消える直前、ジョージは大切な娘の名を叫んだ。




 からんと乾いた音をたててプラスチック製のカラフルなお盆がフローリングの床に落ちた。
「うそ・・・でしょ?」
 フレイ・アルスターは口元に手を当て、愕然とした表情で訃報を知らせに来たザフトの事務官と同行のラウ・ル・クルーゼを見つめた。ゆっくりと視線を泳がせ、沈痛な面持ちでフレイを見つめるラクス・クラインに面を向ける。
「うそよね? パパが死んだなんて、ねぇ、ラクス、そんなのうそよね?」
 衝撃を表情に凍らせて、それでも信じきれないように訊ねる友人に、ラクスは首を振って答えた。
「残念ですが・・・」
「いやぁぁぁあああああああああっ!!」
 哀しい絶叫が響く。
 それが、彼女の戦争の始まりだった。



あとがき

 ということで、スーパーフレイ様もの、開始です。
 今回はプロローグとして、どうしてこんなことになったのか、というお話です。
 次からは、ひたすらフレイ様マンセーなお話なので、やな人はあきらめてください。
 でも、フレイ様は相変わらずです。

 それでは。