Lyrical Nanoha : SECONDARY PRODUCTION
It's a Sacred for the World.
Written by ヽ(゚∀。)ノうぇね

聖句 05


0.


 八神はやては鳴り響く着メロに、すぐさま車椅子のホルダーから携帯を取り出した。
 響くのは『星に願いを』。小鳥遊悠里(たかなし ゆうり)からの着信だった。
「悠里、なんや〜?」
 問いかける。電話の向うから、いつものちょっと照れた、それを無愛想な言い方で隠してるような、拗ねた声が響く。
『少し用事があって』
 悠里はいつまでたっても初々しいなぁ。
 はやてはにやけそうになる。悠里は孤児院、児童養護施設のお世話になっているから、携帯電話を持っていない。だから、この電話も共用の電話機がおいてある玄関傍からかけてきているのだろう。当然、長電話はできないし、使うときは事前に施設の人の許可を必要とする。悠里の側から電話をかけてくるのは、ちゃんと用事があるときだけだった。
 生真面目さんなんやからな。
 はやては思う。悠里は施設の世話になっていることに負い目を感じているような気がする。その理由はまだわからない。でも、いつかはそれも悠里から打ち明けてくれると、はやては信じていた。
「なんや、悠里。いきなり用件か? あかんで、まずは時節のあいさつからや」『いや、はやて。それ違うから』
 楽しいなぁ。
 はやては悠里とのかけ合いをしながら、思う。こんな風に誰かとうちとけて話せるなんて、思いもしなかった。こんな楽しい毎日があるなんて思ってもみなかった。
『それで、はやて。用件なんだけど、聞いてる?』「もちろん」
 わたしが悠里の言葉を聞き漏らすなんてあらへん。
 はやては笑う。
『む、結構大切な話なんだけど』「悠里の話はいつも大切やで」『ん』
 受話器の向こうで悠里が口篭る。
 あ、照れとる。
『あのね、はやて。いまちょっと怪しい組織に素行調査されてて、しばらくははやての家に遊びに行けない』「ええー! あかんで、それはあかん」
 悠里の言葉にはやては思わずブーイングを飛ばす。
「悠里は万難を排してうちに遊びに来なあかん。それはあかんで。独占禁止法違反や」『はやてはいいの?』「むしろ、わたしが法や」『む・・・』
 悠里が口篭る。はやては愉快に笑いながら、優しい声で問いかける。
「どれぐらい?」『ん。今からだと、3週間ぐらい』「そっか。ちと長いなぁ」『む・・・』
 悠里の困ったような声。あんまり困らせたらあかんかな。
「電話をかける分にはええんか?」『うん』「そか」
 はやては電話口に笑いかけた。
「ほな、電話だけで我慢したる」『うん。はやて、ありがと』
 照れたようにささやく声。くぅ〜、悠里、テラモエス。
 あ。変な電波受信しとったわ。
『あ、はやて』「うん? なんや?」
 慌てたように悠里の言葉が追いかけてくる。はやては首を傾げた。
『ちゃんと、はやての誕生日には間に合わせるから』「・・・」
 耳が熱い。
 悠里、ずるいで。こんなときに、それは反則や。
「絶対やで」
 甘えるようにささやく。電話口から響く、大切な人の声。
『うん』
 それは、大切な約束だった。

1.


 高町なのはさんはご家庭の都合でしばらく学校をお休みします。
 朝の先生の説明にアリサがふてくされたような、心配げな表情を浮かべるのを、すずかと顔を見合わせて苦笑する。
 なのはのいない一日。
 どこか元気のない二人と一緒にお昼を食べて、午後の授業をぼっと過ごす。
「ちょっと、悠里。あなたも暗いわね」「ん。まぁね」
 アリサ・バニングスがぶっきらぼうに心配してくる。俺は肩をすくめた。
「これを読んでたから」「セシュエーの『分裂病の少女の手記』? 難しい本を読むのね」「ちょっと必要があって」「ふぅん。・・・そういう話なら相談に乗れるわよ?」
 俺の顔を覗きこむアリサに微笑む。今はその気持ちが嬉しい。
「ありがと。・・・でも、もう少し自分で整理してから話すよ」「あんたがそれでいいならいいけど。けど、相談できるなら早めになさいよ」「ん」
 照れてそっぽ向く。そんなアリサに思わず笑いが零れた。
 離れるアリサを笑顔で見送って、俺は小さくため息をついた。
 小鳥遊悠里はここにいる。
 それだけは事実。揺るがせない現実だ。
 そう信じていた。でも、あんなことが起きると、少し自信がなくなるな。
 授業が終わる。俺はアリサやすずかに左手を挙げて挨拶すると、一足先にバスに乗る。
 上空には管理局の探査魔法が見える。
 俺はいつもの場所でバスを降りると、施設とは反対の方へ歩き出した。

 時空管理局L級次元戦闘艦アースラの会議室で、彼らはモニターに映る一人の少女が錯乱するさまを見つめていた。
 リンディ・ハラオウン艦長は痛ましげにその様子を見つめると、会議に参加している面々を見回した。長いテーブルの一番奥の少年、少女を見て、安心させるように軽く頷く。
「クロノ執務官、彼女が錯乱したときの状況を説明してくれるかしら」「はい、艦長」
 クロノ・ハラオウンが立ち上がった。
「要監視対象、小鳥遊悠里からジュエル・シードの励起した反応が確認されています。次元干渉も同時に観測されていることから、対象がジュエル・シードの制御を実現している可能性があります」
「それは僕も彼女自身から仮説として聞いています」
 観測データを表示しながらの説明に、ユーノ・スクライアが立ち上がった。
「彼女、小鳥遊悠里はジュエル・シードに取り憑かれたか、または、制御しています。たぶん、表層人格はジュエル・シードによって召喚された人格ではないかと思います」「ゆ、ユーノくん。どういうこと?」「以前、彼女、表層人格の悠里さんと話し合ったことがあるんだ。彼女の身に何が起きているのかを。彼女自身、記憶がないために混乱していたらしいよ」「そうなんだ・・・」
 隣に座る高町なのはの不安そうに見上げる表情にユーノが説明する。
「彼女、悠里さんはなんて言っていたのかしら?」
 リンディ艦長が首を傾げてユーノに問いかける。ユーノは心苦しそうに表情を歪めて答えた。
「・・・彼女、『悠里』は父親からの虐待から逃れるために、ジュエル・シードに自分を庇護してくれる存在を望んだのではないか、って」「え?」
 その言葉になのはの脳裏が真っ白になった。
 父親から虐待されてた?
「なるほど・・・」「・・・」
 リンディ艦長が頷く。同席するアースラの乗組員(クルー)たちも、ユーノに明かされた事実に痛ましそうな表情を浮かべていた。
「わたし、聞いてないよ・・・」「彼女自身は虐待の記憶がないから、よくわからないって言ってたし、ただでさえ、施設の子ということもあって、言い出せなかったんじゃないかな」「そう」
 なのはは俯く。
 知らなかった。孤児院だから家族がいないんだと思った。だから、家族みたいになりたいと思った。でも、彼女には家族ですら敵で。私は何も知らなかった。
 ふと、思い出す。あのアルフさんに言われた言葉を。
『何も知らない甘ったれた子供に、教えてやる必要なんかない!』
 彼女は、悠里ちゃんはその言葉をどう思っただろう。
「私は、甘ったれた子供なのかな?」「なのは・・・」
「これでわかったわね。彼女、副人格の小鳥遊悠里さんは庇護者である主人格が奪われるかもしれないという恐怖に反応して表に現れた。ジュエル・シードを制御する副人格はジュエル・シードを奪われることで主人格がいなくなってしまうことを恐れているのね。だから、今の身体の状態を検査しようという申し出も受け入れられなかった。
 ふう。厄介なものね」
 リンディ艦長がため息をつく。そんな母の様子にクロノが提案した。
「艦長、幸いなことに主人格の小鳥遊悠里は管理局に対して中立的です。彼女の問題はいったん棚上げしてもかまわないのではないでしょうか。ジュエル・シードが彼女の制御下にあるのであれば、刺激を与えなければ現状を維持できるものと思われます」「クロノくん・・・」「む・・・」
 クロノの提案になのはが感謝の視線を投げかける。照れたようにクロノが首を振った。
 その提案にリンディ艦長は頷いて同意を示した。
「それで行きましょう。小鳥遊悠里については現状維持、監視に務めます。優先としてはもう一つの捜索者。フェイト・テスタロッサの拘束と、ジュエル・シードの確保とします」
 リンディ艦長の宣言に同席する乗組員たちが敬礼で応えた。
 なのはも立ち上がるとクロノたちのもとに駆け寄った。リンディ艦長とクロノに礼を言うためだ。
「それには及ばない」
 しかし、クロノは逆に礼を言おうとしたなのはを止めた。
「僕が提案したのは彼女を囮にする行為だ。フェイト・テスタロッサはジュエル・シードを持つ彼女を無視できない。彼女を監視していれば接触する可能性が高い」
「それでも私はうれしいよ。クロノくんが悠里ちゃんのためによい方法を選んでくれたってことだもん。それに悠里ちゃんを守れば、中の悠里ちゃんも管理局を信じてくれるかもしれない」
「うん」「あらあら」
 照れて頷くクロノの姿にリンディ艦長が微笑む。
 なんとなく面白くなくて、ユーノ・スクライアは咳払いをしようと口元に手をあてた、そのときだった。
『艦長!』
 虚空に魔法陣が現れウィンドウが浮かぶ。エイミィが叫んだ。
「どうしたのかしら?」「・・・」
 リンディ艦長が表情を固くする。
『フェイト・テスタロッサが現れました! 小鳥遊悠里と接触するようです!』
「「「「!!」」」」
 目を見交わすと、彼らは艦橋へ走った。

Master, Magickal pattern detected.(マスター、魔力パターンを検出。) Identified.(識別しました。) Fate Testarossa has come.(フェイト・テスタロッサです。)
「ん」
 俺は思惑通りのフェイト・テスタロッサの出現に小さく頷いた。
「封時結界と同時にジャミングを開始。移動する」『All Right, master(了解いたしました。)
 周囲の時間が凍る。
 アースラからの監視が絶える。俺は胸元のセイクレッドに手を当て、杖を形成する。時空管理局にばれた以上、魔導師であることを隠す必要はなかった。
Stock casting(投射蓄積)』『Pseudo-Core is ready to ignite.(疑似コア活動準備よろし。)』『Round shield(ラウンド・シールド)』『Round shield(ラウンド・シールド)』『Round shield(ラウンド・シールド)
「・・・そこまでしなくてもいいんじゃ?」『She is 3 rank higher than you.(彼女はあなたより3ランクは上です。) It's necessary to prepare spells.(魔法の準備は欠かせません。) 』「ん」
 さすがに3ランク格上の相手に準備なしじゃ危険か。って、たしか、1ランク違うと勝ち目がないんじゃなかったっけ?
I'm your device to overcome everything you want to defeat.(私はあなたの望む全てに打ち勝つためのデバイスです。)
 うれしいこと、言ってくれるじゃないの。
 俺はうほっと危険な笑みを浮かべる。広域探査の必要はない。直接走査をするまでもなく、フェイトは俺の前に現れた。いつもと変わらぬ姿に、少しほっとする。
「へぇ、あんたも魔導師だったんだ」「そうだったんだ」
 アルフが俺の杖を見て、納得したように頷いた。フェイトはちょっと困ったような、戸惑った表情を浮かべる。
「うん」
 俺は頷いて答える。
「管理局が私をおとりにしてるって考えなかった?」
 フェイトがバルディッシュを片手に俺をまっすぐ見つめる。
「考えた。でも、その前に封印するから」「そう」「痛い目に合いたくなかったらさっさとジュエル・シードを差し出すんだね」
 俺は杖を前に伝える。
「管理局はまだ来ない。来れない」「・・・」『Get set.(起動)
 俺の言葉にフェイトがバルディッシュを構えた。
「どう言う意味?」
「アースラのセンサは今、ジャミングを受けて転送座標を割り出せないから、一番近くの場所に転送して飛んでくるのに、少し時間がある。だから、話がある」
 俺はフェイトに提案した。
「ジュエル・シード残りの6つは海に落ちてる。もし、手早く回収したいなら海中に直接魔力を流し込んで発動させるしかない」「・・・」「フェイトぉ」
 フェイトは警戒しながらも、何もしない。多分、わかってるんだ。この方法がどんな結果をもたらすかを。
 それでも、これにかけるしかなかった。あの母親のために。
「でも、そんなことをすれば、魔力を消耗しきって、封印するだけの余力が残らなくなる。あとは管理局に漁夫の利を占められるだけ。
 だから、私がやる」「!」「ちょっと、あんた何言ってるんだよ」
 俺の言葉にフェイトがはっと顔を上げた。
「私がジュエル・シードを発動させる。だから、後は好きにすればいい」
「あなたは・・・」「私のことは気にしなくてもいい。あとは、あなたとなのはで封印すればいい。だから、そう、私のことは見逃してほしい」
 フェイトがバルディッシュをぎゅっと握りしめる。
「できるの?」「もちろん」
 その自信なさげな言葉に俺は強く頷く。よし。乗ってきた。
「返事は今じゃなくていい。覚悟ができたら、呼んで」
 フェイトが逡巡する。ふと、感じる。この魔力は。
「なのはが来たよ」「何馬鹿なこと、・・・ほんとだ」
 アルフがくっと牙を剥こうとして、くんと鼻を鳴らした。フェイトがはっと我に返る。
 俺はフェイトに軽く右手を上げた。
「また、ね」「・・・」
 彼女は応えない。俺は立ち去るその小さな背中を見送った。

 とんと軽い足音とともに、彼女が俺の背後に降りた。
「セイクレッド、もういいよ。ありがと」『Welcome.(どういたしまして。)
 背後の彼女の軽い足音が近づく。俺は手の中の杖を消した。
「悠里ちゃん」「ん」
 俺は振り返ると臨海公園の海に面した手すりに背をもたれた。背が低いせいか、肩が当たる。その隣にアースラから駆けつけた高町なのはが立つ。
 ああ。綺麗だな。
 そう思う。
「お話を聞かせてほしいの」「うん」
 潮騒の音。涼やかな潮風に俺は空を見る。
「もうすぐ終わるよ。この事件」「にゃにゃ?」
 突然の俺の言葉になのはが驚いた声を上げる。俺はそんななのはの姿に思わず噴き出した。
「悠里ちゃん、酷いよ」「あはは、ごめん」
 拗ねて頬を膨らませるなのはの柔らかそうなほっぺに、俺は安らぎのようなものを感じていた。
「もうすぐ、終わる。だから、なのははあの子に伸ばした手を離さないであげてね」「・・・悠里ちゃん」
 この事件が終わると、はやての誕生日が来る。
 騎士たち、夜天の書。いったいどうすればいいのか。
「悠里ちゃん」「え?」
 なのはが俺の手を優しく両手で包んだ。
「あの子だけじゃないよ。悠里ちゃんもちゃんとこの手で離さないから」「あ・・・」「にゃはは、悠里ちゃんは少し泣き虫さんなの」「くッ」
 霞む目元を空いている手の甲でぬぐう。
「なのはは、私の魔法少女だね。ときに厳しく、ときに優しく」
 俺は精いっぱい微笑む。
「大事なものを守るんだ」「そ、そんなことないよ!」「あはは」
 慌てるなのはを笑顔で見守る。
「もうすぐ、プレシア・テスタロッサが動く。そもそもの原因は、ユーノ・スクライアの船を超次遠距離からプレシアが攻撃したのが始まり。アースラも位置を把握されていると判断した方がいい。大魔導師(アーク・メイジ)の攻撃は、厳しいよ」「え?」
 俺の言葉になのはが目を丸くした。
「なのはもことが起こるまでは身体を休めて。待つのも仕事のうち。わかった?」「う、うん」
 俺はよっと勢いをつけて身体を起こす。なのはの心配そうな目が気になった。
「なに?」「悠里ちゃん、無理してないよね」「・・・大丈夫」
 俺は軽く右手を挙げた。
 うん、大丈夫。

2.


 高町なのはの報告に、時空管理局巡航L級次元戦闘艦アースラ艦長、リンディ・ハラオウンは人差し指を立てて頬にあてた。
「そう、悠里さんがそんなことを」「はい」
「艦長、彼女はやはり危険です。このまま放置するわけには行きません」
 クロノ・ハラオウンが周囲から集まる視線を気にせず強く主張する。最近はあの小鳥遊悠里という少女にアースラ乗組員からも同情的な意見が出ているが、それに流されないのがクロノらしかった。
「とはいっても、悠里さんは特に管理局に不利益なことをしているわけではないのよ。むしろこの場合は被害者でしょう? それに強制的にジュエル・シードを取り出そうとすると、悠里さんも抵抗するでしょうし」「ですが・・・」
 クロノはなのはやユーノ・スクライアからの非難の視線に気がついて咳払いをした。
「コホン。ですが、一度、知っていることを洗いざらい問いただす必要があるんじゃないでしょうか」「確かにそれはあるのだけど、難しいでしょうね」
 リンディは首を横に振った。
「それよりもまず。エイミィ、最近の次元探査記録を調べてくれないかしら。本艦に対する探査の痕跡があるはず。大魔導師プレシア・テスタロッサが犯人だというのであれば、その周辺を洗う必要があるわ」「はい、艦長」
「艦長は彼女のいうことを信じるつもりですか?」「信じる、信じないではなくて、もし、何者かがフェイト・テスタロッサの支援を行っているとすれば、時空管理局がこの事件に出てきたことを知っているでしょう。それが、事件の発端となるユーノ・スクライアの調査船を攻撃したという可能性。引き下がればよし、そうでないとすれば」「管理局の艦、本艦を攻撃する可能性がある、と」「そういうこと」
 クロノの答えにリンディ艦長は満足げに頷いた。
「犯人が誰かはこれから調べること。今は相手の打つ手に対処することが優先だわ。油断をしてやられてしまっては、元も子もないですもの」
 リンディはぽんと手のひらを合わせた。
「なのはさんも悠里さんがいったように身体を休めて待機しておいてください」
「あ、はい」
 なのはは思わず背筋を伸ばした。

 俺は公園で一人待っていた。
 あれから一週間、多分、フェイト・テスタロッサ自身他に手はないか探していたのだろう。時折感じたアルフの影は、俺の周辺に管理局の動きがないかを見張っていたのではないかと思う。
「来たよ」「ん」
 現れた二人の姿に右手を挙げて応える。
 セイクレッドは彼女たちが転移してきた段階からその動きを捕捉していた。ただ、声をかけてくるまで待っていたのは、礼儀と言う奴と彼女たちがまだ俺のジュエル・シードを狙ったりしていないか確認するためだった。
 もっとも、俺だったら他のジュエル・シードを活性化させて疲弊したところを狙うけどな。
 俺は胸元にかかるセイクレッドに手をあてた。
「じゃ、始めようか」『OK, master.(わかりました。)
 俺の言葉にフェイト・テスタロッサとアルフがこちらを注視した。
 なんか、はずいよ。
 耳たぶが熱くなるのを感じながら、俺は顎を噛みしめ空を見上げた。そして奉げる。祈りの言葉を。
「いと高きところより来たりて 総てを統べたもう
 彼方此方にありて 総てを為したもう
 今、その御心はこの胸に 御業はこの腕に
 誓いの言葉とともに 目覚めよ セイクレッド・ワード!」
All right, my master.(了解いたしました、マスター。) ExtCore Awaking.(拡張コア起動します。)
 胸元のセイクレッドから伸びる碧の光が身体の奥に突き刺さる。これは魂に打ち込まれる契約のバイパス。セイクレッドが形成する疑似リンカーコアとわたしのリンカーコアを繋げる可能性のパイルだ。本来の使い方では常時接続するのだが、今のわたしのように動作を制限していればどうしても不慣れな接触部が痛みを訴える。
 あえぐように宙に両手を伸ばす。手のひらを空にかざし、痛みから逃れるためにわずかばかりでも大気中の魔力を吸収する。
 身体から余分な総てが掻き消える。代わって碧の魔力が身体に巻き付き魔力の衣を機織る。全身に絡み付く光が強力な魔力に物質化する。
 手の中には外部接続用の疑似コアが碧に輝く。それを手の中で回す。金色の固定具が現れ、三本の白いスティックが金の環に絡み付いた。大きく回す右腕の中でスティックが固定され、天に双対の握りから一本となった杖が形成された。融合型のセイクレッドには杖は不要だが、大規模な魔法を形成するときのための、照準用外部端末として疑似コアの焦点具を形づくるのだ。
 全身に走る碧を振り払うように杖を前に突きだす。身体の内から沁み出た魔法陣が回転し、わたしの拘束を緩める。全身を覆い尽くした魔法陣が物質化し、バリア・ジャケットを形成した。
 俺の身体を白と碧のバリア・ジャケットが包んだ。碧のチェニックに大きめの白のコートが裾を翻し、本来の俺の黒い瞳がユニゾン状態を示す青い瞳に変わる。
 俺はジャケットの裾を払って杖を手に宙へと浮かび上がった。
「始めようか」「・・・」「へぇ・・・」
 振り返ると奇妙に感心した声をアルフが上げた。フェイト・テスタロッサの方は・・・なに惚けてるんだ?
 俺はフェイトの様子に首を傾げるが、すぐに空へと意識を向けた。
「飛ぶ」『Light flier(光翼)
「あ、バルディッシュ」『Get set.(起動) 』「ほらよっと」
 俺の脚に浮かび上がった碧色の魔法陣がドラムのように回転する。そこから淡い光が放たれ、俺の身体は天に解き放たれた。空を見上げる。そこにはアースラからの探査術式が浮かんでいるのが見えた。たぶん、こちらが何をするつもりなのか見つめているのだろう。
 俺は海上にまで飛ぶとだいたいの感触を確かめた。自分の魔法で影響を及ぼせる範囲を見て取る。
「いける?」『Of course, Yes.(もちろんです。)
 俺は杖を両手でつかんで正面にその碧色の宝石を突き出した。
 今、俺のリンカーコアとセイクレッドの疑似コアは深いバイパスで繋がれていた。だから、行ける!
「集えよ光 汝、天と地を繋ぐ(きざはし)」『Jacob's Ladder(ジェイコブズ・ラダー)
 周囲から光が渦巻く。
 轟と大気をどよめかせ、俺の伸ばした杖の前に碧色の大きな光の塊が発生し、その周囲を包むように幾重もの環状の魔法陣が宙に刻み込まれる。
「そは太陽の瞳 遍く見渡す天球の守護」『Flare seeker(フレア・シーカー)
 俺を中心に虚空に数メートルの魔法陣の円盤が発生した。そしてその中心に淡い碧の光の球が生まれる。俺を包むように発生した光の球の内側にはいくつもの小さな魔法陣が張り付き、俺の意識に反応して高速に飛び回っていた。
「ちょ、あんな魔術の多重発動なんて無茶だよ!」「アルフ、静かに」
 環状の魔法陣に囲まれた碧色の光球は時間とともに膨れ上がる。
 そこに包まれた膨大な魔力にアルフは思わず叫び声を上げた。フェイトはそれを手で留める。初めて見る、でも、どこか見覚えがある術式だ。高度に洗練されたその術式は母親の編む術式に似て、要素ごとの機能は理解できるのだが、何をもってこれほど膨大な魔力を集約するのか、フェイトには想像がつかなかった。
 集積する力は自ずから発光し。
 これはもはや個人の魔力源というよりも、魔力炉の構築だった。
 俺は全身を駆け巡る膨大な術式を、冷ややかな気分で見つめていた。
 わかる。身体を構成する力の流れ、世界に刻み込まれた術式の組み合わせが織りなす、奇跡の御業が、俺にとってはさしたる構成でもない積み木のように理解できていた。
「これが人間拡張」『Yes, Master.(その通りです。)
 集積していく魔力はすでに個人が管理・制御できる限界を超えている。しかし、わかる。いかにこれらの膨大な魔力を消化すればいいのか。安定を保ったまま術式へのパスを繋げ力を流し込めばいいのか。
 膨大な思考。莫大な連想。普通の人間なら狂う。狂ってしまう。その知性の限界の果てに今の俺は当たり前のように立っていた。
 そう。人間拡張型デバイスは高度化し続ける魔術技巧(マジカトロジー)に対して、いずれ訪れる知性の限界を乗り越えるための融合型デバイスだった。
 社会を構成する要素技術が高度化するほど、その最先端に到達するための学習曲線は上昇する。そして、あるライン、一人の人間が一生学習し続けても理解できない境界が、知性の限界が訪れる。そこにはもはや知性による発展の可能性はない。人間という生物機械が構造上辿りつける果てがそこだからだ。
 人間拡張とは、それを乗り越えるためのミッドチルダ魔術の粋だった。
 人間の機能に限りがあるなら、その処理能力を別の手段で補ってやればいい。人造魔導師計画。戦闘機人。それらはすべて、この個人の能力の限界をいかに乗り越えるかに挑戦したものだった。
 多くの失敗を元に、わたしは当時完成しつつあった融合型デバイスを利用することを思いついた。幸運なことに古代ベルカ式の融合型デバイスを再現する過程で、管制人格形成や魔術のサポート能力を高めるのではなく、単純に人間の機能としての限界を魔術的に補い、使用者に融合することで魔導師単体としての処理・管制能力を大幅に向上させることに成功した。わたしはそれを拡張型デバイスと名付け、そのトップ・リファレンス・デバイスとして、この HueX-Uri シリーズの開発を。
 ・・・待て。なんだ。この記憶は?
 魔力炉を形成する術式を維持しながらも、客観的に状況を確認する思考の中に、俺の知らない誰かの思考が流れ込んでいた。
 これは祈りの言葉。そばにいてあげられなかったわたしから、そばにいてくれる私への誓いの句。
 誰だ?
 記憶の中に浮かび上がってくる中に俺は探す。
 始まりの言葉を告げたのは誰だ!?
 並べられる青い宝石。その中心に浮かぶ碧色の短剣のような宝石。それを置いた手は細く、宙に浮かぶ宝石に彼女が微笑みとともに顔を寄せ命の息吹を吹き込む。その大人びた表情はどこか見覚えがあって。俺は必死にそれが誰か記憶の中を探す。よく、よく知っているはずの人物だ。青い光に照らされて、緑なす黒髪の女性はショートに切り整えた髪を微かに揺らせて、告げた。
「光あれ」
「危ない!」「うっひゃー!」「くっ」
 意識が現実に跳ねかえされた。一瞬の制御ミスに溢れ跳ね飛んだ魔力が魔法陣の狭間から四方に無差別な奔流を叩きつける。
 俺は慌てて制御へと意識をむけた。誰だったのか。一瞬の理解は夢のようにすり抜け、集積した魔力のしぶきを浴びないようセイクレッドの疑似リンカーコアから自身のリンカーコアへ魔力の蛇口を広げる。
 溢れ返る魔力に全身の細胞がちりちりと焼けるように熱くなる。
「やる」
 俺は一言告げると、フレア・シーカーの術式にその魔力を結びつけた。俺の視界に映し出された小型の魔法陣が展開する。その数128。そこから同時に海面の一点に向けて碧色の魔力光が連続で投射される。ガトリング砲が回転するように次々と装填された魔力光が光の筋を走らせ、海面に方眼紙を塗りつぶすかのように打ち込まれていく。
 打ち込むたびに舐めるように海底の地形が俺の頭の中に再現されていく。次々と、次々と、装填された魔力光が海底をすき間なく走査する。
 と、一筋の光が、一瞬反応する。そこを打ち込んだ魔法陣が赤くなり、射弾を放つことなく止まる。ほかの魔法陣は休むということを知らないように魔力炉が集積した魔力を貪欲に消費して、海面を穿つ。
 また一つ。ジュエル・シードの反応を感知して、魔法陣が止まった。また一つ。そして、また。
 6つ目のジュエル・シードの反応を捉えて、俺は魔力弾を撃ち込むのをやめた。
「・・・」「ひょぉ〜」
 魔力炉はいまだ8割方魔力を保持しており、消費した分を補うべく大気から魔力への変換を行っていた。
 かちゃりとフェイトが俺を警戒するようにバルディッシュを構える。多分、本能的な自己防衛行動なのだろう。アルフの方は単純に示された力に感心しているようだったが。
「見た?」「ええ」
 俺の問いかけにフェイトが頷いた。その横でアルフががしがしと頭を掻いた。
「見たけどさあ。あんな一瞬じゃわかんないよ」「大丈夫。場所は押さえた」「ひゅー」
 俺の言葉にアルフが口笛を吹いた。
 俺はフェイトを見る。フェイトが物問いたげに俺を見つめた。
「ジュエル・シードを活性化する。私が手伝えるのはここまで。すぐに管理局も動くよ。あとは時間との勝負だから」「わかった・・・」
 フェイトは頷く。しかし、動かない。
「なに?」「どうして、ここまで手伝ってくれるの?」「・・・」
 フェイトの問いかけに、俺はため息をついた。
 どうして、か。
「似たような境遇だから同情した」「!」「なんだってぇ?」「という訳じゃない」
 うん。違う。これは同情じゃない。
「プレシア・テスッタロッサへの意趣返しというわけでもない。たぶん、私はきっと」
 心と向き合う。そう。
「何かを変えたかったんだと思う」「はぁ?」「・・・なぜ?」
 俺は肩をすくめた。
「ずっと、目を背けていた。知らない振りをして、関わらずにいた。でも、私は関わりたかった。この世界を、何かを変えたかった。ここに、生きているんだと、そう叫びたかったんだと思う」「だから、手伝ってくれたの?」「そう」
 フェイトが納得したように頷いた。む、あれだけでわかるとは、頭のいい子だな。あ、アルフはまぁ狼だしな。
 俺は杖を高く掲げた。
「行くよ?」「ええ」
 俺は先ほど見つけた6つの魔法陣に魔力を注ぎこむ。
 次の瞬間、海に叩きこまれた光条に、反発するかのように海が盛り上がり、6つの渦巻きが発生した。

3.


 アースラの艦橋からもその光景は観測できた。
 小鳥遊悠里の生み出した魔力の塊。そこから弾けるように飛び出した無数の光が海面全体を輝かせる。そして、確かに6つ、照らし出された海面から答えるような反射光があった。
「凄い。なんて魔力なんだ!」「悠里ちゃん凄いの!」
 そんな無邪気に喜ぶユーノ・スクライアと高町なのはを横目に、クロノ・ハラオウン執務官は艦長席の母親を見上げた。
「なんとも呆れた無茶をする子たちだわ。エイミィ、どう?」「はい。悠里ちゃんのジュエル・シードも活性化状態にあります。おそらく、ジュエル・シードを利用した魔力炉を形成してる模様です」「それにしても凄い処理能力ね」
 リンディ艦長はエイミィから送られてくる小鳥遊悠里のデータを見て眉をひそめた。
「ジュエル・シードを完全に制御しているということかしら」
「艦長」
 クロノの声にリンディが注意を向けた。
「どうしますか?」
 その言葉に込められた不穏な響きになのははユーノと顔を見合わせた。
「悠里さんがこの事件を早く終わらせたいのは確かなのでしょうね。あれほど秘匿に努めていた魔法を今度は惜しげもなく披露してみせる。まるで・・・」
 リンディは腕を組んでスクリーンに浮かぶ碧の少女を見上げる。
「それはちょっと考えすぎかしら?」
「小鳥遊悠里は異常です。あれは、個人になせる魔法の限界を超えている」
 クロノは虚空に浮かぶ魔力炉の術式を見た。
 理解できない。
 ミッドチルダ式の魔法のはずだ。要所要所の術式はクロノも見覚えがあるよく練られた構成だ。決して異形の魔術技巧ではない。そのはずなのに、全体として見たとき、その呪文集積が理解できなかった。
 光が疾る。
 海底にまで届く絞り込まれたレーザー光が6条、海中に叩きこまれた。発動したジュエル・シードが海を高らかに巻き上げ、渦から飛び散るしぶきが悠里とフェイト、アルフにかかった。
「悠里ちゃん、フェイトちゃん! あの、わたし急いで現場に!」
 その姿になのはは思わず叫んだ。
「その必要はないよ。封印に力を使い果たしたところを叩けばいい。「でも!」今のうちに捕獲の準備を」「了解」「・・・心配なのは小鳥遊悠里、彼女が邪魔をするかどうかだけど」
 立ち尽くすなのはにリンディ艦長が声をかけた。
「私たちは常に最善の選択をしなければいけないの。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実」「でも・・・」
 見上げる。スクリーンの中ではフェイトがバルディッシュを手に6つの起動したジュエル・シードと戦いを繰り広げている。だが、奇妙なことに悠里は動かない。アルフとフェイトの苦戦する姿を目の前にしながら、なぜか動かなかった。
 いや、悠里が空を仰ぐ。その唇が微かに動いた。
 なのは、と。
「!」『行って』『あ』
 なのはが振り向く。そこにユーノ・スクライアが微笑んでいた。なのはは転送ゲートへと駆けだす。彼女の名前を呼んでくれた友達の元に。
「はっ!」「あ」「ごめんなさい。高町なのは、指示を無視して勝手な行動を取ります」
 胸を張って、なのはが告げる。ユーノが素早く転送ゲートを操作する印を組んだ。
「あの子の結界内へ。転送!」
 なのはの姿が転送ゲートから消えた。

 遥か蒼空に転送ゲートが開いた。
「風は空に」
 俺は空を仰ぐ。
「星は天に」
 信じて待つ。
「輝く光は、この腕に」
 見せすぎたか、とも思う。でも、今はこちらに意識を向けていてほしかった。
 早く事件を終わらせて、はやてにマークが及ばないように。
「不屈の心はこの胸に!」
 見えた。
「レイジング・ハート、セットアップ!」
 厚い雲の向こうで起きる爆発的な魔力反応。その桜色の魔力はなのはの反応だとすぐにわかった。
Master, don't let down.(マスター、気を抜かないでください。)
 セイクレッド・ワードが脳裏に囁く。融合状態にある今、デバイスは俺の行動の邪魔をしないように神霊(ダイモーン)と呼ばれるモードに入る。
 それにしても、さっきから時折起きる意識の混濁状態は、なんだ?
 厚い雲を掻き分けて、光とともに少女が舞い降りる。
「ちッ、フェイトの邪魔をするなぁ!」
 俺はその神々しいまでの光景に、一瞬、我を忘れて見入ってしまう。そのため、アルフを止めるのが遅れた。
 畜生、やっぱ主役は登場シーンも格が違うぜ。
 俺は思わず頬が緩む。あ、アルフ止めなきゃ。
「あ・・・」「違う! 僕たちは君たちと戦いに来たんじゃない」「ユーノくん!」
 その前に、ユーノ・スクライアがなのはの盾になるようにシールドを展開した。
 淫獣、かっこいいじゃないか。
「あ」「まずはジュエル・シードを停止しないとまずいことになる」「あっ」
 ユーノの視線が一瞬俺に向けられる。フェイトは茫然となのはを見つめていた。
『馬鹿な。何やってるんだ、君たちは!!』『悠里ちゃん、大丈夫?』『うん』
 なのはの念話に肯定の意を返す。それになのはは微笑むと、フェイトの元へと飛んだ。
 俺はそれを確認して意識を引き締めた。この次にはプレシア・テスタロッサが来る。
『悠里さん、どう?』「長くはもたない」『そう』
 かたわらにリンディ艦長の通信魔法が開いた。ジュエル・シードの共振が俺の身体の中で激しく踊り続けている。俺は冷静にその制御に努めた。
「そろそろ来る」『対魔法防御』『艦長? あ、はい。対魔法防御』
 俺は空を仰ぐ。
 雨雲の下には桜色の魔法陣と金色の魔法陣が輝いた。そのさらに『向こう』から、こちらを狙う射撃用の誘導魔力が漏れて来ていることに気がついていた。
「せいのぉ!」
「サンダー・レイジ」「ディバイン・バスター」
 金と桜色の魔力が荒れ狂うジュエル・シードを捉える。その余波が激しい爆風となって俺のところにまで吹き荒れた。
 次々と、ジュエル・シードが封印されていく。
 ああ、これが初めての共同作業ってやつなんだな。
『ジュエル・シード、6個全ての封印を確認しました!』『な、なんてでたらめな』『でも、すごいわ』
 すぐ脇に開いたウィンドウでエイミィが高らかに叫ぶ。その背後からクロノとリンディさんの呆れた声がした。
 いや、俺の耳元でやるなよ。
 向こうではジュエル・シードを前になのはとフェイトが見つめあっている。
 一瞬、注意が逸れた。そのときだった。
『次元干渉。別次元から本艦、及び、戦闘空域に魔力攻撃来ます。あ、あと6秒』
 気づくのが遅い。間に合え!
「御身に触れることあたわじ。セレスティアル・ヘイロゥ」『Celestial Halo. (セレスティアル・ヘイロゥ)』『総員対ショック!』
 維持していた魔力の総てを疑似コアから魔法に注ぎこむ。
「悠里ちゃん!」「かあさん!」
 悲鳴めいた叫び声が上がる。俺は気にせず、開く次元ゲートとなのは、フェイトたちとの間に割って入り魔法を展開した。次元を超えて現れた赤黒い雷が襲いかかる。それを受け止めるべく碧の魔法陣とともに淡い光の霧が現れた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
 食い止める。闇のいかづちが幾重にも筋となり、俺の光の霞を深く食い破る。その余波が、時折、俺の身体を掠め、身体に雷撃が奔った。
「止めて、かぁさん!」
 フェイトの悲鳴が聞こえる。意識を抜いたのがまずかった。密度が薄くなった光の網をかいくぐり、いくつかの雷撃が後方に抜ける。なのはやユーノは飛びすさって避けるが、回避など思いもしないフェイトが直撃を受けた。
「うあぁ・・!」「フェイト!」「フェイトちゃん」
 ふっと圧力が消える。後方でふらりと倒れかかるフェイトをアルフが慌てて抱えた。しかし、そのまま、アルフはすぐ目の前のジュエル・シードに手を伸ばす。
 その手をアースラから転送してきたクロノ・ハラオウンのストレージ・デバイスが止めた。
「邪魔するな!」
 突き出した拳のまま吹き飛ばす。と、クロノがそのままジュエル・シードを三つ掴みとって吹き飛ばされるのが見えた。
 アルフは怒りの魔力弾を海面に叩きつけて、逃げ出す。俺は二人の姿を見送ると、魔力炉の術式を解いた。
「とりあえず、君にもアースラに来てもらおう」
 クロノが俺を見て言う。
 俺は一つため息をついて、頷いた。

4.


 八神はやては携帯電話を片手に濡れた髪にタオルを当てる。
「ほな、悠里の方はもう少ししたら方がつくんや」『うん。いま、追い込み』
 言葉少ない悠里だが最近は会えない間を埋めようとしてか、定期的に電話をしてくれる。その心遣いがはやてはうれしかった。
「あんまり無理せんてや。ほな、な」『おやすみ、はやて』「おやすみ」
 携帯が切れる。切断音(トーン)が一人の部屋になぜか響いた。
「さぁて、わたしも寝るかぁ」
 誰にでもなく告げて、はやてはベッドのわきまで車椅子を移動させた。ふと、頭を上げる。その視線の先の本棚には一冊の分厚い装丁の本があった。
「なんやろ」
 ふと、呼ばれたような感覚に、はやては本に手を伸ばす。
 届くはずがない。
 わかっていても、そうしなければならないような気がして。
 視線の先で、本が黒く輝いた。
「え?」『Anfang(起動)
 次の瞬間、激しい光とともに浮かび上がる本から、4つの人影が生み出される。その人影ははやての車椅子の前にひざまずいていた。
「な、なんや?」
「闇の書の起動を確認しました」「我ら闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」「夜天の主に集いし雲」「ヴォルケンリッター。なんなりとご命令を」
 あかん。もう限界や。
 はやては意識を手放した。

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Lyrical Nanoha : SECONDARY PRODUCTION Written by ヽ(゚∀。)ノうぇね