早咲きの薔薇
Code of Rose : the Second season.
薔薇と拳銃
1.
「相応しくないか・・・」
福沢祐巳は中庭のベンチに座り、ポケットからティッシュ・ペーパーに包んだキャットフードを取りだした。
にゃー、と微かに鳴く声がする。はっと目を落とすと白と黒のぶちの猫が祐巳の手のキャットフードを見て祐巳に鳴いていた。
「ごめんね、ランチ」
祐巳はばつが悪そうにキャットフードを包んだティッシュを開いてベンチに置いた。ランチは小さく鳴くとキャットフードを食べ始める。
祐巳はその様子に少し目を細めると、ベンチから空を仰いだ。抜けるような初夏の碧が目に沁みる。そんな青空だった。
「マリアさまの空。
・・・そんなこと、私が一番よく知ってるよ」
祐巳は言葉を続けようとして、口篭った。その人の名前を呟けば、泣いてしまいそうで。くっと口元を引き締め、青く晴れわたる空を見上げる。
桜の季節。
出会いの季節。
しかし、別れの悲しみはいまだ拭われたわけではなかった。
二条乃梨子は周囲のぎこちない空気にため息をついた。原因はわかっている。乃梨子はカールしたお下げを揺らして近づく元凶を睨みつけた。
「あら、乃梨子さん。そんなに眉を顰めていますと皺になりますわよ?」「瞳子、あんたねぇ・・・」
乃梨子は深いため息をついた。
翌日発行されたリリアンの学園新聞、リリアン瓦版に、いきなり大きく『紅薔薇さまに新たな挑戦者現れる!』と書かれていたのを見たとき、乃梨子は正直、この学園のノリについて行けないものを感じていた。
ああ、すべてはあの大雪が・・・。
もう幾度目のため息だろう。乃梨子は乙女の園の空気に染まれない自分を持てあまし気味だった。
「いきなりアレはまずいよ。そもそも、目的が違うし」
「あら、紅薔薇さまも『私は誰の挑戦も受ける』とおっしゃっておられたじゃありませんか。私はその紅薔薇さまの言葉どおりにしただけです」
言ってない。言ってない。
乃梨子は自分の突っ込み体質が少し悲しかった。
「とりあえず、紅薔薇さまに謝りに行こう?」
「・・・ですから、私は謝らなければならないことなど、何一つしておりません!
私はあの人が落ちつきなくきょろきょろとして、あれこれ気を回している姿が紅薔薇さまに相応しくないと、そう申し上げただけです。なぜ、私が謝らなければならないのです!」
「絶対、伝わってないよ・・・」
乃梨子はあの庶民派っぽい紅薔薇さまの諦めたような笑顔を思いだす。
あの一年生が大勢押しかけたことに嬉しそうに人数を数えて室内の椅子の勘定をしていたツイン・テイルの少女が、一転、深い笑みを浮かべていたのだ。乃梨子は先ほどまでの子供っぽい少女の姿とのギャップに心の奥底を揺すぶられるような衝撃を覚えていた。
これが、彼女が紅薔薇である所以なのだろうなと思うと同時に、哀しかった。この少女は紅薔薇になるために血を流しながら、固まりきっていない殻を剥いで、脱皮しなければならなかったのだ。
乃梨子は大きく息を吐くと、瞳子に目を向けた。純真で汚れを知らぬ少女は、なんて残酷なのだろう。
「それでも、福沢さんにこれのお礼を言っておいたほうがいいって」
乃梨子はかわら版を叩いた。そこには新年度に向けての山百合会の方針について、薔薇さまがたへのインタビューが載せられている。その中で、昨日の騒ぎについて紅薔薇さまからフォローがされていた。
『私は早咲きの花だから』
その言葉は乃梨子にとっても結構衝撃的だったりする。
『足りないところもきっと多くて、だから、気負わずいろいろ言ってくれると嬉しい』
きっとこの人は自分が大成しないことを知っている。
『遠慮はなしで。そう言う意味では今年の一年は期待大かな』
もし、あのままだったら瞳子や乃梨子への風当たりはこんなものでは済まなかっただろう。
「行きたいのでしたら、乃梨子さんだけでどうぞ。私、今日は演劇部の入部を申し込みに行きますの」
「そっか」
少しだけ申し訳なさそうに告げる瞳子に乃梨子は肯いた。
「じゃあ、私も帰るかな」「ごめんなさい」「ん」
瞳子がちょっとだけ、しおらしく頭を下げる。もっと素直になればいいのに、と思う。
乃梨子は軽く手を振って、鞄を手にした。
放課後の校舎のどこか雑然とした空気の中、乃梨子はふと、違う帰り道もいいな、と考えていた。
2.
放課後の校舎はどこか静かで寂しい。
私は鞄を片手に階段を降りた。人のいない中庭を横目に下駄箱に向かう。
きっと今ごろ正門回りは下校する生徒でいっぱいなんだろうと思うと、あまり急ぐ気にはなれなかった。
突然、すごい勢いで角を曲がる少女が飛び出してくる。
「っと、ごきげんよう、
黄薔薇の蕾」「ごきげんよう。・・・あら、あなた」
何事もなかったかのように済ました顔で、
黄薔薇の蕾はさっと片手で乱れたスカートのプリーツを正す。私はその一瞬の変わり身の早さに思わず感心していた。
「この間、薔薇の館に来てた娘ね」「あ、はい」
頷く私を品定めするかのように、ううん、品定めしてる、
黄薔薇の蕾が私を上から下まで見回した。
「あなた、
紅薔薇さまか、
白薔薇さまを見かけなかったかしら?」
「・・・いいえ」「そう」
私は少し考えて首を振った。うん。今日はお二方とも見かけていない。
黄薔薇の蕾もあまり期待していなかったのだろう。あっさりと首肯する。
「じゃ、もし、
紅薔薇さまを見かけたら、薔薇の館に来るよう伝えていただけないかしら。見かけたら、でいいのだけど」
「わかりました」「お願いするわね」
そして、
黄薔薇の蕾は気持ち急いで歩き出した。
きっと、私の姿が見えなくなったら、走り出すんだろうな。
黄薔薇の蕾は、たぶん、出会う人みんなにそれをお願いしているんだと思う。
紅薔薇さまをご指名なのは、私のような一年生でも話し掛けやすいから。
なんとなく、会う人会う人に薔薇の館に向かうよう言われて目を白黒させる
紅薔薇さまの姿が容易に想像ついて、知らず笑みを零していた。
ああ、なんて愉快なんだろう。
さぁ、帰ろう。
明日もきっと楽しくなる。
毎日が波乱万丈な
紅薔薇さまほどではないけれど、きっと素敵な日々が待っている。
そんな、なんとなくハイな気持ちで中庭に出る。
仰ぐ空は快晴。マリアさまの空だ。
と、ふと、私の耳に、小さな猫の鳴き声が届いた。
私は思わず辺りを見回す。
もう一度、小さく鳴く猫の声が響いた。その鳴き声は中庭の奥にある木陰から聞こえていた。
ちょっとした悪戯心だった。私は両手で鞄を下げたまま、その木陰を覗き込んだ。
そこに、木陰に置かれたベンチに座って一人の少女が眠っていた。
力なく投げ出された指先に、白と黒のぶちのある猫がじゃれついては小さく鳴き声を上げる。小さな肩が静かな鼓動とともに微かに揺れる。伏せた顔に髪がかかり影を作っている。その左右の髪をまとめた深い緑色のリボンが風に揺れていた。
静かな景色。
私は一瞬言葉を忘れた。
なんて小さな人なんだろう。
この華奢な身体に元気をつめて、頑張ってる。
その姿に私は痛ましさを覚えずにいられなかった。
「・・・
紅薔薇さま? 祐巳さま?」
起こさぬように、呼びかける。このことは、多分、誰も知らない。そんな静かなひとときを邪魔したくない。でも、この人を一人にしたくなかった。
もう一度だけ、声をかけよう。
そして、祐巳さまの親しい方に祐巳さまがここにいることを伝えよう。
これは祐巳さまの特別な時間。
汚してはいけない大切なひとときだ。
私は1歩踏み出した。
祐巳さまの膝の上の猫が逃げ出す。祐巳さまが小さく身じろぎをして、影になっていた顔を私に晒した。
激しい衝撃が私の胸を打った。
身動ぎした祐巳さまの頬を一筋の涙が伝っていた。
心臓がばくばくと激しく私の胸を打つ。頭にかーっと血が昇るのを感じた。私は見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて周囲を見まわした。
このことは誰にも知られてはいけない。
そんな確信が私にこんな不審な行動を取らせていた。
カシャッ。
身体が凍り付く。
「あら、ごきげんよう」「・・・」
振りかえったそこには写真部のエース、武嶋蔦子さまのお姿が。
ああ・・・。いきなり、撮られてしまいました。
3.
桜が誘う。
そこは二条乃梨子が見つけたとっておきの場所だった。
講堂の裏の銀杏並木。
そこに一本だけ、染井吉野が咲き誇る。
乃梨子がその場所に共感を覚えるのは、自身が異端者だと知っているからだろうか。
マリアさまのしめおろす乙女の園。
そのなかで一人、敬虔と言いがたい仏像愛好家の乃梨子は、言うなれば逆隠れキリシタン。周囲を見ると、蝶よ花よとばかりに育ったお嬢さまがたばかり。
これで生え抜きの庶民である乃梨子に少しばかり嫌がらせでもしてくれれば、なにくそとばかりに戦う闘志も沸いてくるのだが、マリアさまの園に集う乙女たちは皆さんそろって何くれとなく困ったことやわからないことはないかと訊ねて来る始末で、むしろ乃梨子自身が罪の意識に苛まれるばかりだった。
だから、きっとこれは運命。
リリアン女学園で二人だけの反逆者が、出会う約束の場所。
なんて。
講堂の角を曲がったそこには、桜の下で舞い散る花びらと戯れるマリアさまの姿があった。
「あ、
白薔薇さま。やっぱりここだったんだ」「祐巳さん」
明るい声が二人を呼びとめる。
振りかえる視線の先に、
紅薔薇さまこと、福沢祐巳さんが明るく微笑んで手を振っていた。
「ごきげんよう、えっと・・・」「二条乃梨子です。ごきげんよう、
紅薔薇さま」「うん、ごきげんよう、乃梨子ちゃん」
名前を告げる乃梨子に、祐巳さんは明るく挨拶をやり直す。
ああ、こういうところが人気の理由なのだろうな。
乃梨子は思う。乃梨子はちらりと横目で
白薔薇さま、志摩子さんと見比べた。
白薔薇さまには惹きこまれそうな美しさを感じるが、小さな花を満面に広げてお日様に笑う野辺の花のような明るさも、素敵だと思う。
そして、その花に儚さを覚えてしまうのは、きっとあの笑顔を知っているから。
「でも、祐巳さん、どうしたの?」
「ああ! そう、和んでる場合じゃなかった!
由乃さんが怒ってるよ。なんだか、残ってる生徒という生徒に私たちの居場所を聞いてるんだって」「まぁ」
志摩子さんが口元に手を当てる。確か、由乃さんというと、たしか、三年の生徒会長の従姉妹とか。
「祐巳さん、どうしましょう?」「私もちょっといろいろばたばたしてたから・・・」
2年生の同格の生徒会長ふたりが同級生の怒りに慌てる姿はちょっとコミカルで乃梨子は思わず吹き出してしまう。
そのためか、二人の視線が乃梨子を捕らえた。
「ちょっと、乃梨子ちゃーん、今の笑いはなにかなぁ?」
「ひゃッ!」「まぁ、祐巳さんたら」
危険を察知して逃げようとした乃梨子を両脇からするりと伸びた腕が抱きとめる。思わず悲鳴があがり身体が固まった隙に、ふんわりと柔かな感触に包まれる。
「ちょ、紅薔薇さま! 冗談はやめてください」「祐巳さん、ついにお姉さまを越えたわね」「白薔薇さまも見ていないで助けて!」
「あー、乃梨子ちゃん、意外とあるんだ」「そんなとこ触らないで!」「なにがあるの?」「んー・・・、悔しいから内緒」
必死に逃げ出した乃梨子は志摩子さんを盾に祐巳さんから距離を空けた。おろおろと見守っていた志摩子さんが困ったように告げる。
「ね、祐巳さん。そろそろいかないと由乃さんが怒ってると思うの」「あ゛・・・」
ぽんと
紅薔薇さまが手を叩いた。
「それじゃ、乃梨子ちゃん、気をつけてね。ごきげんよう」
明るく手を振って立ち去る
紅薔薇さまを乃梨子は安堵の気持ちで見送った。
「はぁ・・・」「ごめんなさいね。気を悪くしたかしら?」
思わず零れた溜め息に、志摩子さんが首を傾げて申し訳なさそうな表情をする。その愁い顔も綺麗だな、と見取れそうになった乃梨子は慌てて首を振った。
「あ、いえ。少し驚きましたけど」「そう」
志摩子さんは安心したようににっこりと微笑む。
「それじゃ、ここでお別れね。ごきげんよう」
「は、はい。ごきげんよう」
乃梨子は慌てて頭を下げた。
下校する生徒のピークは去り、ちょうどいい時間だった。
薔薇さまがたも結構気さくなものなんだ。
乃梨子は明日自分を待つ嵐も知らず、足取り軽く家路を急いだ。
4.
「それで薔薇様がたは、何処で、何を、しておられたかしら?」
一字一句区切るように、島津由乃は腰に手を当てたっぷりと遅刻してきた
紅薔薇さまと
白薔薇さまを睨みつけた。
「「ごめんなさい」」
こんなときの由乃には逆らわないことが賢明だとわかっているのだろう。福沢祐巳と藤堂志摩子の二人が仲良く頭を下げる。由乃的にはその仲良くというのがちょっと気にいらなかったが。
「まぁ、由乃も押さえてよ。二人とも遊んでたってわけじゃないんでしょ?」
さりげなく
黄薔薇さま、支倉令が助け舟を出す。由乃はちょっとむっとして振りかえった。そんな由乃に令ちゃんがウィンクする。
「あはは、ちょっといろいろとお話してたら、遅くなっちゃった」
令ちゃんの言葉に併せて、由乃のご機嫌を伺うように祐巳さんが見上げて来る。
くッ。いけない。ちょっとくらっと来てしまった。
「それで、
紅薔薇さまはちゃんとお手伝いをお願いできたのかな?」「あ、もしかして令さま、見てました?」「!?」
あれ? 志摩子さんが驚いたように祐巳さんを振り向いた。
「祐巳さん、あの子はまだ一年生よ?」「へ?」
志摩子さんの言葉に祐巳さんがはてなマークを宙に飛ばす。
「ああ、違うよ、志摩子さん」
何かに思い至ったように祐巳さんが慌てて首を振る。
「令さまと同じクラスの、三年生の方にマリア祭のお手伝いをお願いしてたの。あの娘のことじゃないよ」「そ、そう・・・」
「ふーん・・・」
由乃はにやりと志摩子さんに笑いかけた。
「志摩子さんは一年生のことアイビキしていたんだ」
「えええ! そうなの!?」「いえ、そんな・・・」
志摩子さんは言葉を濁して顔を伏せる。
そんな志摩子さんをかばうように、祐巳さんが大きく腕を回して答えた。
「私のほうはお願いできましたから。来週から美冬さまに薔薇の館のほうに来ていただくことになりました」
「な、美冬さまって、祐巳さんマジ!」「祐巳さん!」
思わず叫ぶ。志摩子さんも目を丸くして祐巳さんを見てる。祐巳さんがしまりのない表情でへらっと笑った。
「うん。きっかけは祥子さまのことだけど、山百合会の活動に興味を持ってもらえるって大切なことだと思うんだ。だから、上級生の方にお願いするのは心苦しいけど、美冬さまにぜひお手伝いしていただきたかったの」
由乃は深くため息をついた。
「これだから、祐巳さんは・・・」
「
紅薔薇さまが決めたことだから、私はそれでいいと思うよ。それで
白薔薇さまは?」
「私はまだ・・・」「そう。あまり時間がないから、早くね」「はい」
「志摩子さん、なんだったら私が桂さんや真美さんにお願いしようか? 蔦子さんにはもう写真係をお願いしちゃったんだけど」「いいえ。大丈夫」
祐巳さんの申し出を志摩子さんは首を振って断る。
「明日にでもお願いしてみるわ」「そう・・・」
祐巳さんが心配そうに志摩子さんを見る。ちょっと祐巳さんは志摩子さんに過保護だと思うのよね。
令ちゃんと視線を交わす。
これはひとつ、荒療治が必要だ。こういうとき、家が隣同士というのは好都合だった。
「じゃ、今日の仕事を始めようか」
令ちゃんの言葉に、仕事の残件整理を始める。
さて、どんな趣向にしようか。
しかし、由乃は頭の片隅でいろいろと考え始めた。
5.
Trurururu, trurururu...
「あら。蓉子のほうから電話かけてくるなんてね」
佐藤聖は久しぶりの友人の声に茶化すような色を押さえきれなかった。
『そうだったかしら。いつも私のほうからしか連絡していなかった気がするのだけど』
皮肉な響きに聖は笑いがこみあげてくる。
「でも、それは連絡事項があったりしたときでしょ? 今回は違うわよねぇ」『・・・』
揶揄する言葉に電話の向こう側の声が押し黙る。
『・・・・そうよ。わかってるなら、さっさと教えなさいよ』
「んー、どうしよっかな」
『悪かったわ、聖。お願い。祐巳ちゃんの様子を教えて頂戴』
「くっくっく。蓉子も可愛くなっちゃって」『聖!』
真っ赤になって電話に叫ぶ姿すらはっきりと見て取れる。聖はそんな蓉子の姿に笑いを禁じえなかった。
蓉子もすっかり祐巳ちゃんに調教されちゃったよね。
あまりからかいすぎると後が怖いので、聖はここらが加減と切り上げた。
「わかってる。うん。・・・ずいぶん参ってるみたい」
自然と声が重くなる。
「カメラちゃんに聞いただけなんだけど。本人は意識してないけど、やっぱり心細いんだと思うよ」『・・・』
電話の向こうからため息が聞こえる。
『祐巳ちゃん、私と話すときはいつも、大丈夫です、としか言ってくれないの』「そうだろうね」
聖はあの少女の姿を思い描いて同意した。そう。あの少女は頑張りすぎて倒れてしまうほど頑張ってしまう。そんな真っ直ぐ過ぎる誠実さが危うくて。
「目が離せないな」『ええ』
二人して苦笑した。
『学生生活を謳歌するのもいいけど、頼むわよ?』
「わかってる。志摩子のこともあるし」『ああ。それもあるのよね』
「そんなに心配ならリリアンに残ればよかったのに」
『悩んだわ。でも、そんなことしても、あの娘は喜んでくれないから』「まぁね」
聖も祐巳ちゃんが意外と頑固なことを知っていた。
「でも、大丈夫。きっと祐巳ちゃんが頑張ってくれるから」
これは信頼だ。
『頼ってくれてもいいのに・・・』
未練がましく呟いた蓉子のせりふに、聖は肩をすくめた。
駄目だ。このお姉さまは妹のことになると当たり前のように駄目駄目だった。
お昼の薔薇の館でテーブルに一部のリリアンかわら版が広げられた。
先日に続いて大見出しのタイトルが紙面に踊っている。
『今年も激突!? 再戦、白紅、蕾対決!』
祐巳は志摩子さんと目を見交わし、ため息をついた。志摩子さんもどうしましょう、という表情で困っている。祐巳は志摩子さんを安心させるよう苦笑して軽く肯いた。
「真美さんも最近ちょっとお姉さまに毒されすぎてるんじゃないかなぁ」
祐巳はぼやきとともに紙面の内容を確認していく。
「まぁ、薔薇さまのネタは人気があるからね。でも、ちょっと最近はエンターテイメントが優先されすぎてるかな」
令さまも苦笑とともに答えた。
祐巳はいくつかの事実誤認をチェックして、後々の話し合いに備える。
生徒の自主性を重んじる点から、検閲や記事の修正は好ましくない。それにかわら版編集部も目玉になる記事は欲しいのだ。山百合会からは露骨にならないよう、記事の方向性を修正していったほうがいい。
祐巳は令さまや志摩子さんと話し合う。
白薔薇さまに環境美化委員の委員会活動の紹介をしてもらうのが一番だろう。
そして、祐巳は最近ちょっと多いなと思いつつ、薔薇の館の窓から外を仰いだ。
・・・マリアさま、今年もこれですか!?
Last modified $Date: 2005/10/01 07:57:49 $
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