One and Only my shining star : Another episode
遠き帰り路
Long way home...
機動戦士GUNDAM SEED
-- Another Side Story
Descripted by Veneficus.
第一話
環地球軌道軍事条約、すなわち、ZAFTのプラント本国防衛体制は三つの防衛圏によって成り立っている。
まず、ZAFT軌道艦隊による前衛封鎖線。
これは月、および、地球からの地球軍艦隊を事前に察知し、こちらに有利な状況で撃退するというものだ。
次にボアズ要塞を正面に月の地球軍第七艦隊を抑える、L4防衛圏。
ボアズ要塞はもともと地球軍がプラントを牽制するため設置した基地だ。開戦初頭にZAFTが占領して以降、月に対する策動拠点として重要な前進基地となっている。
最後にプラント本国、ヤキン・ドゥーエ要塞を中核にした絶対国防線となる。
この宙域にまで地球軍の侵攻を許した場合、プラントを構成する宇宙都市が地球軍の直接攻撃に晒されることになる。だから、本国を戦火に巻き込まないためには、ボアズで敵の侵攻を食い止める。それが最低のラインだった。
私、ZAFTの『赤』をまとうフレイ・アルスターの新しい任務地も、そのボアズになるはずだった、の、だけど・・・。
「さすがに簡単には直ってくれないわね」
フレイは兵器廠のドックに係留された大型の宇宙機を見下ろした。かつては純白の優美な機体は全ての装甲がはぎ取られ、フレームに包まれた機材が剥き出しになっていた。その一部は置き換えのためにごっそりと抜き取られ、何人もの作業者の手によって、配線のチェックが行われていた。
「機体よりも電子兵装の方が何十倍も高価だからね」
「ごめんなさい」
隣で修理の指示を出しているユーリ・アマルフィの言葉に私は頭を下げた。
「あ、いや。それよりも君が帰ってきてくれたことのほうがうれしいよ。それにかくやくたる戦果を上げてるんだ。
機体なんていくらでも直してあげるから」
慌ててユーリさんが手を振って答える。私はくすりと笑みをこぼすと甘えるように見上げた。
「それじゃ、いっぱい壊して帰ってきちゃおうかな?」
「それは勘弁願えないか・・・」
ユーリさんが途方にくれる。私たちは目を見交わして噴き出した。
ひとしきり笑いを収めると、ユーリさんはまじめな表情でアルピオーネを見た。
「しかし、実際、いいタイミングだったよ。中・長期の運用が機体にどれほどのダメージを与えているか、これで落ち着いて調べることができる」「そうなんです?」「ああ」
ユーリさんが端末を操作してアルピオーネのフレームにかかっていた応力負荷を表示してみせる。
「やはり、MAの戦闘機動はMSとは違うね。この側面の負荷はアルピオーネの機体ですら危険な領域に達しているよ。MSだったら手足がもげて吹き飛んでいる」
「そんなに振りまわした憶えはないんですけど?」
「体感の違いだよ。加速が正面に限定されているから、MSほど振りまわされるような無茶な加速はない。操縦席も機体重心に近いから、平衡感覚が試される機体だね」
私は無重力の中でひらりと身体を回して見せた。
「ふむ、フレイ・アルスター。身体には特に問題はないようだな」
その声の響きに不吉なものを感じて、私は振り向いた。
「クルーゼ隊長・・・」
そこには白い仮面で目許を覆った青年の姿があった。
表情を隠した仮面の向こうから、観察するような、いや、実際観察しているのだろう。それは普段私が男から感じる欲望を帯びた視線じゃない。涸れ果てた老人から感じる妄執にも似た気配に、私は鳥肌がたって腕を押さえた。
「君の活躍は聞き及んでいる。できれば、手を貸してもらいたかったのだがね。
機体がこの調子ではな」
そんな失望をこめた言葉にむっとする。
確かに先の戦果はイージス・アルピオーネの機体性能によるところが大きい。だからって、私が無力だってわけじゃない。
「別にアルピオーネでなくても、機体をいただければ、それなりの戦果を上げさせていただきますけど」
「失礼。君の腕前をけなすつもりではなかったのだよ。なにぶん、相手が相手なのでね」
私はその言葉に眉を顰めた。
ラウ・ル・クルーゼは辛らつでえげつないことを平然と行なう男だが、戦術的な目利きは確かだ。その男がアルピオーネをわざわざ必要とすると言うことは・・・。
「ラクスが、エターナルが見つかったの?」
「おやおや」
そう。ラクス・クラインに強奪されたエターナル級核分裂炉搭載MS運用艦は艦隊の中枢として機能するための旗艦機能が充実している。これまで数隻の戦隊単位で運用していたZAFTが本格的な艦隊決戦に備えるため、その前線指揮の中枢になるはずだった。
旗艦を高加速戦闘艦にするか、鈍速でも充実した防御能力を持った戦艦にするかは、地球軍とZAFTの判断は対象的だ。それはどちらが良いというわけでなく、双方の戦略ドクトリンの違いを示している。
少数の戦力を機動させて全面における機動戦を図るZAFTには、その機動に耐える旗艦が必要であり、大軍を擁して制圧を行なう地球軍は鈍速でも構わないということだ。しかし、アークエンジェル級高加速戦闘艦の成功で、地球軍もその艦隊運用を変化させつつある。
イージス・アルピオーネ、そして、その原型となった機動兵器イージスは前線での機動兵器運用を直接指揮に置こうというものだ。その管制能力はMS運用母艦数隻分に匹敵する。
ラクスの側にフリーダムとジャスティスという強力な機動兵器があればこそ、前線でのイニシアティブを維持できる指揮管制はいっそう重要となっていた。
「ふむ。ラクス・クライン、そして、アスラン・ザラとは君も少なからぬ縁があったな。
どうかね。我々に同行して君からも投降するよう働きかけてみる気はないかな」
「それは困る。フレイにはZGMF-X13ARの運用試験に協力してもらうことになっている。レドーム搭載ミーティアの運用試験もある」「そうかね。それは残念」
横から口をはさんだユーリをちらりと一瞥し、クルーゼは口で言うほど残念そうな様子も見せず、あっさりと肯いた。
「彼らはオーブの残党とL4の遺棄コロニーに潜んでいるようでね。念には念をいれて、そう思ったのだよ。
なにか言付けでもあれば伝えるが?」
「いえ、結構です」「そうかね」
きっぱりと首を振るフレイを見下ろすようにクルーゼが見つめた。
「では、結果は伝えよう」
片手をあげて背を向ける。
フレイはその背中をただ見送ることしかできなかった。
最終更新 $Date: 2006/01/30 12:23:46 $
文書 $Revision: 1.1 $